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修学旅行の夜


俺たちは校庭でリーフを回収し城に帰りついた。道中リーフはまだ帰りたく無さそうだったが仕方ない。

「では、私は女王様への謁見許可を得てきます。ナガイ様、リーフ様は部屋でお休み下さい」

そう言うとフィンは去って行った。

「シュンジ、お婆様に何か用事?」

「ああ、ちょっとタノミがあるんだ」

「なになに?リーフにも教えて!」

「あとでな」

さて、部屋に戻っても暇だし。リーフと勉強でもするか。

「リーフ、ヘヤでベンキョウしようぜ?」

「いいよー!」


部屋に戻った俺たちは早速、言語学習を始める。

にしても初めてまだ1日なのに俺は聞き取りはほぼ問題ない。喋る方はまだ拙いが、ホントに凄い。勿論、土屋未来の日記も役に立っている。

「シュンジの行っていた学校の話して」

リーフが無邪気に聞いてくる。学校か…俺にとってなんだったんだろ?勉強をして武蔵タケクラと剣道して、西口たち率いるカースト上位組みや先輩方のおかげで基本シカトされてたけど……でも俺は楽しかった。

「オレはさ、ガッコウではムシされてたんだ」

「何で!?」

俺は事の経緯を説明した。リーフは黙って聞いている。

「―そうしたら、オレもイヤガレセされたわけだ。でも、タノシカッタ……

こっちにキタときさタケクラもいたんだ……なのにあいつシんでた……いみわかんねーよ」

なさけねーさっき泣いたのに俺はまた泣いている。そんな俺をリーフは抱きしめてくれた。

「シュンジはやっぱり優しいね。きっとその友達もシュンジに感謝しているよ」

リーフは俺が泣き止むまで抱きしめて俺の頭を撫でてくれた。

「ありがとうリーフ、あーそのかっこワルいところみせたな」

「そんなことないよ!また、シュンジの事話してね」

しばしの沈黙、俺たちはその中で見つめあう。

「ゴホン!」

ビクッと音の出所を見ると髭男爵が立っていた。見てたのかよ!リーフは顔を真っ赤にしてうつむいている。

「ナガイ様、女王様の準備が整いましたので謁見の間へどうぞ」

「あ、はい。リーフも来るか?」

「う、うん」

俺たちは不自然に距離を取り謁見の間へ向かった。なんでかって?はずがしいジャン!


「お待たせしましたわ、永井様。おや?リーフも来たのね」

「すいません、わざわざ時間を取って貰って」

「立ち話も疲れますので、どうぞお座りください。リーフも掛けなさい」

「はい、失礼します」

「はーい、お婆様。シュンジが話があるだって!」

「ふふ、聞いているわよリーフ。永井様、お話とは一体どのようなものでしょう?」

俺は深呼吸をし意を決して話し出す。

「実は、お願いがあります。俺に魔術を教えてください!」

女王はこちらの真意を探るように俺の目を見つめている。あーやっぱり家族なんだなリーフに顔の作りや目の色が似てるな。じゃなくて俺は話を続ける。

「俺はクラスメイトたちをオーガから助けたいです。でも今の俺には無理だから強くなるために魔術を習いたいんです」

師匠達の小説ノートは読んだが、所詮は読んだだけ。この前の偶然みたいなものだ、基礎が出来ていないので出来る者に教えを請うのは当然だ。

「永井様、他のスプラウール様方を助けられるのでしたらなぜこの国に助力を請わないのですか?」

これは試されてるんだろうな。

「俺はそんなに頭は良くないですが分かります。ただでさえ宣戦布告をされているのにも拘らず国同士の話にあったら間違いなく戦争になる。それにスプラウールには政治的な利用価値もあるんじゃ無いですか?だから俺は一人でやります!」

「心意気は大変結構かと。しかし、現実的に無理では無いでしょうか?確かにあなた様方が持つ力は強大です。しかし、一国相手に戦って勝つのは不可能です。それに具体的な策は考えてあるのですか?」

「…それは…まだ考えて無いです…」

俺は力なく俯く。そんな俺にリーフが問いかけてくる。

「ねぇシュンジ?シュンジが助けたいのはさっき話してくれた人たち?」

「あぁ、そうだよ」

「そっか、やっぱりシュンジは優しいね!お婆様、私はシュンジを助けたいよ」

俺は顔をあげてリーフを見る。太陽の様な笑顔、見てると不思議と力が沸いてるくる。よし、俺はもう一度気合いを入れ直し、女王を見る。

「確かにまだ具体的な方法は考えてません、でも俺は助けたい!どうか俺に魔術を教えて下さい!」

俺は椅子から立ち上がり頭を下げた。どのくらい時間が経っただろうか?女王が口を開く。

「頭を上げて下さい、永井様。」

俺は頭を上げ、女王を見た。リーフに似ている暖かい笑顔を浮かべていた。

「お掛けください。試すような真似をして申し訳ありませんでした。お覚悟確かに拝見しました。そして先程、永井様が仰った通り失礼な言い方ですが、スプラウール様には政治的な利用価値があります。まずは我々がオーガの国ジャボォスに対してどう対処しようとしていたかをお話致します」

「我々はまず戦争を避けるため、話し合いの席を設けましたが、軍門に下れの一点張り。ただ一点気になる点がありました。それは、ジャヴォスの国王であるデイザが出てくるのでは無く、大臣のルイマが出てきたのです。国王であるデイザは大変思慮深く、争いを好む方ではありません。そこに何か陰謀を感じておりましたが決定的な証拠も無く、我々は軍門に下るという結論を出しました」

「あの、戦わないのですか?」

「えぇ、普通ならば戦うという選択肢もとれるでしょう。しかしながら、我が国と彼の国では軍事力という面で大きく力の差があります。挑めば敗北必死、そういった形で吸収されれば更に扱いが悪くなるでしょう。それならば、初めから抵抗せず軍門に下った方が良い。それがこの国の私を含む上層部の出した結論です。笑って頂いても結構ですよ」

女王は自虐的な笑みを浮かべている。

俺ならどうするだろうか?負けると分かってても戦うだろうか?

(一人じゃ無理なら他に頼めば良いんじゃないか?)

「他の国に応援を頼むとかは?」

「えぇ、それも考え交友のある国に声をかけましたが……返事は色良くありませんでした。おそらくは既に何かしらの条約が結ばれているか、あるいはジャヴォスと共謀しこの大陸を手に入れる算段をつけているのだろうと思います。ただ、いくつかの国は共に立ち上がろうとなりましたが戦力的には勝てる見込みがありません、そこも見込んでの事なのでしょうね。有り体に言えば詰みの状況です」

「かなり、厳しいですね」

「はい。お恥ずかしいお話です。しかしながら、あなた様の協力さえあれば勝てる見込みが出てきます」

「えっ?俺ですか?」

「はい、正確にはあなた様方ですが。先程、述べた通りスプラウール様の力には利用価値があります。どこの国も欲するのですよ。ですので、ジャヴォスに捕らえるられたスプラウール様救出に他国も協力してくれるでしょう」

「じゃあ、皆助けられるんですね!?」

「ただし、救出したスプラウール様は全て別の国で保護という形になるでしょう。それに全面戦争となれば犠牲も避けられません。万が一の場合もございますので確約は出来ません。更に我が国も大量の血が流れるでしょう。ですので、我が国が協力する条件がございます。永井様に正式に我が国のスプラウール様になって頂きたい」

「正式に……?ってどういう意味ですか?」

「政治的な利用価値がある、先ほどそのように申し上げました。はっきり申し上げます、利用させてもらうという事です」

「あの……具体的には?」

「リーフと結婚していただきます」

結婚?結婚かぁ……

「はぁぁぁっ!?」

謁見の間に響き渡る俺の絶叫。当のリーフはというと、

「シュンジ、うるさい」

このように超冷静。

「うるさいってお前はいいのかよ!?」

俺の質問にリーフは顔を赤くする。

(かわいいなぁ)

じゃなくて。

「うん!だってリーフはお姫様だから国の為に結婚するのは当然だよ。それにシュンジだったら……それともリーフじゃやだ?」

上目遣いに聞いてくる、ホントにかわいいなチクショウ!

「いや、やだとかじゃなくて俺たちまだであって数日とかだろ?いきなり結婚って言われても……」

沈黙が場を支配する、女王が助け船を出してくれた。

「永井様、悪い話ではないと私は思います。おそらくナガイ様も他のスプラウール様同様、これから帰る術をお探しになるのでしょう。個人で探すのと国の力を使うのはどちらが有効でしょうか?」

「それは国ですけど……」

「えぇ、その通り。また、他国に行った際に何か揉め事に巻き込まれたりした場合に個人と国だとどうでしょうか?」

「国です……」

女王は頷き続ける。

「その通りです。これは身内自慢になりますが、リーフは愛らしい容姿ですし、回復魔術の名手として大陸に名を馳せています。その2人の御子が出来たとなれば間違いなく歴史に名を残す傑物になるでしょうね」

子供って!俺まださくらんぼマークが付いてるよ!ん?まてまてリーフがすごいのが分かったがまさか……俺たちのこの転移者ボーナス(仮)って受け継がれるのか!?

「あの、女王様、つかぬ事をお聞きしますが過去にもスプラウールの子供が偉業をなしたんですか?」

「えぇ、幾度も。この際ですので永井様にお伝えしておきます。スプラウール様との間に出来た子は個体差はありますが、強大な力を宿しています」

俺は絶句する。利用価値の一つがこれなんだろう。

「でも、勘違い為さらないでください」

何をだろう?女王の顔がふと和らぎ、リーフに似たあたたかい笑顔で続ける。

「貴方様だからこそ、大事な孫娘を預けるのです。伊達に長く生きていません、数日ですが貴方様がどんな人物か分かっているつもりです。それに運命だと思いました―チキュウには100以上の国があるとお聞きしております。にも拘らず再度、ニホンからお越しになられ孫娘の命を救ってくれた。その縁を大事にしたいとも思います」

あぁ、そうか。この人は女王としてさっきまで話してたんだ。当然だよな国の頭なんだから良い方向に導かなきゃならない。

そしてこれは孫娘を思う祖母としての言葉か。

「それに……永井様には残念な事ですが、帰る方法見つけられたかたは一人もいないはずです。確かに伝説にはありますが、あくまでも伝説です。ですので、こちらでの生活基盤を築くという意味でもあなた様には都合が良いと思います」

「……少し時間をください」

そう答えるが精一杯だった。

「それは当然でしょう。ですが、あまり時間はありません。軍門に下るかどうかの返答の期限が15日後と迫っています。永井様の返答次第で対応を協議しますし、他国への根回しもありますので、3日以内にお返事をお願い致しますわ。さて、今日は この辺りにいたしましょう。 夕食は後でフィンに運ばせますわ。ゆっくりお休み下さい」


そうして女王との謁見は終わりを告げた。


俺は割り当てられた自室のベッドの上で悶々としていた。

女王の言ってることは正論だと思う、確かに生活基盤がないとどうしようもない。

(よくよく考えたら、俺ホームレスじゃねぇか!)

受けるべきかなやっぱり、でも結婚って……

そんな風にグルグルと思考はさっきから同じ所を回っている。

コトッという音と共に俺の意識は引き上げられた。音の出所を見るとフィンがそこに立っていた。

「申し訳ございません。ノックをしたのですがお返事が無く、何かあったのかと思い勝手に入らせて頂きました」

「あぁ、そうなんだ。夕食ありがとう」

「悩まれている様ですね」

「まぁな……」

「リーフ様とのご結婚はお嫌ですか?」

「何で知ってんの!?」

「ふふ、城内はその話で持ちきりですよ」

「あぁ……そうなのね」

「何を悩まれているですか?とても良い話だと思いますが」

「悩むって言うか混乱してるんだ。いきなりこっちに来たと思ったら今度はいきなり結婚だ、正直どうしていいか分かんねぇ……ただ、捕まってる連中は助けたいと思う。それにリーフは可愛いし優しいよ。俺じゃ不釣り合いだろ?」

「不釣り合いなど、そんなことはありませんよ。悩まれている時は、自身の原点に戻ってみるのが良いのではないでしょうか?」

原点――っていってもなぁ。俺の脳裏にふと武蔵の顔が浮かんだ。……あいつら埋葬だってしてやれてねぇ。

「フィン、頼みがある。俺をあの崖の上に連れて行ってくれないか?」

「あの崖とは?ナガイ様が私を救って頂いた辺りですか?」

「あぁ、そうだ」

「申し訳ありませんが、不可能です」

「はぁ!?何でだよ!」

待て!落ち着け俺!さっきスプラウールには利用価値があるって話をしたばっかりだろ。フィンは命令に従ってるだけだ。

「ごめん、怒鳴って」

「構いません。おひとつお伺いいたします。なぜそこに行きたいのでしょうか?」

俺は事情を説明した。

「なるほど、ご友人方の埋葬を……しかしナガイ様申し上げにくいですが、森には獣の類いがいます、おそらく亡骸は食い荒らされているかと」

「……それでも行きたいんだ!」

「個人的にはお連れ致したいですが……私にも組織人としての立場がありまして……」

そうだよな、あーどうしよ。突然リーフ窓から飛び混んできた。

「3人で夜の散歩に行こう!」

「何でそんな所にいるんだよ!?」

「だって恥ずかしかったんだもん」

かわいなぁ、じゃなくて。

「さっきの話もしかして聞いてた?」

「うん」

ぎゃー!恥ずかしくて死ぬ!誰か俺を殺してくれ!

フィンの野郎知ってて黙ってたのか!見るとクスクス笑っている。

「ねーフィンいいでしょ?」

「いえ、しかし」

今日の朝、かっこつけて立場を笠に無理なお願いするなった言ったのに、早速リーフに頼るのか俺よ、カッコ悪すぎだろ……

(背にはらはかえらん仕方ないね)

「頼むよフィン」

俺もお願いする。そしてついにフィンが折れた。

「はぁ~分かりました分かりましたよ!ただし、危険だと判断した場合はすぐに引き返します!決行は深夜です、それまでは休んでいて下さい」

「「はーい」」


部屋にノックの音が響く、俺は扉を開けノックの主を部屋に招きいれる。入ってきたのは2人、マントを羽織ったリーフと鎧を纏ったフィンだ。

「約束の刻限になりました。ナガイ様、行きましょう」

「はい、シュンジ。これ着てね」

リーフがマントを手渡してきたので受け取ってそれを羽織る。

「ありがとうリーフ」

そして俺たちは城外を目指すべく部屋を後にした。

「なぁ、フィンどこから出るんだ?表は衛兵が見張っているだろ?」

「抜け道がありますのでそれを使います。ん!止まって下さい」

そう言われ俺もリーフも壁に張り付いて止まる。気分は映画のスパイだな!

フィンが壁から顔を出し様子を伺う、おそらく衛兵がいるのだろう。フィンが手でジェスチャーをする、俺とリーフはフィンに続き廊下を渡った。

「……いつもと巡回ルートが違います。おそらく今日抜け出す事がばれてますね……ただこちらを本気で捕まえる気がないようなので、このまま行きましょう」

「ばれてるって、誰に?」

「お婆様と騎士団長だと思う」

フィンが頷く、あの女王俺を泳がせてるのか?何を考えてるんだか……

その後も隠れながら進み、俺たちは大広間へと来た。その部屋の中央には女神像が配置されており、俺達はその像の前で立ち止まった。リーフが女神像に手を翳す、するとリーフの手が光ると共に女神像の手も発光する。

「これでよし!じゃあ行こう!」

リーフは俺の右手取る、

「失礼します」

フィンが残った俺の左手を取った。そして、リーフは空いている手で女神像の発光する手に触れた。目の前の景色が歪んだと思ったら俺たちは森の中にいた。

「は?どうなってんだ?」

「ふふーん!すごいでしょ!」

いや、すごいなんてもんじゃねーだろ!

「これはねミライ様が遺してくれた術なんだよ」

「スプラウール様のみが使う事が出来る秘術をミライ様が何かのためにと王家の方も使えるように改良し遺されて下さったのです」

スプラウールだけが使えるって、日記に書いてあったやつか!

「じゃあ、土屋未来の術は空間転移?」

「そうだよ!えっとね、あらかじめ決められた場所を行き来できるの」

「行ける所はここだけなのか?」

「いくつかありますが……申し訳ありません。国防にも関わる為場所はお教えできません」

まぁそうだわな、にしても一瞬で移動とかすげーな、チートじゃねえか。

「でも、使えるのはリーフとお婆様だけなんだけどね」

「で、ここどの辺りなんだ?崖は近いのか?」

「永井様の目的地である崖までは少し歩かないといけません」

そして俺たちは目的地を目指し歩き出す。道中、色々な事を話した例えば、

「シュンジ、言葉すごく上手になったね!もう自然に話せてる」

言われて気付いた、そう言えば普通に話せてるな。

「やっぱり必要だと覚えるんだろ」

「もう、勉強終わり?」

「まだまだ終わりじゃねーよ。それにリーフに日本語教えないとな」

「やった!日本語もっと教えてね」

「うらやましい……」

ぼそっと直ぐ後ろで声がしたので振り返る。

「なんなら、フィンにも教えようか?」

「よ、よろしいのですか!?」

「あのさ、学校の屋上で話した事覚えてるか?」

「もちろんでございます」

「頼みがあるって言っただろ?俺に魔術を教えてくれないか?変わりに俺は日本語教えるからさ」

俺はまたフィンに頼み込む。

「わたしなどでよろしいのですか?宮廷魔術様や騎士団長の方が…」

「いやでも、フィンは副団長なんだろ?じゃあ相当魔術もすごいんじゃねーの?それに俺はフィンがいいな」

「そうだよ!フィンはすごいんだから!フィンも一緒にニホンゴ教えて貰おう?」

フィンが立ち止まる、釣られて俺たちも立ち止まった。フィンはその場に跪くと宣言する。

「その大任、謹んでお引き受けいたします。そして永井様、私にニホンゴをお教えください」

大げさだな、まぁ引き受けてくれたしいっか。

「おう、こっちこそよろしくお願いします」

そんな調子で俺たちは目的地を目指した、そして俺は始まりの場所に戻ってきた。

俺は周りを見渡す、そこには散乱した骨と布きれだあるだけだった。この布きれは色から見て制服だろう。さっきまでの和気藹々とした空気はなく、俺たちは見える限りの骨を一箇所に集めるのだった。

「しまった、掘る物がねぇ…」

キラリと光る何かが目に入る。俺はそれを拾い上げる。長さは十センチ位だろうか、なんだろこれ見た事あるんだよな。

「それは、オーガの角ですね。しかし、かなり立派な物ですね」

フィンに言われ思い出す。俺がへし折ったやつか!ちょうどいいやこれで掘ったろ!そう思い掘ろうとするとリーフが地面に手を向け何かを呟く。すると風が巻き起こったと思ったら穴が開いていた。

「このくらいでいい?」

(魔術万能すぎない?)

そんなこんなで埋葬を終え、土の上に墓石の代わりの大き目の石を置いて花を添えた。

「ごめん、誰が誰だか分からなくて……こんな墓でも安らかに眠ってくれ」

そして俺は目を閉じ語りかける。

(なぁ、武蔵。お前のスマホ取り返して必ず日本に持って帰るからな)

そして、目的を達した俺たちが帰路に着こうとした時、どこからか声が聞こえた。

「へ~い……誰かそこにいるのかい?ちょっと助けチクリ~」

何だこのふざけた声は?俺は気のせいかと思い二人を見る、二人とも困惑している。フィンは困惑しながらも杖を構え油断なく周りを見ている。

「おいおいおい、無視はよくないぜ」

ん?これ日本語だ!

「おい、誰だ!日本人か!?」

「お、聞こえてるジャン。こっちこっち」

フィンを先頭に俺たちは呼ばれているほうに進んだ。

「ここだぜー!」

辺りを見渡すが誰もいない、しかし声はする。

「何処だ!何処にいる?」

「アンタの足元だ!この土どけてくれ!」

足元?俺は下を見ると、そこには土に半分埋まったメガネがあった。

(これはこのフレームは俺のメガネじゃねーか!良かった!見つかって)

俺は土の中からメガネを慎重に取り出すと壊れてないかを確かめようとして動きが止まった。

「いや~助かったぜ!誰もいなくてよ!あれ、良く見たら所持者マスタージャン!お久さ~」

……俺は無言でリーフとフィンを見る。2人とも俺の手のなかの物を凝視している。

「お~い所有者マスター?感動しすぎて喋れないのか?」

「メ、メ、メガネが喋ってるぅぅぅ!」

俺の絶叫が山に響き渡るのだった。







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