表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

お土産は買えそうにも無い

 

 俺たちは駆ける。何故だろ?俺にとってはどうでもいいはずのクラスメイト達を俺は今、心配している。

 気持ちだけが逸る。にしても西口は相当早い。俺たちの先頭を走っているが。どんどん差が開いていく。何でだ?

「見ろ!」

 江藤が前方を指差す。灯り?違う!火だ!燃えてるんだ。西口は躊躇なく飛び込んで行く。少し間を置き俺たちもそれに続いた。

 そこで見たものは、複数の鬼と連れ去られ行く女子達、そして変わり果てた安藤の姿だった。

 俺はその場に硬直したまま、視線を動かす。安藤が血だらけで倒れている。生きてるのか?

(糞!何だよこの状況は!)

「皆を離せ!」

 西口が叫ぶ。鬼達はニヤニヤしてこっちを見ている。言葉は無くても伝わるぜ、糞ムカつく。

 鬼の数は14、5人といったところか、睨み合いを続けていると奥から一際大きな右目に傷のある鬼が出てきた。

 他の鬼たちとは雰囲気が明らかに違う、恐らくは隊長とかそういうのだろう。手に持った大剣をこちらに向け、何事かを叫ぶ。

「#:*)*!」

 だから分かんねーよ!そう叫ぼうとしたら安藤がきつそうに喋りだした。無事だったか……

「こいつら、勝てばお前らに従う、負ければ自分たちのものなれって言って襲ってきたんだ……」

 鬼たちに捕まっている鹿山とおどおどした子は不安そうにこっちを見ている。

 ……?待てよ、安藤はこいつらと会話が成り立ってるのか?どう言うことだ?それに鬼、何かが引っかかる。

 委員長が皆を代表して質問する。

「安藤君。辛いと思うが答えてくれ、彼らと会話が出来るのか?」

 安藤が辛そうにしながら答える。

「うん、分かる。あいつらの言っている事、僕は分かるよ」

 傷鬼が俺たちの会話を遮る様に吠える

「!!!」

「とりあえずよ、こいつら何て言ってるんだ!?」

 江藤の質問に安藤が答える。

「勝てば返してやる、ただし、負ければお前たちも連れて行くだって……」

 それを聞き西口が安藤に言う。

「俺が戦う!そう言ってくれ!」

 ―俺は怒りに燃える西口を目にし少し冷静さを取り戻す。そして考える。勝てるのかを、周りを見ると1人の比較的小柄な鬼が倒れている。

「安藤はこいつを倒したのか?」

「偶然だよ?避けるので精一杯でたまたま突っ込んできた所に木の棒を合わせたら倒せただけだよ」

 なるほどな、つまりは俺たちにも勝機があると言うことだ。安藤は運動や武道をしていなかったのに倒せている。西口は剣道部、江藤は野球部、俺は武蔵の剣道に付き合っていたし、師匠達にも鍛えられている。身体能力も上がっているし、もしかしたら俺たちはかなり強い部類に入るのかも知れない。そんなことを考えていると安藤が西口の言葉を傷鬼に伝えた。目の前に立つ鬼はどうやら了承したようで、武器を構える。そして西口は落ちている―鬼が使っていたであろう剣を手に取り構える。

 気付けば俺達は鬼に囲まれていた。俺達を逃がさないように。

 場の空気が一気に緊張感を増す。固唾を呑んで見守る中、戦いが始まった。

 先に動いたのは傷鬼だった。上段からの打ち下ろし、西口はそれを受け止める。が、弾かれる。西口の口から苦悶の声が漏れる。

「くっ……!」

 嘘だろ?俺たちの身体能力はかなり上がっているはずだぞ?それでも受けきれないか……

 尚も、傷鬼の攻勢は続く。打ち下ろした鈍器を今度は打ち上げる。

 西口は受けるのを辞め回避に徹する。それが正解だろうな、あんなの受けきれん。

 傷鬼はその巨体から、凄まじい速度と威力で打ち込みを続ける。しかし、その悉くを西口は回避する。当たり前だ。傷鬼の攻撃は確かに凄まじい威力を秘めているだろうが、その全てがテレフォンパンチで予測が簡単なのだ。特に西口のように剣道をやっているのなら尚更だ。

 そして、隙を見つけた西口が叫びながらその胴体に剣を打ち込んだ。

「喰らえっ!!」

 決まった!誰もがそう思った。しかし鬼には全く効いてなかった。それどころか、奴は呆然としている西口の隙をついて強烈な横凪ぎを放つ、西口は何とか剣で合わせるが、そのまま吹き飛ばされた。

「西口!」

「西口君!」

「悟!」

 俺たちは口々に叫びながら、西口に駆け寄ろうとする。それを立ち上がり手で制し。

「大丈夫だ!まだやれる!」

 その様子を見て鬼の顔に亀裂が入ったような笑顔を浮かべる、それは愉悦だろうか?そして、鬼が西口へと手を向ける。

(なんだ?)

貫け(ツェンブロ)

 一瞬辺りに光が満ちた。ドサリと音を立て、西口がその場に倒れこむ。俺は見た。鬼が向けた掌から、稲妻が走り西口を貫くのを。俺達は今度こそ駆け寄った。肉のこげる匂いがする、西口を見ると服は焦げ、所々肉は爛れ、火傷をしているが意識はあるようだ。

「はぁ、はぁ、すまん…負けてしまった」

 江藤が鬼を睨み付けながら言う。

「俺が仇取ってきてやる!」

 西口はよろけながらも立ち上がる。

「ダメだ……皆で逃げるんだ、俺が時間を稼ぐ……」

 傷鬼を見ると、こちらをじっと見ている。そこに周りを囲んでいた鬼の1人が傷鬼へと近づいていき何かを手渡した。少しの間、傷鬼は手元を見た後、何かをこちらに向けて突き出した。

「コレはなんだ?って言ってるよ」

 頭に血が上っていくのが分かる。見間違えるものかアレは武蔵のスマフォだ。こいつら死体を漁ったのか!

「お前ら、逃げる準備しろ」

 皆が一斉に俺を見る。

「何言ってんだよゲロメガネ!女子達捕まってるんだぞ!?」

「ちょっとは考えろよ!いいかさっきのは明らかに魔術だ!勝てるかどうかも分かねーのに挑むのか?それは自殺だろう!おまけに囲まれてる、皆でかかれば周りからやられるだろうな!でもよ、敵さんご丁寧に一対一を所望しているその隙をついて1回逃げて立て直すしかねぇ!」

 俺は江藤の胸倉をつかんで叫んだ。

「じゃあどうやって逃げるんだよ!?」

「いいか、よく聞けよ。異世界転移で俺も混乱していたようだが思い出した、こいつらはオーガだ。弱点は角、アレを見ろ」

 空いてる手で安藤が倒した鬼を指差した。見事に角が折れていた。

「思い出す?永井君、君は――」

「委員長、今は時間が無い。誰か俺が戦っている最中にお前らはあいつらの角へし折って逃げろ。まさか、出来ねーなんて言わねーよな?野球部の4番バッターの江藤さんよぉ」

 挑発的に言い放ち、突き飛ばす。力なく尻餅をついたかと思うと、

「はっ……はっはっはっ!やってやるよ!あいつら全員バックスクリーンまでぶっ飛ばしてやるよ!」

 そう叫び、西口が使っていた剣を持って立ち上がった。そして、驚くべき事に西口も立ち上がった。

「おまっ、お前大丈夫なのか!?」

「なんとかなっ……」

 覗いている傷口を見ると既に回復が始まっており、治りかけている。

(どうなってるんだ!?)

「永井、お前じゃなくて俺が時間を稼ぐっ……!」

「悪いな、お前は逃げるんだよ。俺はアイツに用が出来た」

「なっ!何言ってるん――」

「あのスマフォさ、武蔵のなんだわ」

 黙りこくる一同。

「それに、俺はお前達を引っ張るなんて出来ないしする気も無い。だから、それが出来るヤツがいるだろ?つー訳でお前ら、俺が傷鬼と戦ってる間に逃げろ」

 少しの沈黙の後、皆が頷いた。

「分かった、必ず人間の街を見つけて戻ってくる!死ぬな永井!」

「はっ!死なねーよ!安藤、お前はどうだ?」

「僕は……無理だ動けないよ……置いて行ってくれ。それに女子たちを守るのがBグループの僕の仕事だ……」

 かっこいいじゃねーか。俺はその姿を見て更に奮い立つ。

「安藤、俺が戦うこと伝えてくれ!」

 安藤は頷き、目の前の鬼に伝える。ヤツは了承したようで笑いながらこっちを見ている。

「永井君。御武運を」

 委員長に頷いて答え。俺は素手で構えを取ると、それを見た傷鬼が部下に目配せをした。すると目の前に剣が投げ込まれた。

(使えってことか?)

 ヤツを見ると頷いたので、俺はそれを拾った。

(へぇ~本物は意外に軽いんだな)

 そして俺は傷鬼もといオーガと対峙した。後ろでは西口達が隙を伺っていることが気配で分かった。剣を正眼に構え目の前の敵に語りかけた。

「よお、オーガ。初めましてだな。俺は永井舜司。そっちは?」

 言語は理解できなくても、雰囲気で分かったのだろう。鬼が唸る。

「*#)(:)」

 ……うん、分からん。俺はゆっくりと息を吐くと鬼に肉薄した。

「ふっ!」

 俺はジャンプし上段から切りかかる。所謂兜割りだ。それに対しオーガは大きく顔を仰け反らせて避ける。

(やっぱり角が嫌か!)

 だったらそこを狙うまで。

 しかし、そこまで甘くなかった。着地した所を容赦なく鬼の攻撃が降り注ぐ。サイドステップで上段からの打ち下ろしを避ける。凄まじい風圧が通り過ぎる。

(ひぇっ、近くで見るとヤバイ!)

 続いてオーガは横凪ぎの一撃を見舞う、俺はしゃがんで回避する。そのまま俺はアッパーの要領で下から剣を切り上げる。鬼は多々良を踏んで回避する。お互いに体制を整え、再度にらみ合う。

 鬼が掌をこちらに向ける。

(やばい!アレか!)

貫け(ツェンブロ)

 オーガが唱えるより一瞬早く、俺は大きく横に飛び地面を転がった。ギリギリ避けれた。あちらの慢心のおかげだろう。立ち上がろうとするところを何度も魔術が襲い掛かる。俺はごろごろと地面を転がりながら避ける。周りからはオーガ達の笑い声が聞こえる。

(あぁ、そうか。遊ばれてるんだな)

 ギリギリ避けられるように魔術を放ち弄んでるのだろう。だが、これは好機だ。

 そもそも魔術があるんだ。じゃあ、魔力があるはずだ。俺にだって使えるはずだ。思い出せ師匠達の言葉を。思考を過去と現在()に切り分ける。


「自身の中に目を向ければそこに魔力があるのじゃ。それにな弟子よ、人間やる気になれば何でも出来るもんじゃよ」


 分かる!体の中に暖かいものがあるのが。何度目かの雷撃を避け、俺は立ち上がり剣を正眼に構える。傷鬼は尚も愉悦を浮かべながら、掌を向ける、冷や汗が流れる。

貫け(ツェンブロ)

 死を告げる言葉が聞こえた。母との約束が、望先生との約束が頭をよぎる。

(出来る!俺なら出来る!絶対出来る!何度も唱えたろ!何度も描いたろ!それに―)

「死ねねぇんだよっ!誓おう(スェール)吹きぬける事を(スティバイ)!」

 ――俺はその場から跳んだ。俺は眼下、そう眼下を見る。始めに枝を目掛けて跳んだ高さのゆうに3倍は跳んでいる。成功したのだ、風の中級強化術が。ヤツを見ると、俺が消えたのでキョロキョロとしている。そして、空中でクルリと回転し手近な枝を蹴り、弾丸の如く、オーガに突っ込んだ。

(狙いは角!今がチャンス、たたき折る!)

 俺に気付いたのか顔を上げる、視線が交錯する。すぐに迎撃体制をとるオーガ。

(遅い!)

 一瞬の交差。

 バキッという音が響き、見事、右角をへし折った。

「Gooooo!!!」

 オーガの絶叫が響き渡る。見ると頭を抱え込んでいる。

 一頻り叫び終わるとヤツが俺を睨み付けてくる。ゾクリと背中に嫌な物が走る。その目は血走り、残った左角からはバチバチと電気が迸っているのが見てとれる。

 その姿を見た周りの鬼達が撤退を開始しようとしている。女子二人はそのまま担がれ連れ去れようとしている、止めようにも俺は身がすくんで動けなかった。

 剣を強く握り、正眼に構え対峙する。

雷光よ(レイドル)迸り(ベン)貫きとうせ(ツェンナブロ)

 そう魔術を唱えたかと思うと俺は凄まじい衝撃に襲われた。

「かはっ!」

 気付けば大木叩きつけられていた。その衝撃で魔術が切れる。

 身体強化をしても尚、目で追う事が不可能な速さで奴は動いている。俺はふらふらと立ち上がる。

(…はぁっ…はぁっ…追撃がこない?)

 血に染まる視界には、傷鬼が手当たり次第に暴れまわり破壊の限りを尽くしているのが映る。

「敵も味方も関係なしかよ……」

 その呟きが聞こえたのかは分からないが、ジロリとヤツがこちらを見る。何度目か分からない視線が交錯する。

(来るか?)

 意外な事に攻撃はこず、何かを話しかけてきた。

「()#*'&?」

「はぁっ……分からねーよ」

 荒い呼吸で答える。それを見た傷鬼は剣を構える。そして、再度、衝撃が俺を襲った。結構な距離を吹き飛ばされる俺。

 持っている剣を杖がわりに何とか立ち上がる。雷が目の前に落ちたかと思うと傷鬼が目の前に立っていた。

 後ろに目を向けると、その先に地面は無く崖になっているようだ。

(そう言えば、崖になってるって言ってたな……)

 傷鬼が目の前で何かを言っているが、ふらふらの頭には入ってこなかった。

 そして、一際、大きな雷を剣に纏わせたと思うと俺へと降り下ろした。なすすべ無く吹き飛ばされる。

(……あぁ、ここまでみたいだな……)

 俺の体は深い闇へと落ちていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ