与えられないもの
鳥のさえずる声が聞こえる。光の他に朝が来たことを知らせる音だ。
硬いベッドで眠っているせいか、毎朝起きるたびに身体のどこかが凝っている。
動いて凝りを解そうにも、牢獄は狭く、なかなか解消されないまま眠りにつくものだから少しずつだが疲労は蓄積されていて、最近はどこかしら微妙に体調が良くなかった。
しかし、動けないほどのことではなかったので、メルディナは特に看守に申し出ることはなかった。
メルディナがこの国のすべてから望まれているもの、それは「死」だ。
しかし、それはまだ訪れない。
エドアルドから与えられない限り。
1年前の、あのクーデターまでメルディナにはエドアルドの処遇の決定権があった。表向きは。裏では、あの男ーーーアゼルフォードの、エドアルドを徹底的に苦しめるという歪んだ企みが彼の命を結果的に救った。
メルディナにできたのは、アゼルフォードに気づかれない範囲でこっそりと食事を差し入れたり、その際に怪我の手当てをすることだけだった。
きっと、あの数々の傷はまだ残っているに違いない。あまりの酷さに泣いてしまったときの、エドアルドの表情をメルディナはまだ覚えている。怖がらせてすまない、と彼は申し訳なさそうに言ったのだ。
それから、メルディナは「女王」として頻繁に牢獄へ足を運ぶようになった。女王らしさを崩さないように細心の注意を払いつつも、牢内の衛生状態が良くなるようにメルディナなりに努力した。
女王らしく、そして決してアゼルフォードに気づかれないように。
そんなことがあの日まで続いて、エドアルドが玉座の間に現れた瞬間、メルディナはエドアルドを罵りながらも心の中では安堵したのだ。
ガシャン、と鍵が開く音が聞こえた。
反射的に身体が壁際に動くが、今日はどこか身体が重たくて間に合わなかった。
「ーーっ!」
投げ込まれたスープ皿の中身が左肩にかかり、伝わってきた熱さに声にならない悲鳴を上げる。よろけた足元に当たったものを見ると、歯型のついたパンだった。
パンを拾い上げかけて、手に力が入らないことに気づく。
(どうして・・・?)
不思議に思ったのは束の間のことで、それから急速にメルディナの意識は途切れたのだった。