決して好きになってくれない
エドアルドと初めて会ったのは、2年前のあの日だった。
濃い化粧を施され、重たいドレスを着せられ、アゼルフォードから命じられて行った部屋。それは、玉座の間だった。
兵士から身体を押さえつけられていた彼は、メルディナが部屋に入った瞬間に今度は床に押し付けられたのだ。
メルディナは、アゼルフォードの姿を探した。やめるように頼むつもりで。
アゼルフォードは、いつも通りにメルディナのすぐ側にいた。彼は眉ひとつ動かさずに言ったのだ。
「この者は反逆者です。殿下を差し置いて王座につこうとしているのです」
エドアルドは、乱れた黒髪の下からメルディナを睨みつけていた。
その灰色の視線からは一切の好意など感じ取れないはずなのに、メルディナは釘付けになっていた。
(綺麗なひと・・・)
こんな、綺麗な人は今までメルディナの周りにいなかった。
アゼルフォードも綺麗のうちには入るのだとわかっているが、エドアルドにはかなわない。
それから、メルディナの中でエドアルドは「王子様」になったのだ。
けれども、この「王子様」は決してメルディナのことを好きにはなってくれない。
それを、身を持って知ったのは、エドアルドの弟や妹がアゼルフォードによってメルディナの名のもとに処刑されたと聞かされたときだった。
メルディナの名を使い、勝手なことばかりするアゼルフォードに、このときばかりはメルディナも我を忘れて掴みかかった。部屋に二人きりだったから、止める兵士はいなかった。
「何も、殺さなくてもいいでしょう?!」
アゼルフォードは、メルディナを見下ろしながらため息をついた。
「時に、見せしめというものが必要なのだよ。メルディナ」
「だからといって、5歳の子どもを殺す必要があったの?!」
「5歳・・・ああ、末のレイ王子か。仕方ないだろう?永遠に5歳ならば無害だが」
その後、アゼルフォードは忙しいからと出て行ってしまった。
ひとり残されたメルディナは、改めて思い知らされる。自分が本当に名ばかりの女王であることを。