リストの一番上
1年ほど前に政権が交代してからというもの、エドアルドはほぼ不眠不休で働き続けていた。
戴冠式の日に捕らわれ、地下の牢獄で屈辱の日々を過ごしていたのが夢だったのではないかと思えるほど、メルディナのせいで乱れきった国を建て直すために駆けずり回っていた。
まとめさせたリストは千ページ以上にも及び、それはまだ百しか消化されていない。その一番上に記された項目はまだ手付かずのままだ。
「いい加減、一番上の案件を片付けたらいかがですか。最重要事項でしょう」
ノックもなしにいきなり入ってきた、茶髪の男が酒入りのグラスをエドアルドの前に置く。
うまくはないが、流し込むのは日課となっている。
「メルディナの処刑か」
「生かしておいても何の得にもなりません。外交の切り札に使えるわけでもないし、民からは憎まれている。陛下も、その一人でしょうが」
エドアルドは、グラスを持ち上げると忠実な部下に向かって軽く押し上げた。
一口、含んで舌で転がしてから飲み込む。
「罪を自覚しないまま死んでもらっては困る。あの女は、まだ状況を飲み込めていない」
「会いに行ったのですか?まさか、中には入っていないでしょうね」
咎める目線に、内心しまったと思いながらも、エドアルドは顔に出さずに言う。
「カイン、お前に行かせたら殺してしまうだろう?」
「・・・そうですね。冷静ではいられないでしょう」
顔を苦しそうに歪めたカインもまた、エドアルドと同じように捕らわれていた。助け出されたときはひどく痩せていて、まともに立つことも出来なかった。医者の見立てによれば、足をひどく痛めつけられていて今後も走ることはできないだろうと言われている。
カインの足をこんなにしたのは、メルディナだった。憎む理由は多分にある。
殺したい、と直接的な言葉が出ないのは、育ちがいいからだ。
「残念なことに元気だった。そのせいで、早急に検討すべきことができてしまったが」
「一体何ですか?」
エドアルドは、リストの一番上に書き足した。放ったそれを、カインが代わりに読み上げる。
「メルディナの食事内容について・・・?」
「肉が食べたいそうだ」
財政も担当している、カインの地雷を確実に踏むと自覚しつつも、カインが疑問符をつけたのでエドアルドはさらっと伝えてやった。
案の定、メラッとカインの背中に赤い炎が見えたような気がする。
「・・・にく?肉が食べたいですって?!何を勘違いしているんだ、あの女は?!やっぱり、今すぐに首をはねましょう。書類を取ってきます」
「ダメだ」
エドアルドは、首を横に振らなかった。
「あの女は、自らの罪を認めていない」
認めなければ、首をはねても意味はないのだとエドアルドは繰り返す。