昔のこと
鍵が再びかけられ、その人が完全に去ったとわかった途端、とてつもない疲労感に襲われたメルディナは座り込んだ。
眩暈さえ起こしかけている状況で、余計なことを思い出す。
『あなたは生まれながらにして、王位を継ぐお方なのです。まずはそのことをしかと心に刻み付けなさい』
人のことを『殿下』と呼びながら、どこまでもメルディナを押さえつけたあの男の顔だ。
連日の徹夜にも近い教育で、状況に振り回されたメルディナの心はすっかり弱くなっていた。あの男に対しては特に。
『常に背を伸ばして見下ろしていればよろしい。優しい言葉など不要です。それでは臣下は動かない。動かすのは、女王の命令です』
戴冠式が終わり、『陛下』と呼ばれるようになってもあの男はメルディナを解放しようとしなかった。女王として政治に関わろうとしても、遠ざけられる。
あの男をはじめとする貴族たちが欲しかったのは、言われた通りに動く女王で、考える頭は不要だった。
メルディナが選ばれたのは、何も知らない孤児だったからに他ならない。捨てられた恨みは消えはしないが、父が前王だったと知った今では母の気持ちも少しはわかるような気がした。前王は、それはそれは恐ろしい王だったという。何百人もの首をはね、牢獄に送り込み、ひっきりなしに戦をしかけていたと。
(一つだけ感謝できるのは、私を産んでくれたこと)
存在しなければ、あの人に出会うことはできなかったのだから。