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手の震えが止められない

蝋燭の光がぐんと下に下がってから上がった。そして、靴音。聞き慣れたリズムに、メルディナの身体は震えた。


「食事だ」


 コトリ、と滅多に使わないテーブルが音を立てる。そばに立てられた蝋燭が、トレーにのったパンとスープの皿を照らす。


「ほら」


 トレーを押しやる音は、幾分かざらついている。砂をこするような音に、メルディナは濡れた布を探しかけた。そんなものはどこにもないというのに。


「食べないのか?それとも、もう喋れなくなったか?」


 問いを重ねてくるその人の口調にはまだ苛立ちの色はなく、穏やかに微笑んでさえいる。

 メルディナは何度か呼吸を繰り返し、口元に笑みを作り上げた。手の震えだけは止められなかったが、そこからでは見えやしないだろう。

 念のために後ろに隠してから、メルディナは始めた。


「そんな粗末なもの、私が食べると思って?」


 角がある、メルディナも嫌う声が牢の中に響く。


「お前の好みなど誰も聞きはしないだろう。この国にはもう女王はいないからな。伺いを立てる必要はない」

「そういうあなたこそ、王の位を誰かに譲りでもしたのかしら?それとも、私のために人を使うのが惜しくなった?自ら食事を持ってくるなんて」


 クスクス、と耳障りな声で笑う。


「私の命もあと僅かということかしらね?」


 ため息が聞こえた。


「民の意を汲むのならば、あのときに首をはねるべきだったのだろうな」

「そうね」


 メルディナは楽しげに同意してみせた。


「あなたがぐずぐずしているせいで、私は誰も食べないようなパンをかじらされ、毎夜寒さに震える。亡き父上がこれを知ればどう思われるかーーー何て可哀想な私」

「同情を得たいのであれば、まずは態度を改めることだ」

「あら、ここで泣けば情けをかけてくださいますの?」


 芝居がかった様子で続ければ、その人は少し不機嫌になったようだった。


「少なくとも、お前よりは寛大な処置だろう?手のひら大のパンと熱々のスープだ。一日三回も与えている。腐りかけた肉や野菜の皮、果物の芯などは混ぜたことはない」


 ――――嘘よ!そんなはずはないわ?!

 メルディナは、そう叫んでしまいたかった。そんなおぞましいことを誰にも命じた記憶はない。


「食事の件については、検討しよう。パンとスープが口に合わないとなれば、さて」

「肉が食べたいわ。パサパサの肉は嫌よ。分厚くて柔らかい肉が食べたいの」


 メルディナは動揺を悟られないよう、高慢に言いはなった。その人は、笑った。


「今の言葉を民が聞いたら、お前は八つ裂きにされるかもしれんな。それとも、笑いの種になるか。ただのメルディナが、いまだ女王のように振る舞うと」


 震えあがる言葉にも、メルディナは動じなかった。耳障りな笑い声の後に言うだけだ。


「心はすでに八つ裂きにされていますわ。身体も八つ裂きにしたいのであれば、あなたが命じればよいだけのことではなくて?」


「考えておこう」

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