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静かな場所

格子状の窓から射し込んでいた光が途絶えた。

 滑らかな石の床に座りこんでいた少女は、石を掴むと慣れた手つきで細い蝋燭に火を灯す。


 ゆらゆらと揺れる火を眺める少女の名は、メルディナといった。


 ほんの1年あまり前は、女王と呼ばれる存在だった。今よりはまだ肉がついていたけれども細い身体に、最高級の素材と民の税を注いで作られたきらびやかなドレスをまとい、重い王冠を戴いていた。


 それが、今は。


 毎朝、必ず侍女に櫛を入れられていた金髪は、肩よりも上でちぐはぐに切り取られていた。ここに入れられたときに、兵士に押さえつけられて切られてしまったのだ。髪を売って、金に変えると兵士はぞっとするような声で笑いながら言っていた。


 ドレスなんてものはどこにもない。全部持っていかれてしまい、投げつけられたぼろ布同然の服と呼べるかも怪しいものを着るしかなかった。

 それでも、メルディナの顔に憎悪とか悲しみという感情はない。


(・・・ここは、静かだもの)


 甲高い笑い声も、ひそひそ話とも一切無縁の場所だ。けれど、楽しかったときがあったのは否定しない。陛下、女王様、と呼ばれて傅かれ、手を差し出せばこぞって手の甲に唇を押し付けられるあの昂揚感は誰にでも味わえるものではないと、メルディナはわかっている。王冠を戴く者だけが与えられるものなのだ。




 ガシャン、と鍵が開く音を聞いたメルディナは、壁際に身を寄せた。できるだけ隅のほうに移動する。投げ込まれる食べものに当たる確率を減らすためだった。囚人となった始めのころ、熱々のスープが手に当たって火傷をしたことがあったのだ。投げ込まれたスープの皿は、ひっくり返って床に中身をぶちまけて食べられはしない。


 辛うじて飢えないのは、同時にパンも投げ込まれるからだ。踏みしめられたかのように硬いパンは、少しずつしか食べられないが、そんなことを嘆いたりしない。泣き言を言わないのが腹立たしいのか、時折、誰かが齧ったパンが投げ込まれることもある。それさえ、メルディナは黙って食す。食べられるものであれば何だって口に入れる。

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