子うさぎの日記
すんすん、ふわりふわりと、雪がふる森。
針葉樹の間を跳びはねるように、うさぎの耳をした男の子が駆けていく。
「 早く、早く、帰らなきゃ。お母さんが、待ってるよ。」
「早く、早く」と口にしながら駆けていく先は、人が住む街。日記を抱え、ぴょんぴょんと駆けていく。
人の目を避けるように、ぴょんぴょん、ひょこひょこ、街に入り、路地を駆ける。
しんしん積もる雪のなか、何軒もの家の前を通りすぎ、目指す街のはずれへ。
一見、冷たそうに見えるけれど、その中は暖かい、レンガ造りの家が見えてきた。
その家のガラスの窓の下に、男の子は駆け寄る。
そして、そぅっと、家の中をのぞきこんだ。
ちょっと古い、木で作られたテーブルと椅子。
その奥、暖炉の中で、数本のまきがぱちぱちと音を鳴らして、赤い火を灯している。
その前で、包みこむように二人の幼い子を抱いた母親が椅子に座り、暖をとっていた。
「 ……だからね、善い人には、必ず神様が、一つは良い贈り物をしてくださるのよ。心優しい人は、神様を信じる人はみんな、神様が見守っていてくださるの。」
穏やかな母親の声が、窓の外の男の子の敏感な耳に聞こえてくる。
そんな、ささやかな温かさを持つ母親とその子供たちを、男の子は静かに見ていた。
物に富んでいなくとも、地位がなくとも、幸福な家族を。
「 これからも、優しく温かい心を持っていてほしいな。忘れないでほしいな。」
家の中の母子を見ながら、男の子は誰にともなくつぶやく。
男の子は窓から離れ、くるっと家の玄関に回ると、その玄関先に、抱えていた日記を置いた。
そして、その小さな手でドアをコンコンとノックすると、一目散に近所の家の陰に走りこんで隠れる。
そこで男の子は、家から出てきた母親を見守った。
母親は玄関先に置かれた日記を目にし、不思議そうに目を丸くする。
けれど日記の表紙を見ると、とたんに嬉しげな顔になり、日記を大事そうに胸に抱いて家の中に入っていった。
男の子も、それを見て嬉しくなる。
「 その日記に、いろんな出来事を書いてね。その時々の、大切な、愛おしい感動を、心を、忘れないでね。」
贈り物も贈り方も、神様とは違うけれど……ぼくからの、ぼくなりの、クリスマスの贈り物。
男の子は、母親が入っていった家をじっ…と見つめる。
雪が積もる、寒い、寒い森の中。
母とはぐれ、負った傷が痛い、痛いと泣いていた子うさぎ。
そんな子うさぎを助けてくれた猟師に、その家族に。
今日、このクリスマスに、神様の助けをかりた、小さなうさぎの恩返し。
はっと、何かに気づいた男の子は、跳び上がった。
「 早く、早く、帰らなきゃ。お母さんが、心配しちゃう!」
「早く、早く」と口にしながらぴょんぴょんと、うさぎの耳をした男の子が、クリスマスの街を駆けていく。
9/24 一部の文章の前に空白を入れました。
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