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幼なじみは一つ屋根の下に

作者: 猫小判

×清香→○清花


いきなり誤字修正です。携帯で修正するのはかなり面倒なので、前書きでお知らせします。

 朝。それは全ての生命に活力の光と目覚めを強制する一日の始まり。それは生命にとって、本来は喜ぶべきことの筈である。

 が、俺にとっちゃ最高に気持ちの良い安眠を妨害する最強最悪の敵だ。

「朝なんて一生来るな……」

そんな人とは思えない悪態を半分本気でついて、二度寝をすべく俺は布団をかぶりなおした。今なら三秒数える前に寝られるぞ。

 ほら、1、2、さ………ぐぅ……。



「拓くん、朝だよぉ。早く起きてよぉ」

ゆさゆさ。

 なんだか、誰かに体を揺さぶられている。そいつは俺を起こそうとしているらしいが、どうも力が弱い。ゆりかごにでも揺られているような良い気分だ。意識は覚醒するどころか深い闇の底に真っ逆さまだ。

「拓くん、お父さんに怒られるよぉ。早く起きてよぉ〜」

ゆさゆさゆさ。

 さっきより揺さぶりが強くなってきた。

 それに、お父さんと言ってもどっちの親父が来るかで恐怖度が変わって来るんだが……。まぁいい。どっちが来ても今日の俺の睡眠欲にはかなうまい。つまりはまだまだ睡眠は続く訳で………ぐぅ。

「もぉ〜。起きてよぉ。学校に遅れちゃうよぉ〜」

ゆさゆさゆさゆさ。

 揺さぶりはそれ以上は強くなることはない。これがまたナイスに俺の意識を闇へと突き落としてくれる。ぐっじょぶ、理香。

 そして学校ごときで目が覚める俺様ではないのだよ。学校なんて一年中自由登校さ。さらば現実。そしてこんにちは、幻想世界ネバーランド

「ねぇ〜、起きてってばぁ〜」

ゆさゆさゆさゆさゆさ。

 ほんとのところ、もう起きてるんだけどね。今まで粘った手前、もう後には引けないんだ。理香が諦めるまで俺は寝たフリし続けてやる。


 ガチャリ。


 と、ノックも無しにずかずかと人の部屋に乗り込んでくる、無遠慮な人物の気配がした。

「お姉ちゃん、まだ起こせてないの?」

どこか冷たい印象を抱かせる抑揚の無い声はいつも通りだ。

「だって、わたし一人じゃ拓くんは起こせないよぉ。清花さやかが一緒じゃなきゃねぇ」

「……あのねえ、お姉ちゃんの起こし方が温いだけよ。……見てて」

何やら、殺気を感じた。それも生半可な奴じゃ無い。それだけで飛んでる虫さえ落とせそうだ。


「やッ!!」


気合いの入った掛け声と同時に迫り来る殺気の塊。俺はとっさに体を捻り、先程の位置から離脱した。


 ごッッ!!


 それとほぼ同時に凄まじい音と天地がひっくり返りそうな振動。流石に肝が冷えた。

 俺はすぐさま上体を起こし、

「てめぇ、やるにもげ……」

「ほら、起きた」

切れ長の目をした少女、清花は俺を軽くスルーし、理香の方を向いて得意気に胸を張った。その膝は、ちょうどさっきまで俺の頭があったあたりにめり込んでいる。

 俺は清花に食ってかかる。

「お前、俺を殺す気か!?」

「いやいや、起こそうとしただけ。……ちっ」

「今舌打ち! 舌打ちしたろ!?」

「何のことやら」

あくまでしらばっくれる清花。俺はついと視線を下ろし、カモシカのような足の向こうにある危険地帯に目を向けた。覗いた訳じゃないぞ? スカートが短いから見えてしまうんだ。今日の色は……、

「ふん。水玉に免じて許してやるか」

「なっ……!? このスケベッ!!」

清花は目にも留まらぬ早業でベッドから地面に着地。そこから繰り出すハイキックは寸分違わず俺の顔面に迫る。

「ぬおっ!!」

俺は両腕を上げてガード。なんとか清花の足を受け止めた。

 俺はため息をつく。

「はぁ、その行動がいつも俺に水玉を見せてるってのが分からないのか?」

「ーーッ!」

清花は顔を真っ赤にして蹴りよりも素早く脚を引き、そのまま逃げるように俺の部屋を後にした。

 さて、邪魔者はいなくなったことだし、

「じゃ、おやすみ」

「うん、おやすみぃ………って違うよぉ!? 寝ちゃだめだよぉ! 寝たら死んじゃうよぉ!!」

うーん、ツッコミもボケとしてもネタとしてもイマイチだな。

「52点」

「やったぁ! 補習回避だよぉ〜」

理香は赤点じゃないことがよっぽど嬉しかったのか、小躍りを始めた。理香が天然で助かった。これで俺の安眠は確保でき……、


 バンッ!


 ドアが乱暴に開かれる音。同時に飛び込んでくる熊のような体躯の男。理香と清花の父親だった。

「ごらっ! 起きろ拓也! 学校に遅刻するぞッ!!」

「ぐあっ!」

見た目に違わぬ大声量に、俺は思わず耳を塞ぐ。

 ちなみに、ちらりと理香を見ると平然としていた。やっぱり親子だなぁ、なんて感心した。

 理香の親父さんが来てしまってはしょうがない。俺はのろのろと上体を起こした。

「おじさん。朝っぱらから元気だね……」

「おうっ! 大工の朝は早いのさ! メシは出来てっから早く準備して下りてこいよ」

がはは、と笑いながら理香の親父さんは下へと下りていった。……台風みたいな人だな。

「しょうがないな。理香、先に下行ってて。着替えるからさ」

「えぇ〜〜」

理香は不満そうに口を尖らせた。あれ、どこに不満がる要素があるのでしょうか?

「……なんだよ理香。俺のストリップショーでも見たいのか?」

「ぇえっ!?」

理香は顔を耳まで赤くしてあたふたと挙動不審になって、やがて小さく肯いた。

「うん………見たい」

「おう、そうか。それじゃそこでじっくり………って違うだろが! 今すぐ部屋出て下に行け!」

「はぁい」

俺が叫ぶように叱りつけると理香は残念そうな表情を浮かべて、しかしあっさりと部屋を出ていった。

 俺は理香の足音が階下へ向かうのを確認してから、大きくため息をついた。

「全く、朝からテンション高い親子だ……」


 理香、清花、その親父さんと俺とは血が繋がっていない。戸籍上も赤の他人である。かといって俺がこの家に居候している訳じゃない。ここは俺の家でもある。

 簡単にいきさつを説明すると、うちの親父(坂崎健真)と理香の親父さん(春日煉斎)は親友同士で、同時期に結婚して同時期にマイホームを望んだ。二人の所得はそれ程多くなく、街に家を建てるには二人とも、いささか心許ない状況だった。そして二人が思い付いたのが、一つの家に二家族が同居すること。二人は迅速に行動し、結果、この家に坂崎家と春日家が両立するという、真に不可思議な事態が出来上がったわけだ。

 以上、説明終わり。



 学ランに身を包み、お情け程度に身だしなみを整えた俺はキッチンへと足を運ぶ。漂う香ばしいバターの香りに、ふらふらと俺は吸い寄せられていった。

 ふらりとリビングに入ると、既に三人の女性が朝食を食べていた。理香と清花、そして彼女たちのお袋さんだ。

「聡子さん、おはよ……」

「おはよう、拓也君。さぁ、早く食べないと遅刻よ?」

「分かってます分かってます」

俺は理香と清花のお袋さん、聡子さんに軽く挨拶をして食卓についた。理香と清花は殆どを食べ終え、食後のコーヒーを楽しんでいた。 と、理香が唐突に口を開いた。

「ねぇ、拓くん。今日の約束、覚えてる?」

「んあ? 約束?」

んなのしたっけ。

 俺は必死で記憶の山を掘り返す。だが、それらしきものは全く見つからない。

「してないだろ、そんなの。約束しなきゃ俺が捕まらんわけでもあるまいし」

自慢じゃないが俺は友人が少ない。だから予定が入っていることが滅多になく、声さえかければいつでも付き合ってやれる。つまり、あえて約束する事はない筈だが……。

 そう言うと理香は俯いて溜め息をつく。

「やっぱり……」

「何だよ。本当に何か約束してたのか?」

俺が問うと理香は小さく、力なく首を横に振った。

「ううん。大事なことでも無かったからもういいよぉ」

「そうか?」

「よくない!」

がたっ、と清花が勢い良く立ち上がった。

「お姉ちゃんは拓也に甘過ぎる! 今日の約束は忘れちゃいけない約束でしょう!?」

「ち、ちょっと清花……」

「拓也! 今すぐとは言わないけど、学校が終わる前に約束を思い出しなさい! 思い出せなかったら、ただじゃおかないから!」

いってきます、と有無を言わさない口調で言い放ち、清花はずんずんと不機嫌そうに家を出ていく。俺は呆然とその後ろ姿を見送った。

「拓くん。約束、思い出してくれると嬉しい……。それじゃ、いってきまぁす」

理香はとぼとぼと、明らかに沈んだ様子で家を立っていく。俺はそれも呆然と見送ることしか出来なかった。

「拓也君。いくらフラグが立ってるからって、あんまり放置してるとバッドエンドを迎えちゃうわよ?」

「フラグ……??」

聡子さんは何を言っているのだろうか? 俺は首を傾げつつ、時計に目をやり………、

「やばっ! 時間だッ!!」

時刻は8時ちょうど。歩いたんじゃ間に合わない時間だ。

 俺はなんとか飯を胃にかき込み、用意していた鞄を引っ掛けて立ち上がる。

「聡子さん、ごちそうさまでした。じゃ、行ってきます!!」

「いってらっしゃい。約束、思い出してあげてね」

俺は聡子さんののんびりした声に押されて、学校へと飛び出して行った。


 学校はいつも通り退屈で、時空が捻れてんじゃないかと疑う程ゆっくりした時間が流れていた。俺は適度に睡眠を貪りながら、理香との約束について考えていた。………約束なんてしたか? 考えても無理だな。起き抜けのインスピレーションに賭けるか。そんじゃ、おやすみさん。


 結局、起き抜けのインスピレーションなんぞあるわけもなく、ただ惰眠を貪るだけ貪った学校生活でしたとさ。つまり、約束とやらのことはひとかけらも思い出せず、そのままとぼとぼ帰途を辿っている俺がいたりするわけだが。

「約束ってホント何なんだろ?」

思い出せないと家の中で孤立しかねない。うちの両親も理香、清香びいきなのだ。

「くっそー、思い出せんぞ………」

まずい。この状況はひじょーにまずい。このままだと、またしばらく友人の家に厄介にならなければならなくなってしまう。

「ちょっと気分転換でもすっか」

俺は180度ターンして、家とは真逆の方向に位置する高台の公園へと足を向けた。ちゃんと約束とやらを思い出してやらないと理香が可哀想だしな。


 というわけで高台の公園に到着した。所要時間は30分。かなり遠いが、それに見合う場所だと俺は思っている。俺達が住む街を一望出来る展望台があるのだ。季節ごと、時間ごとに違う顔を見せる街並みは何度見ても飽きが来るものではない。俺のお気に入りスポットの一つだ。

 俺は適当なベンチを見つくろって、それに座る。すっかり秋のそれとなった風は、日が落ちるのを告げるように冷たくなっていた。

「で、約束って何なんだろなぁ」

今日は何か特別な日でもないし………、

「あっ、拓くん!」

「んぉ?」

声の方に顔を向けると、制服姿の理香が手を振って駆け寄って来るのが見えた。理香はそのまま俺の隣に腰掛ける。

「約束、思い出してくれたんだね」

「いや、思い出してないんだ。ここで会えたのは偶然、だな」

輝くような笑顔だった理香の顔が一瞬で曇る。胸にちくりと罪悪感を感じるが、どうしようもない。

 しばらく沈黙が流れた。が、理香はゆっくり顔を上げた。

「うん。約束覚えてくれてなかったのは悲しいけど、偶然でもこうして会えたのは嬉しいよぉ」

「………そうか。そいつは良かった」

俺と理香は揃って夕日で染まる街を眺める。どちらも言葉を発することは無かったが、その静寂は不思議と心地良かった。

「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」

理香はすっと立ち上がる。

「約束とやらはこれだけか?」

理香は首を横に振る。

「なら、約束叶えるまで付き合ってやるぞ?」

理香は再度首を横に振った。

「約束を覚えて無い人にその資格はないよぉ」

「ぬ、痛いところを突いてくるな」

俺は重い腰をベンチからひっぺがして立ち上がった。理香は俯いでぼそりと呟いた。

「それに………、清香に悪いし………」

「ん? 何が清香に悪いんだ?」

理香は俺の問いには答えず、俺に腕をからめてずんずん歩き出した。

「それじゃ、帰ろぉ!」

「分かった! 分かってるから引っ張るな!」

そうして、俺と理香はオレンジの夕日に照らされて俺たちの家へと帰っていった。




 家には清花という名の修羅が待ちかまえていた。あと、お袋と聡子さんという名の野次馬もいた。俺は清花に捕まり、理香はお袋と聡子さんに連行された。

「帰ってくるのが遅いッ!」

「ぬぉ!?」

唐突に放たれる拳。俺は寸でのところでかわし、清花を睨みつける。

「何しやがる!?」

「うるさいっ! お姉ちゃんに手ぇ出しといて生きて家に入れると思うなっ!!」

「ぬ、くっ、うおっ!」

コンビネーション。アッパーをかわし、レバーブローを払い落とし、上段蹴りを屈んでよけた。

「ふむ、黒とは案外大人な下着を付けてるのぅ」

「なっーーー!」

清花の顔が一瞬で茹で蛸のように真っ赤になる。清花は拳をぐっと握り、きっ、と俺を睨み付けた。

「死にさらせぇぇぇぇーーーッ!!」

「ごふぅ!?」

光速。いや神速だった。避ける暇もなかった。膝が一瞬で砕け、俺の体は玄関に落ちた。ついでに意識も落ちていく。

「拓也のバカーーッ! 死んじゃえーー!」

そんな幼稚な罵倒とを誰かが階段を駆け上る音を最後に、俺の意識は闇へと落ちてゆく。

 こうして俺の人生いちにちは幕を閉じるのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

感想は僕の執筆意欲を向上させます。一言でも良いので是非お願いします。

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[一言] 続篇期待。 評価はそれから。
[一言] おもしろいのでぜひ更新してください^^
[一言] 結局、約束はなんだったのか。わからない
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