その日-2
蛇に睨まれたカエル。あるいは、鷹に睨まれたネズミ。
どうしようにも対処のしようがなかった。
完全に敵視されていることについて、私は全く心当たりがなかったのだから。
ぴんとはりつめた空気は私が動くことを拒んでいる。
子犬は尻尾が下がりきり、ただならぬ雰囲気に怯えている。
視界の隅で、何かが気の抜けたあくびをした。
「やあやあ、ごあいさつだねえ。君を見込んだ僕の目が狂っていたのかなあ?」
一触即発のはずの中、ただひとりのんびりと寝起きの教授が笑っていた。
◆
「あなたたちは、何かおかしい」
すっかり毒気を抜かれた赤毛がぼそりと呟いた。
あたたかいココアの入った3人分のマグカップは、ゆらゆらと並んで湯気をあげている。
(いらいらしたときは甘いものだよ!と、寝起きの癖にやたらと機嫌のよい教授が用意した。)
「何がだい?ところでマシュマロはいかがかな?」
やたらとにこにこした教授が促す。しっかりと2個もらっておく。机の下で子犬がうるうると見上げてくるが、見ないふり。砂糖の塊は犬に良くないのだ。
「見えない女の子にうさんくさい教授、明らかに何かが隠されている部屋。おかしい以外の何事でもないですよ」
赤毛がため息をつく。
やっぱり私が見えていないらしい。
「なぜ私のことが見えないの?他の人はみんな見えているのに」
やはり聞こえてもいないらしい。キレイなスルー。
「それはもちろん、ツンツン赤毛くんが異質だからに決まっているだろう?」
赤毛がさっと頭に手をやる。
「なんですかツンツン赤毛くんとは。失礼ですね。私にはコーネという名前があります」
非常に不満そうだ。どうやら気にしていたらしい。
「では、コーネくん。君は"仕え"だろう?」
にこやかに教授が放った一言に、また空気が凍った。