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教授はまたソレを拾う

 

 巨大な門を通り抜け、大学の敷地を出ればそこは人々の行き交う大通り。ガタガタと音をたてながら、路面電車が通りすぎてゆく。


「わん。わん!」


 早く早く、と急かす子犬を追いかけ、大通りを西に進む。朝方に雨でも降ったのか、路面はしっとりと輝いている。風はまだ少し冷たく、アンナは片足で飛び跳ねながら靴下をひっぱり上げた。春とはいえ朝はまだ寒い。まわりを歩くのもまだコートを着ている人が多い――そういえば教授も古ぼけたコートの衿を立てている。風に吹かれる姿は妙に様になるな、とちらりと斜め上を見やった。目が合った。


「ん、どうしたんだいアンナ。僕の顔になんかついてる?」


「別に何も付いてないですよ、ちゃんと生きてるか気になっただけです」


 軽口を叩きながらせかせかと歩く。教授の足は長すぎるんだったら!

 腰に巻いたぶかぶかの白衣をきちんと着られるようになるのが、私の密かな目標である。これは重要機密だが。




 ◆




 少し歩くと舗装されていない、畑の脇道に出る。都会というよりは地方都市なのだ。

 跳ね回る子犬は揺れる小花とその間を飛び回る蝶々に気を取られてどんどん先に行くし、教授も目を離すとどこかに行ってしまう。あ、また石を拾っている。何の変哲もない石。


「教授~?置いていきますよー!」


 ああ、と笑顔で片手をあげるとそのまま傍らの案山子かかしを調べ始めた。薄汚れたきったなーい案山子。あれ?昨日までに見た記憶が――あるような、ないような。

 まあ目に入らなかっただけだろう、と私はさほど気にも留めずに、尻尾を振り回す子犬を追いかけた。




 ◆




「もう、2人とも速すぎるよ、もう少し待ってくれても良くないか、」


 息を上げた教授を見つけたのは、お決まりのコースを一周して大学の入り口へと戻ってきた時。壁にもたれ掛かり疲れきった教授は、あろうことか例の案山子を傍らに連れていた。


「ちょ、教授、それ持ってきちゃったんですか...…というか、何で先に着いてるんですか?! 」


 ショートカットーっと腹の立つ笑顔を浮かべ、人差し指を立てて下手くそなウインク。ここのところずっとはさっさと帰ってきて教授を待つ間カフェテリアに入り、おやつ代を待った料として請求していたのだが。無念、私のパンケーキ。


「まあまあ、とりあえず朝ごはんにしよう。サンドイッチなんてどうだい?」


「たまごサンドはもうごめんですよ!カツの挟まったやつがいい!」


「あら、今朝ぶりね。なんならパンケーキでも食べに行きません?」


 不意に言葉が割り込んできた。はっと振り向くと、いつもの掃除のおばさん。にこにこしながら後ろに立っていた。


「おや、エクレアさん、おはようございます。アンナがお世話になりました」


「いーの、いーの、気にしないで。それより朝ごはん食べに行きましょうよ、私もちょうど行こうと思っていたところなの、カフェテリア」


 いたずらっぽく目配せをされる。どうやら見破られていたようだ。朝の男子学生を追い払ってくれたのもこの人だったらしい。

子犬はなついているようで、頭を撫でられて幸せそうにくっついては熱心に匂いをかいでいる。

 教授は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。


「あの、エクレアさん、おご……」


「何を言っているのかしら?」


 笑顔で教授を撃退して、掃除のおばさんはカフェテリアに向かって歩き出した。ぐっじょぷ!


「エクレアさん、そんなこと言うなら、給料上げ……」


「私に言っても仕方ないでしょう?」


 今日は奮発して蜂蜜ベリーのパンケーキにしようかな!

 足取り軽く、私も彼らについて歩く。



 ぶつぶつ文句を言いながら歩く教授の傍らの案山子は、いつの間にか消えていた。


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