研究室に朝が来た
砂ぼこりがもうもうと上がる。
教授は何やら怪しげなうねうねがたくさんの書物に埋まっている。
またやっちまったがまあ仕方がない。
お散歩に行こう!飼い主!
◆
「ぐあ、げほげほ、ごほ、」
いつもの朝だ。アンナは目にしみる埃を払いながら咳き込んだ。ほんとう、なぜこんなにひどく汚れるのだろう。別に掃除を怠っている訳ではないのだ――少なくとも、私は。
豊かな緑に囲まれた、レンガ造りの古風な校舎。そびえ立つ塔にはためく校旗が存在を主張する。
セントエレリア大学。ここは世界各地から学生の集う、由緒正しき学舎だ。
この時代にはやや大仰な、ロートアイアンの巨大な門扉が正面の唯一の出入口。教室移動の学生で賑わう、赤絨毯の敷かれた大廊下をすぐ横に折れ、まっすぐに薄暗い細通路を進んだ先、大きな螺旋階段の下の隅に私達の研究室はある。
まあ要するに、大きな建物の隅に細々と暮らしているのだ。
階段の下という立地上、埃がたまりやすいのも仕方がないのかもしれない。
はあ、とため息をつきながら散らばった本を積み直す。毛布の塊は、もぞもぞと動いて、
「おはよう、アンナ。全く最悪な朝だな」
顔を出した。
「教授。全くひどい顔ですね」
ため息をつきながらずしりと分厚い眼鏡を手渡す。まるで瓶の底のようだ。教授はよっこらしょ、と立ち上がると目をしょぼしょぼさせながら眼鏡を掛けた。
「わん!わん!」
犬は大喜びで駆けずり回っている。
まだ30代程度だと思うのだが、どうもこの教授はくたびれている。アンナは腰巻きにした大きな白衣をきゅっとしめなおし、くすりと笑った。
◆
「おはよー課題やったあー?」
「おはようー」
「そんなに上手く読めなかったなー、」
ざわざわと人に溢れる朝の大廊下を歩く。犬は口を開けて舌を出したままぴょこぴょこと足元を跳ね回っている。
「おーい、こいぬー?勝手にどっか行くんじゃないぞー!」
念のため声をかけてから、アンナは周りの学生を見回した。大体が少し背が高い。教授はそれよりも頭ひとつ抜けているので、見失うことはないのだが。いかんせん、歩きづらい。アンナは自分の小さめな身長をいまいましく思った。まあ、これからが成長期なのだが。
「おー、みつ編みちゃん、可愛いねー?どうしたの?」
軽薄そうな男子生徒に声をかけられた。この忙しいのに、ご苦労なことだ。笑顔で顔をのぞきこんでくる。この楽しそうな感じ、1年生だろうか。
むすっとしながら早足で通りすぎようとする。
「ノン教授のとこの子よ。いじめないの、1年生」
助けてくれた誰かに感謝しながら急いで横をすり抜ける。面倒なのはごめんだ。
少し先では教授があくびをしている。
高窓からは光が明るく差し込んでいる。
パッと駆け出した子犬がワン、と一声吠えた。