ー1、はじまりー
わたしたちが死体を見つけたのは7月。
梅雨もあけて、数日ぶりに空が晴れわたった日だった。
その時わたしは卒論の構成をまとめるレポートを書いていて、もう一週間も引きこもっていた。出かけるとしたら深夜のコンビニくらい。
毎日パソコンとばかり向き合っているうちに、ベランダでしか吸わない煙草も、部屋のなかで吸うようになってしまった。ルームシェアをしている実咲が帰ってきたらひどく顔をしかめるだろうけど、実咲は1ヶ月以上帰ってきていない。
「あーもーアイス食べたい」
このセリフ、今日だけで4回目。
アイス買ってきちゃおうかな。3日前にこれ以上誘惑されないようにと電源を引っこ抜いたテレビ。最後に見たCMは新作のチーズケーキジェラートレーズン入り。あれが食べたい。
アイスくらい食べてもいいよね。レポートを途中で中断するのは嫌だけど、頑張ってるもん、アイスくらいいいよね。
自分に言い聞かせて、立ち上がる。めんどうだから下着もつけないままでいいや。すこしでも綺麗めに見えるように、ワイシャツを羽織って玄関に向かう。
ドアについた郵便ポストを開けると、ピザ屋や運送業者のチラシがどさどさと落ちてきた。とりあえず、ぜんぶ拾って靴箱の上に置く。チラシや実咲宛のダイレクトメールにまざって、わたし宛の文字が見えた。案の定、母からの手紙だった。
すぐに封を開ける気にはならなかった。どうせいつも書いていることは同じだ。
どうしようか迷っていると、携帯がピロンと鳴った。
スネ夫からだった。
『来れる人、すぐ来て。おねがい』
グループLINEだから、このメッセージはわたし以外の2名にも届いているはずだ。
メッセージにはほかに、各駅電車しか止まらない駅名と、着いたら電話をくれということが簡潔に書かれていた。
ちょっとめんどくさい。でもスネ夫が「おねがい」なんてめずらしい。あのガキがそんな殊勝なことを言うなんて、天地がひっくりかえるほどのことがあったのかもしれない。
卒論のレポートから逃げるように、好奇心がむくむくと立ち上がる。
アイスを買うだけのつもりだったけれど、ちょっとくらい出かけてもいいよね。
言い聞かせながら部屋に戻り、ブラジャーを装着して、やっと外に出た。