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Criminal  作者: Dr.Cut
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第八十七章:人柱

警備室方面に続く扉の内側に飛び込む。

初めに僕、次に亜希が入ったところで、僕はその異変に気が付いた。


「…………!?」


――何をしているのだろう?

ヒビが入って、大蜘蛛の脚が飛び出し始めた扉を眺めて、船橋は呆然と踊り場の真ん中に立ち尽くしていた。

細められた目には怯えた様子は欠片も無く、同時に動く気配も無い。


「何してるんだよ!! 早く!!!!」


僕は、声を張り上げて彼を急かした。

だって、今は呆けている余裕なんか一瞬も無い。

この瞬間は、間違いなく逃走可能なデッドラインの筈なのだ。



なのに――、



「ああ、先に行ってくれや。

俺は、ちっと用事が出来ちまったみてぇだからな」


階段の下、彼の位置からは黒いすり鉢が見えている筈の場所に目をやって。

彼は、ニッと口元を緩めて見せた。



「……、へ?」



頭の中が、白くなった。



――アイツは、何を言っている?



――アイツは、何を言っている?



――アイツは、何を言っている?



分からなかった。

目の前に居る彼が何を考えて、何を思っていて、そして、どうしてあんな穏やかな顔で笑っているのか。

何度考えても、僕にはその言葉の意味すらも理解出来なかった。


「船橋!! 冗談言ってる場合じゃないでしょ!?

ほら、さっさとこっち来なさいよ!!」


亜希が激怒するように叫び散らす。

――冗談を言っている場合じゃない。

冗談で済ましたいと思っているのは、果たしてどちらなのか。

それすら不明瞭になってしまうくらいに、彼女の声に含まれた感情は剥き出しで、それ故に悲痛な物に思えた。


なのに船橋は、疲れたように額に手をやって、



「悪いけどよ、それじゃ筋が通らねぇんだわ。

……俺は、これ以上テメェらと一緒にゃ居られねぇよ」


自嘲気味にそう呟いてから、彼は自分のシャツに手をやった。

氷室の点滴台によって切れ目の入っていた彼のシャツは、初めから生地が薄かった事もあってか右手一つで簡単に破られて、ボロクズみたいに床へと投げ捨てられる。


「な……」


「う、そ……?」


――そして、僕たちは言葉を失った。


シャツを捨てて顕になった、大きな背中。

そこには無数の金属のボルトのような物が生えていたのだ。

恐らくは警備室でパイプ椅子の山に突っ込んだ時に突き刺さった、痛々しくて無残な鉄の刺。

中には点滴台並みに太いモノもあって、ところどころ肉が潰れて筋肉が見えてしまっている。


だが、それ自体は今は問題では無い。

あんなのどう見ても動きまわっていいような傷じゃないが、それだけでは彼が言ったような「一緒には居られない」という結論には至らない。

僕たちが彼の言葉の意味を一目で理解した、その致命傷(・・・)

それは――、


「船橋、その肩……」


――そう。

曝け出された彼の右肩には、腰まで続く巨大な亀裂が走っていたのだ――。

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