第八章:回帰
「ナイ、フ……?」
何かが、頭の奥底で引っかかる様な感覚が走る。
チラチラと、酒の飲み過ぎの様に視神経が過敏になって、僕の視界を歪ませていく。
「ナイフ……。
凶器、ナイフ。
死体、が……」
――何かがおかしい。
僕は、一体ナニに引っかかっているというのか。
「死体……廃、工場、に……。
肉片……、凶器、が……」
カメラの逆回しの様に遡っていく視界。
古びた映画の様に流れる景色。
やがてその内の1シーン。
僕の記憶にある、“その瞬間”で意識が止まり――、
「二階堂……、拓也」
―――――
ふと気がつくと、僕は見覚えのある朝のリビングに居た。
自分用の椅子に座っていて、目の前にあるのは定番の朝食。
――ここは、僕が住んでいる寮だ。
半熟に焼いた目玉焼きを、戻しそうになりながら、美味くもないインスタントのコーヒーで流し込んでいる。
そして、コーヒーを飲み終えた頃。
特に見たい番組があった訳でも無く、なんとなく点けていただけのテレビから、僕はあるニュースが流れるのを聞いた。
――ああ、そうだ。
僕は、この光景を知っている――。
『――この工場で発見された遺体は、確認されているだけでも8人に上っており、警察では──』
ニュースが報道した名前と、見覚えのある男の顔。
複数の人間をナイフで滅多刺しにし、製肉用の機械でバラバラに解体したという凄惨な犯行。
ムシャクシャしてやった、誰でもよかったという、およそ人間とは思えない無茶苦茶な動機。
その光景を思い出した所で、僕の意識は今に引き戻された。
――そうだ。
あの男は、二階堂拓也は――、
大量殺人犯だ。