第六十六章:推測
地下一階の構造は、下のニ階層に比べるとかなりシンプルだ。
階段を上った先には八畳程度の踊り場があって、左右と正面の壁にそれぞれ一つずつ扉がついている。
この内正面と左の扉が奥で繋がって輪になっていて、その丁度中間地点に地上へ続く最後の階段があるらしい。ちなみに右手の扉の奥は倉庫の区画になっていて、実質行き止まりだ。
この施設は、地上に近づくほどどんどん区画が少なくなっているらしい。
広さ自体も大した事は無く、踊り場から地上への階段までにある扉も精々が数枚。これまで歩いてきた距離からすれば、殆ど目と鼻の先と言える。
何か新手の罠でも出てくるかと思えば特にそんな事も無く、地下一階に入ってから十分もしない内に、僕たちは地上への階段の目の前に辿り着いていた。
「やっぱり暗証番号。今度は四桁か」
もう何度も見ている、電子錠で固く施錠された扉を見てぼやく。
――最初が八桁、次が六桁、そしてこの扉が四桁。
地下三階から、番号が二桁ずつ少なくなっている。
……いや、まあ。
地下施設なら、下に行くほど警備が厳しくなるのは、当たり前といえば当たり前の話でもあるのだが……。
何だろう、この違和感は――?
「うそ、また!?
ようやく帰れると思ったのにっ!!」
「あのな、大体予想出来た事じゃねぇか。
……んで、どうすんだ?
四桁ぐらいなら、適当に打ってもそのうち当たるんじゃねえか?」
「十時間くらい頑張ればなんとかね……」
1回入力するのに5秒。
疲労と打ち間違えも計算に入れて、希望的観測を口にする。
「はあ!? なによそれ!?
言っとくけど、あたしそんなに待てないんだから!!」
亜希の言い方はアレではあるが、その内容自体には全面的に同意だ。
腕も氷室も心配だし、なによりそんな地獄の単純作業は御免被る。
……僕には電子錠を弄れるようなスキルもないし。
「つーことは、また手分けして手がかり探さなきゃならねぇ訳か……。
どうすんだ? んーと、ここの区画が二つだから――」
「いや、その必要は無いかもしれないよ」
地図を広げながら、僕はある推測を告げた。
「「は?」」
亜希と船橋の声が重なる。
全く、氷室がいたら何と言われた事か……。
「さっき地図を確認したんだけど、この階にはちょっと面白い部屋があってね。
多分ここは、みんな大好きな“正義漢”のお気に入りなんじゃないかな?」
すぐ近くのとある部屋を指さして、皮肉っぽく言ってみる。
――そう。僕たちをこんなところに閉じ込めやがった、素晴らしい道徳心の持ち主であろう“その人”が、一番大好きそうな部屋。
その名前は――、
「……、警備室?」
「そういう事」
船橋の返答に、僕は軽い口調で答えた。
――警備室。
おそらくは施設にある装置や、監視カメラの類いを一度に操作できるであろう唯一の場所。
きっと、犯人様のお気に入りだ。
「って、ち、ちょっと待ちなさいよ!!
それってつまり、アンタはそこに犯人が居るって言いたいの!?」
「確証は無いよ。
動機次第で五分五分ってところじゃないかな?」
可能性としては五分か、多分それ以下。
だが今は、どの道犯人か暗証番号のどちらかを探さなくてはならない状況なのだ。
犯人が居る可能性のある場所なら、それこそ虱潰しに探してもいいくらいだろう。
「まあ、そういう訳だから、先ずは皆で警備室に行こう。
犯人が居るなら暗証番号なんか直接聞けばいいし、居なくても、カメラを見ればそれぞれの部屋の様子くらいは分かりそうだしね」
まだ腑に落ちない様子の二人に提案する。
「……、いいんじゃない?
どうせ、犯人はいつかとっちめてやろうと思ってたんだし」
「だな。取り敢えず、一発ぶん殴る」
特に反対する要因も見当たらないのだろう。
二人は快く賛同の意を示してくれる。
「よし、それじゃあ行こうか」
点滴台を強く握りしめ、僕たちは警備室の方に歩きだした。




