第四十六章:潔白
「僕は相原 翔太。大学生さ。
罪状は──、特には思いつかないね。無実だよ」
迷い無く、自信に満ちた声で、僕はそう言い切った。
「ケッ、パンピーかよ。拍子抜けだぜ」
「あっはははっ!! やっぱりねー。
だってアンタ、もう見るからに草食系だし……」
「…………」
あー。
氷室、燃え尽きたみたいに固まっちゃってるよ……。
「――って、んな訳あるかゴラァッ!!
テメェ、この状況でナニ寝呆けたこと言ってやがる!!!!」
「そうよ!! アンタね、自分だけいい子ぶろうったって、そうはいかないんだから!!」
二人が、なんかモノスゴイ剣幕で捲し立ててくる。
いや、その。
自分でも、その意見は至極ごもっともだと思うのだが……。
我が妹の名誉の為にも、こればかりは譲れないのだ。
「覚えがないものは仕方ないだろ?
大体。氷室も船橋も、自分の罪状はとっくに思い出してるじゃないか。
何も思い出せないって事は、そのまま僕が無実だっていう可能性を示していると思うけど?」
「貴様の頭の中など、何の証明にもなりはすまい」
氷室は、心底呆れきったような顔で僕を見てくる。
……頼むから、そんな目で見ないでほしい。
罪状なんか、ホントに一切心当たりは無いんだから。
「なんかないの!?
例えば、えーと――、
えーと……。
……、…………。
そ、そう!!
その軽口で総理大臣をバカにして、国家反逆罪とか!!」
「どこの独裁国家だよ。
大体、それならむしろ僕に同情してほしいくらいだ」
何でそんな罪状になるんだ!!
――いや、違う。
きっとそれだけ、僕が罪を犯すような人間になんか見えないという事なのだろう。
……これ、喜んでいいんだよね?
「そういう君こそ、何をしたのかな?
見たところ、随分と衝動的な犯行だったみたいだけどね」
仕返しに、たっぷりと皮肉を込めて亜希に言ってやる。
「はぁ!? バカじゃないの?
あたしが犯罪者なワケが無いじゃない」
「「「…………」」」
あまりに壮絶な棚の上げ方に、その場の全員が固まった。
……まあ、その、アレだ。
人は見掛けに寄らないっていうし、彼女もうっかりと何かをした可能性もあるにはあるが、取り敢えず彼女の無実は信じてみようと思う。
だって、もしも彼女が無実だとしたら、それだけ僕が無実である可能性も高まるわけだし。
なにより、僕には。
彼女が、罪を犯す様な人間には見えないのだから――。




