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第三十章:罠避
「いや、大したことじゃ無いんだ」
情報を与え過ぎないように、慎重に言葉を選んで言う。
「さっき僕を部屋に招いた時に、確かあんたは“もう罠など無い”と言っただろう?
つまりこの部屋には、最初は罠が仕掛けられていたって事だ」
――そう。
問題は、その一点に尽きる。
「でも、あんたはどこも怪我をしている様子は無いし。
今そうやって道具を探しているっていう事は、何か罠避けのような物を使ったっていう訳でも無い」
――これが、僕がこの男を信用出来ない理由。
「つまりあんたがこの部屋に入った時には、少なくとももう一人居た筈なんだ」
そしておそらく、その人物はもういない。
つまりこの男は――。
「…………。
“罠避けのような物を使った訳でも無い”?
はは、馬鹿な。
利用するという観点から見れば、人間だって十分に“罠避けのような物”ではないか」
氷室は表情一つ変えずに、ただ滅菌室の方に目線を送った。




