第二十九章:同胞
氷室は一瞬だけ目を見開いたように見えたが、すぐに元の無表情に戻った。
「な……っ」
それに対して僕は、どうしても驚きが隠せずにいた。
――連れ。
該当し得る人物は、知っている限りで3人程いる。
だが現時点では、彼らの存在は全て隠匿するべきだ。
故人の二人について教えれば僕に疑惑を抱かれる可能性があるし、協力者の亜希については、彼が信用出来る人間だと判断出来るまでは教えられる事ではない。
氷室は一体、誰の事を言っている?
「……さあ、何の事かな。
この状況で、知り合いが一緒に捕まってるなんて事は考えにくいと思うけど?」
「隠す必要は無いぞ?
貴様の左腕に巻いてある、その包帯。
それはおそらく貴様の服だろうが、負傷してから切ったにしては、切断面が丁寧過ぎる。
左腕が動かせなければ、裁縫師でもそうはいくまいよ。
つまり貴様は、治療を手伝った何者かと同伴していた筈だ」
…………。
よかった。
氷室の言葉はあくまでも推測であり、詳細な事情を知って言っている訳では無い。
これなら亜希の事は隠せるし、不都合な情報も与えずに済ませられるだろう。
「――お見事、大当たりだよ。
確かに僕は、ついさっきある女性に出会って、治療を手伝って貰ったんだ。
ただ、彼女は運悪く罠にかかってしまってね。
残念だけど、もうこの世にはいない」
なるべく当たり障りの無い言葉を選んで、僕は告げる。
「……、ふむ。
出来れば詳細を聞きたい所ではあるが、貴様には聞くだけ無駄な様だな。
――して、何故私に連れが居ると推測した?」
氷室は、諦めた様に大袈裟に肩を竦める。
――だが。果たしてこの男が、そんなに簡単な性格なのだろうか?
「いや、大したことじゃ無いんだ」
口を滑らせないように細心の注意を払いつつ。
僕は、世間話でもするような体で口を開いた。




