第十九章:包帯
彼女は僕の隣を通り過ぎ、散らばった肉片に沿って歩いて行った。
その足取りはおぼつかなく、どう見ても明らかに吐き気を堪えているのが分かる。
そして、そんなフラつく足取りで壁にたどり着いたかと思うと、僕の左腕を削いだ凶器を引き抜いて戻って来た。
「何をするつもりかな?」
なるべく、感情の籠もらない様に気を配りながら問う。
――女性は、応えない。
無言のまま僕の隣まで歩いて来たかと思うと、何やら意を決した様に息を呑んで――、
「ふっ……!!」
そんな、気合を入れるような掛け声と共に。
自らの服に向けて、赤い血の付いたナイフを突き立てた。
「?」
暫し、呆気にとられながらその様子を見守る僕。
一度ナイフを刺してからは、覚悟が決まったのか。
女性は真っ白な病人服に真っ直ぐにナイフと立て、迷いなくビリビリと切り裂いていく。
「う……、腕を、出して下さい!!
お、応急措置、しますから!! や、やらないよりは、ましだと思うんで!!」
明らかに赤面して胸部を隠しつつ、彼女は破った服を前に突き出してきた。
なるほど。綺麗に波型に刃を入れられた病人服は、確かに、見てくれだけなら包帯の様に見えなくも無い。
少々困惑気味に腕を突き出すと、彼女は遠慮がちに手を触れて、傷を見ない様にしながらいそいそとソレを巻き始めた。
「い、痛い、ですか……?」
「…………」
――痛くは無い。
いや、寧ろ痛く無さすぎて不味い。
精一杯やってくれているのは分かるんだが……。
こう、巻き方がどうにもぎこちないというか、キツさも止血するには不十分だというか――って待った。そんなに下を縛っても意味が無いんだって……。
「……、ありがとう。
後は自分でやるからいいよ。
君は、その間にコレを着ててくれないかな?
血だらけで申し訳ないけどね」
流石に、女性の上半身をずっと下着姿にしておくのは気が引ける。
苦笑しながらシャツを脱ぎ、僕はソレを彼女へと渡した。




