第十六章:探索
死の罠を掻い潜りながら、僕は廃墟の廊下を探索していた。
亜希とのやり取りで手に入った情報の一つは、どうやら扉の向こうにも通路が続いているらしいという事だ。
この施設は、思ったよりも複雑な造りをしているのかもしれない。
「おーい!! 誰か居ないか!?」
ドアには触れないように気を払いつつ、僕はドアの向こうに辛うじて届く程度の声でそう尋ねる。
――この辺りが、最大公約数的な解答だろう。
もしも扉の向こうに人が居るなら、2人で点検すればある程度は罠の危険性を減らせるだろうし。
……最悪、相手を騙して開けてもらうという手もある。
残る不安要素は、この事態を仕組んだ何者かが部屋の中に潜んでいる可能性だが――まあ、これはおそらく無いだろう。
犯人が音に反応して襲ってくるような輩なら、亜希があれだけの轟音を出しても現れなかった事の説明がつかないし、なにより、こうして罠や監視カメラを備え付ける意味が半減してしまう。
恐らくは、椅子に座って茶でも飲みながら、僕達が苦しむ様を鑑賞しているのに違いない。
「…………」
そんな事を考えている間に、20秒くらいの時が経過した。
――扉からの反応は無い。
どうやら、この中に人は居ないようだ。
「さて、どうしたものかな」
中に人が居ないとすれば、あとは無視するか闇雲に開けるかの二通りの選択肢しか残されてはいない。
二階堂を破壊した罠の存在を考えるに、本当なら、後者は絶対に避けたい事なのではあるが……。
全ての扉の中に人が居る訳がないし、いつかは絶対にやらなくてはならない事なのかもしれない。
せめて、少しだけでも中の様子が分かれば――。
「……ん?」
――ふと、その時。
ナニか、妙な音が聞こえたような気がした。
キチキチ……、キチキチ……、という、まるで何かが軋みを上げているかのような、聞いているだけで鳥肌が立ちそうなノイズ。
音は、どうやら扉の向こうから聞こえてきているらしい。
不規則で、藻掻き苦しむかのようなその音は、何故か生きたまま埋葬された死者が、棺桶の蓋を裏から引っ掻いているような情景を連想させる。
その音が。
余りにも、不気味で――。
「うっ……」
――悪寒がした。
不気味な音が、吐き気を覚える程の絶望的な寒気が、生物としての本能にけたたましい警鐘を鳴らしている。
――分かる。
――見なくても分かる。
このナカに居るのは、生物として絶対に見てはならない、絶対に出会ってはならない類のモノだ。
コレに出会ってしまったら、まず、絶対に人間らしい最期なんか迎えられない。
僕は、逃げ出すようにその場から走り出した。




