第十五章:遠夜亜希
「あ~、もう!! じゃあ、けっきょくアンタはどうしたいワケ!?
ドア開けないって言うんなら、アンタなんか見捨てて行くからねっ!!」
扉越しに、彼女が凄まじい剣幕でまくし立ててくる。
――“立場が逆じゃないか?”、という一言は、また無駄な時間を取るだけっぽいので飲み込んだ。
「そうだね、ちょっと待って……」
言いながら、暫し扉を観察してみる。
一見したところ、この施設の他の扉と全く変わらない白扉のように見えるのだが……。
ふと、ドアの最下部。左端の辺りに、鍵穴のようなモノが付いているのを見つけた。
「――よし。それじゃ取り敢えず、各自ドアの手前側を探索してみよう。
まだ他に人が居るかもしれないし、何よりそれぞれの移動範囲が少なくて済む。
外に出る為の手がかり――もしも階段か、鍵のようなモノを見つけたらここに戻ってくる、ってことでどうかな?」
「……あんたに命令されんの癪だけど、まあ、いいわ。
でも、なんで階段? ここって、ビルか何かなわけ?」
「何を言ってるんだ?
窓が一つも無い廊下に、複数の通風孔。
おまけにこれだけ薬品の臭いが籠もってるなら、地下に決まってるじゃないか」
「…………」
まあ、そうでなくとも。
捕まえた人間を罠で嬲り殺そうとしている犯人が、わざわざ地上に獲物を監禁するなんていうのは考えにくいんだが……。
「し、知ってたに決まってるじゃない!! そのくらい!!
言っとくけど、アンタを試しただけなんだから!!」
「それは良かった。
一瞬、本気で君を心配した所だよ」
「……亜希」
皮肉を言いつつ肩を竦めると、彼女は酷く聞き慣れない単語を口にした。
「?」
「あ、あたしの名前。
ほら、まだ名乗ってなかったでしょ?
あたしは、遠夜 亜希」
――なるほど。
曲がりなりにもこれから協力しようっていうのに、名前も知らないのは確かに具合が悪い、か。
「相原 翔太。
ま、お互い死なない程度に頑張ろう。
君の顔が見られる事を祈ってるよ」
生来の調子で軽口を叩きつつ、僕は扉に背を向けた。




