第十四章:奇遇
「…………、あるんだ」
なるべく、落胆を表さない様に応える。
……落ち着け。
これはそう、アレだ。
二階堂と会った時点で、他の人間がいたとしても“そうなっている”可能性が高いってわかってたし、きっと期待した僕が悪かったんだ。
それに、どうやら施設の人間は全員“そうなっている”らしいと推測できただけ儲け物っていうか……。
「あ~っ、ムカつく!!
このあたしを攫った上に、服どころか記憶まで盗むなんて!!
犯人見つけたら、もうゼッタイ!! ゼッタイ慰謝料に利子付けて取り立ててやるんだからっ!!!!」
「……いや、まあ。
今は過去よりも未来を考えようよ。
特に、これからどうするかとか、ね」
ご機嫌取りみたいで癪だが、激昂する彼女を取り敢えず宥める事に徹してみる。
……“怒るポイント、微妙にズレてないか?”という問いを、すんでのところで飲み込んだだけ褒めて欲しい。
「は? どうするも何もないでしょ?
開かないんだったら、まずはこのドア、なんとかぶっ壊さないと」
「オーケー、わかった。
僕は離れてるから、早くなんとかしてくれ」
ため息混じりに、つい零す。
……まったく。ここでドアを壊すっていう発想が出る辺りが流石というかなんというか……。
「……、ねえ。
こういう時って、さ。
普通は“僕がやるよ。君は下がってて”、とか言ってくれるモンじゃないの?」
「残念だけど、僕には自殺願望は無いんだ。
加えて言うと、普通ならやらないが正解だと思うよ」
「…………」
僕の言い分に納得してくれたのかは分からない。
でも、取り敢えず彼女は、なんかそこで黙りこんでしまった。
……いや、まあ。ドア越しでも、物凄い怒気が伝わってきてはいるんだけど……。
「……アンタ、さ。なんか、一言一言がムカつくんだけど」
「奇遇だね。
僕も、君の言葉を聞くたびにヒヤヒヤしてたところだよ。
ここは一つ“お互い様”、ってことでどうかな?」
薄汚れた廃墟の様な廊下に、気まずい空気が漂った。




