第十三章:記憶
「――それじゃ、7つ目の質問だ。
君も、記憶を失くしている可能性はあるのか?
もしも記憶を失くしていないのなら、覚えている事をできる限り詳しく教えて欲しいんだけど……」
「は? なに?
あんた、記憶喪失なわけ?」
心底不思議そうな彼女の答えに、僕は内心で笑みを深めた。
――7つ目にして漸くのヒットだ。
こういう返答をしてくるという事は、つまり彼女は記憶を失くしていないという事。
それなら最低限、犯人の顔くらいは知っているかもしれないし――上手くすれば、脱出経路まで覚えているかもしれない。
「いや、確証があるってワケじゃないんだ。
ただ、僕の左手の甲には治りかけのカサブタがある。
僕が自分で作った物か、或いは犯人が付けた物なのかは分からないけど……。
僕の記憶に無い傷だって事は、少なくとも僕は、この傷を負ってからカサブタが出来て、更にそれが剥がれかけるまでの数日間くらい、記憶を失くしている可能性があるってだけさ」
「…………」
勿論、現在進行形で僕が握り締めている“二階堂の左腕”にも同じ様な傷が付いているのだが、それを話してもややこしくなるだけなので今は伏せる事にした。
「単純に数日間眠らされてただけって可能性もあるけどね。
ただ、何日も飲まず食わずだったなら、まずこんな風に自由に歩き回ったりなんて出来るはずが無いだろうし……。
つまり、覚えていないだけで、僕はこの数日間も食事はしてたって考えるのが普通じゃないかな?」
「…………」
彼女からの反応は無い。
……ま、ある意味当然か。
いきなり初対面の男に記憶が無いだなんて言われたって、普通はどうでもいいか胡散臭いとしか思えないだろう。
分かり切っていた事でもあるので、礼儀として結論だけは告げておく。
「……まあ。でも、これも確証じゃないんだ。
僕の胃の中は空っぽみたいだし、もしかしたら点滴みたいな物を打たれて、飲まず食わずで何週間も寝かされてたって可能性だってあるから。
さて。それじゃ本題だけど、君にはその間の記憶があるんだよね?
それなら、なんでもいいから拉致されてからの事を――」
「ゴメン」
彼女は間髪入れずに謝ってくる。
……失言、だったか?
確かにこんな、顔も知らない上に記憶まで失くしてる男なんか、信用するには怪し――
「あたしにも、その傷あるっぽい……」
――情報価値が、失われた。




