第十二章:愚痴
あれから、五分ほど経っただろうか。
僕は、なんとか彼女を落ち着かせて話を聞いていた。
「――ったく、何なのよこのワケ分かんない施設は!!
歩いてるだけでいきなり針だのガラスだの飛んでくるし、ムダに臭いし汚いし!!
オマケにこのセンスの欠片もない服ときたら――!!」
「…………」
――訂正。
あれから、五分ほど経っただろうか。
僕は、未だ落ち着かない彼女から一方的に話を聞かされていた。
……ナニがマズいって、そりゃ有益な情報がナニ一つ含まれてないって事だろう。
これでは、愚痴を聞かされているのと変わらない。
「……まったく、同感だね。
で? 君は、そのワケの分からない施設について何か知っているのか?
僕としても、こんな所からはさっさと――」
「知るわけないでしょ!? あんたバカ!?」
「…………」
……り、理不尽すぎる。
いや、というかそもそも、僕がこの子の話に付き合っているのは、現状を把握するための情報が欲しいからなわけであって、本当に何も知らないっていうなら、僕は一体何のために彼女の愚痴に付き合わされているのか全く分からなくなってしまうワケなんだが……。
「……、わかった。少し、質問を変えよう。
君の周りには、いま何が見えている?」
「? 見えるモノ?
えーと、なんか真っ白な壁がダーって続いてて、目の前にあるのがこのドア。
天井には蛍光灯があって、通風口みたいなのも沢山あるけど……って、そんなの聞いてどうするってのよ!!」
「…………」
――白い壁に、通風口。
どうやらこのドアの向こう側も、こちらと同じ様な通路になっているらしい。
加えて、先程の彼女の言動から察するに、どうやらこのドアには鍵が掛かっていて開かない、と。
「……? ちょっと!!
黙ってないで何とか――」
「よく分かったよ。
それじゃ、次の質問だけど……」
とにかく、今何よりも必要なのは“情報”だ。
二階堂の時と違って、お互いが居る場所が違うのだから、会話だけでも何か得る物はあるだろう。
僕は、彼女と話を続けてみる事にした。




