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エピローグ

「卒業おめでとうございます」


 花束を差し出せば、十夜は嫌そうに顔を歪める。

 思えば、去年、彼はこの役を放棄して紗綾に押し付けたものだ。

 前部長から新部長へ花束を渡すということに意味があるということだったはずなのに無視した。

 尤も、受け取る側である前部長の光も「どうせ貰うなら女の子がいい!」と駄々をこねたのだが。


「じゃあ、一応、俺からも卒業おめでとうっス」


 圭斗は言うが、やる気なさげだ。卒業式という行事に合わせて髪を黒く染めているが、きっちり絞めていたネクタイは既に緩んでいる。

 最早、髪をオレンジにしている必要はなくなったらしいのだが、それが自分らしいと言って彼は派手な髪色を続けている。


 あれから、オカ研は徐々に信頼を得ていった。

 メール相談、相談箱には時折いたずらもあるが、今や十夜を恐れる人間は減っている。

 未だに悪魔や魔王や生贄という言葉の名残はあるが、前ほどネガティヴな意味合いではなくなっているように思える。



「俺には花ないのかな?」

「将也先輩……」


 急に背後から現れた将也に紗綾は驚いた。

 危うく花束を落とすところだったが、ようやく十夜が観念して受け取ってくれた。


「先輩には私達陸上部一同から、ちゃんとあげたじゃないですか。それでもまだ欲しいとかどれだけ強欲なんですか、あなたは」


 将也の後ろから香澄が顔を出す。すっかり呆れている。


「腹黒先輩がこっちに向かってると思ったから追いかけてきたの。油断も隙もないことで」


 香澄はまた棘を出す。

 紗綾は香澄がもしかしたら将也のことが好きなのかもしれないと思っていたが、全くそんなことはなかったらしい。

 どうやら、本当に将也が言うように嫌っているらしいということだった。

 しかしながら、それほど重い話でもなく、彼女は彼の腹黒いところが嫌いで、ストッパーになるべく敢えて反発していたらしい。


「さっき、女の子達が色々くれようとしてたのにね」

「佐野先輩!」


 香澄に続いて顔を出したのは佐野だった。

 将也の友人であり、十夜のクラスメイトでもある。

 このところ、この三人は一緒にいることが多いようだった。紗綾にとっては喜ばしいところである。

 けれども、佐野の顔色があまり良くないように見える。なぜか息を切らしている。


「何かさ、身包み剥がされそうで逃げてきたんだよ。黒羽の側にいれば安心っていうか……駆け込み寺?」

「ボタン……とかですか?」

「いや、本当に身包みって感じ。やばかった。パンツ一丁にされるんじゃないかと思ったよ」


 将也も逃げてきたと言うことなのだろうか。


「上総は凄いよな。服を守りつつ、ちゃんと対応してる」


 文化祭効果で急増した佐野と上総のファンは未だ衰えないようだ。

 紗綾も佐野を通して少し知っている程度だが、その様は用意に想像できる。


「あー、じゃあ、あの人、しばらく女の子に困りませんね。先輩も確保してくれば良かったのに」

「田端君、こんな暇で人聞きの悪いこと言わないでくれるかな?」


 香澄の更なる棘に将也が顔を引き攣らせる。

 そうしているとやはり紗綾は安定のコンビだと思うわけである。


「先輩が腹黒いのがいけないんですよ。今すぐホース突っ込んで洗浄したいくらい」


 暴言にもほどがある。紗綾は思ったが、ピッと佐野が手を挙げた。


「それ、同意。でも、漂白剤も使わないと」

「いくらあっても足りそうにありませんね。いっそ、白い絵の具流します?」

「でも、司馬の腹黒さはどうにもなりそうもない」


 どうしたら、そんなひどい話になるのか。

 ぐるりと将也が佐野を見る。


「佐野、君は誰の味方なの?」

「お前以外の誰かかもな」

「なんでそんなに扱いが悪いんですか……?」


 なぜか、将也の扱いは紗綾が思っていたものと違うのだ。


「何でだろうね……みんなで俺をいじめるんだよ。慰めてくれる?」


 どうしたらいいのか、紗綾が悩んだ瞬間、ひょいっと体が浮き、引き離される。背後には十夜がいた。


「ほんと腹黒っスよねー。一番の味方みたいな顔して一番害虫」


 圭斗がニヤニヤと笑っている。彼が目上の人間に対しても挑発的であることはわかっていたが、それにしても将也の扱いは共通しているように見える。


「うっわ、君に言われたくないよ」

「え? 俺は先輩的に益虫なんだと思ってましたけど?」


 優しい先輩なのに、どうしてだろうと紗綾は首を傾げる。


「だから、騙されてるの!」


 香澄が言えば、将也以外の全員が頷くという状態だ。

 けれど、将也には悪いが、それが妙に楽しく感じられたのだ。

 あの十夜までもが少し笑いながら頷いているのだから。

 少しは彼にとっていい思い出ができただろうか。紗綾は考える。

 十夜が卒業したからと言って縁が切れるわけでもない。いつでも会えると彼は言う。思い出もいつでも作れるだろう。




 そうして、第三代部長黒羽十夜が卒業し、オカ研は生贄制度を廃止した。

 存続は危ぶまれたが、紗綾が心霊相談所としてオカ研を開放的な物にしたために、その後何度か十夜が放課後に現れる姿が目撃されることとなる。

 その様は完全に魔王がこき使われているようだったと語られた。

 だが、その一年後、紗綾が卒業すると、圭斗は退部届を提出し、オカ研は正式に廃部となった。

 その年、入部を希望する者がいたのだが、顧問である嵐や公認していた校長が離任しては存続も不可能だった。


 その後、第四代部長月舘紗綾は最後のオカ研部長として神の如く、榊圭斗は五代目を継承しなかった悪魔として伝説のように語られることになるのだが、本人達は知る由もなかった。

これにて、『Catch-22~悪魔は生贄がお好き~』完結となります。

自サイトの方で2009/07/13に開始し、2011/10/01に完結した『Catch-22』の加筆修正ということで、少し懐かしみながら直していました。

近々続編を公開する予定でして、そちらについては追って告知をしたいと思います。

この後一つ番外編を載せる予定です。

ここまでお読み下さり、誠にありがとうございました!

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