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クラスメイトの策略

 文化祭一日目、まずは体育館でオープニングがある。

 何より盛り上がったのはバンド演奏だ。

 軽音楽部の演奏が何とも言えない空気を出してしまったのに対して、三年生の有志による演奏は凄まじい熱狂ぶりであった。


「三年生のバンド凄かったね」

「ヴォーカルの人、格好良かったね」

「私はギターの人かな?」


 女子達の話題はもう彼らのことで持ちきりである。ヴォーカルの上総(かずさ)とギターの佐野(さの)の人気は凄まじい。どちらも知り合いであるだけに紗綾は複雑な気分だった。


「月舘さんはどっち派?」

「紗綾は二人とも知り合いだったよね?」

「えっ、嘘!?」

「香澄も知り合いだよね……?」


 紗綾は香澄の言い方に引っかかりを覚えた。

 将也の友人というだけで仲が良いというわけでもない。接点があるというだけだ。それは香澄も同じはずだった。


「佐野先輩はちょっとだけ知ってるけど、上総先輩はあんまり」

「廊下で会ったら少し話すとか、それくらいだよ?」

「佐野先輩でも挨拶だけよ」


 紗綾は思っていたのとの違いに首を傾げた。てっきり香澄も同じ扱いだと思っていた。


「……心配してくれてるのかな?」

「佐野先輩はまだしも上総先輩は……」


 香澄は険しい表情で考え込む仕草を見せ、クラスメイトの女子の興味津々と言った視線が突き刺さる。


「大体、どうやって知り合ったの?」

「将也先輩だよ」

「司馬先輩だっけ」

「そりゃあ、佐野先輩とはよく連んでるの見るし、ってことは上総先輩もついてくるとは思うけどさ……うーん、納得できない」


 香澄は何がそんなに納得できないのか、唸っている。紗綾も考えてみるが、よくわからなかった。


「はいはい、この話はここまで!」


 香澄は話を打ち切るようにパンパンと手を叩く。

 はしゃいでばかりもいられないのだ。これから各クラス準備に取りかかり、公開が始まるのだから。


 紗綾が着替えるのは明日の一般公開だけでいいと言われたのだが、手伝いが必要だと言われて更衣室にいた。

 できることがあるなら喜んですると言ったものの、何の衣装かは一切聞かされていない。

 香澄が出したのは浴衣のようだ。すぐにわかったのは夏祭りに行った時に見たからだ。

 彼女らしい選択だとも言える。

 だが、紗綾はそれぞれが出した衣装を見て固まった。


「な、なんで、みんな、浴衣なの?」


 誰もが当然のようにしているが、紗綾は一言も聞いていない。全員浴衣だとは。


「急だったから、衣装用意できなかったし、香澄も浴衣ならOKって言うから」

「そうそう浴衣カフェってことで」


 確かに香澄を説得するのは容易ではないだろう。

 紗綾もいかに説得して、何を着せるか気になってはいた。


「でも、月舘さんは例の服でお願いね!」

「よろしくね!」


 ニコッと笑われてしまえば、何も言えなくなる。




「何? あんた達、紗綾のこと騙したの?」


 香澄の表情が少しだけ険しくなる。

 まだ完全に溶け込んでいるわけではないからこそ、彼女はそうして過保護になるのだ。

 だからこそ、紗綾はそこに縋ってしまう。


「騙したっていうか……本当のこと言わなかったっていうか……」

「騙されたわけじゃないよ」


 責められているようなクラスメイトを咄嗟に紗綾が庇おうとすれば、香澄が大きく溜息を吐いた。


「でも、全員浴衣で自分だけ違うとは思わなかった。そうでしょ?」

「う、うん……」


 問い詰められれば頷くしかない。そう思ったのは事実だ。


「そうとわかってたら、OKしなかったかも?」

「かも……」


 みんなが何かコスプレをすると思ったからこそ、決意したわけだ。全員が浴衣なら、自分も浴衣がいいと思いもする。

 だが、悪気があったわけではないと思うのだ。

 どんな形であっても自分を仲間に入れてくれることには感謝している。なのに、それをうまく伝えられない。


「だから、騙したって言うの。その手口、どっかの人達とまるっきり一緒だし」

「どっかの人達?」

「嘘は言いません。でも、不都合な真実も言いません。なーんて、あいつらの常套手段でしょーが」


 オカ研のことを言っているのだろう。だが、どちらかと言えば嵐の方針かもしれない。



「あのね、香澄。王子喫茶に対抗できるのは月舘さんだけだと思うの」


 再度、今度は紗綾の保護者として香澄を説得しようというのだろう。


「王子喫茶ぁ?」


 香澄が変な顔をした。


「イケメン王子様がクレープを作ってくれるっていう……」


 もしかしたら、彼女達も行きたいのかもしれないと紗綾は思った。

 紗綾も全く興味がないわけではないが、一人で行こうという勇気はない。


「どこのクラスよ、イケメン売り物にして女子を食い物にしようとしてんのは?」


 香澄はイケメンという言葉をよく使い、反応もする。

 だが、彼女自身は興味があるわけでもない。


「香澄がよーく知ってる司馬先輩のクラスだよ」


 それを聞いて香澄が固まる。暫く沈黙が続いた。


「…………まったく、あの人は何やってんだか」


 盛大な溜息だった。


「それで、我がクラスは急遽浴衣カフェになったってわけ。おわかり?」

「で、紗綾で何を企んでるの?」


 その声は問い詰める厳しさを孕んでいた。


「衣装提供はクッキー」


 肝心なことは言っていない。

 けれど、香澄は「あー」と声を漏らす。


「……何かわかった。わかりたくないけど、わかった。わかっちゃった気がする」


 その表情は決して明るくない。

 彼女にとっては決して名案ではないだろう。


「紗綾にあのわけわかんない格好させて、外に放り出そうってわけ?」

「わけわかんなくない! ゴスロリはロマンよ!」


 このまま言葉のバトルにでも発展するのではないだろうか。それはまずいと紗綾は慌てたが、クラスメイト達は笑っているだけだ。


「紗綾はそれでいいの?」

「私は……香澄もコスプレするって言うから……」


 敢えて言うならば、香澄のコスプレが見たかったなどとは口にできるはずもない。

 できるならば、一人だけ黒服で歩き回るのもどうにかならないかと思っている。

 けれど、クラスに貢献したいとも思っている。


「じゃあ、わかった。紗綾も浴衣。それなら、なんの問題もないでしょうよ」

「浴衣なら……」

「ダメ、ダメダメダメダメ! それじゃあ勝てないのよ!」

「別に勝ったって何もないでしょ」


 一体、どんな対抗意識なのだろうか。

 しかし、紗綾は自分が勝利の一手になれるとは思わない。到底なりえないことだ。


「噂によると、司馬先輩は何か企んでて、誰が着るともわからない秘密の衣装が用意されてるとか。それが最終兵器らしいのよ」


 将也が一体何を考えているというのか。

 自分のクラスを卑怯な感じと言った彼が何をするというのだろう。


「しかも、司馬先輩のクラスには今人気急上昇中の佐野先輩がいて、当然売り子」

「これを読んでたなら恐ろしいわ!」


 ステージで彼らはクラスの出し物の宣伝するようなことはしなかったが、あっという間に広まることだろう。



「……とりあえず、着るの手伝ってくれる?」


 本日、三度目の溜息を吐いて、香澄はその議論をやめにしたようだ。


「何か将也先輩イメージ違うね。噂だからかな?」


 香澄の着替えを手伝いながら、紗綾は小声で聞いてみた。

 嵐について部とクラスでのイメージが違うのはわかっている。

 だが、表裏があるからであって、将也にはないはずだ。


「大体、合ってると思うけど。あの人、どこぞの策士以上の腹黒大魔王だから」


 そう答える香澄はどこかうんざりした様子だった。


「は、腹黒大魔王……」


 紗綾にとって将也は大天使だ。腹黒大魔王とは真逆である。それではまるで十夜の上を行くようでもある。


「香澄って、将也先輩のこと嫌いなの?」

「何よ? 急に」


 香澄は笑う。もしかしたら、将也の気のせいなのかもしれない。


「先輩が嫌われてるみたいなこと言うから……」


 そんなことはないと紗綾は思っていたが、香澄の表情は曇る。


「あー……やっぱり自覚、あったんだ。あの人」

「え、何?」


 紗綾には香澄が何を言ったのかよく聞こえなかった。

 それほど、香澄にしては珍しく小さな声だった。


「その内」

「え、何?」

「その内、話すから……」


 歯切れの悪いのも香澄らしくない。けれど、紗綾は頷くしかなかった。


「で、紗綾はいいの?」

「何が?」


 何の話だろうか。紗綾の頭からはすっかり飛んでいた。

 それには香澄も呆れ顔だ。


「何がって……着ぐるみのアルバイトみたいな」

「き、着ぐるみ……?」


 どこから、そんなものが出てくるのだろうか。


「だって、そういうレベルでしょ?」

「でも、着て歩くだけなら……私も何かしたいから、だから……」


 必死に伝える。


「わかった」


 香澄はと頷く。納得してくれたようで紗綾はほっと息を吐いた。


「じゃあ、止めない。でも、本当に嫌だったら、ちゃんと言いなさいよ?」

「大丈夫だよ」


 いつまでも頼ってはいられないのだ。

 退部届を出してしまえば、守ってもらう理由もなくなる。

 早くそうしなければと思うのに、躊躇いがあった。

 独り立ちしたいと思っているのに、守られるのはやはり楽で抜け出しがたかった。

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