サイキック・カウンセラーは語る
「君ならば、私を救ってくれる。勝手だと思われてしまうでしょうが、そんな気がするんです」
「それは……彼らと同じじゃないですか?」
自分ではなく、守護霊が救うのだと紗綾は思う。
だから、それを求められることはオカ研と何ら変わりない。
期待をされても困るのだ。ただいること、それ以上を求められないこと、存在だけを必要とされるのは辛い。
気付かないフリをしていただけで、ここは随分と前から悲鳴を上げていたのかもしれない。
「君の守護霊について、説明しておくべきなのでしょうね」
海斗は困ったような、悲しげな表情をした。
「守護霊は君に危険が及ばない限り、何でもかんでも守ってくれるというものではありません。もし、今まで他人を守ったことがあっても、それは君を守るついでというものでしょう。いえ、この言葉はしっくり来ませんね」
そこで言葉を切って、海斗は少し考えるように首を捻った。
「守ることで君への被害をなくすということでしょうか。無条件に他人を助けることはありません」
あくまで君の守護霊ですから、と海斗は言う。
眷属と呼ばれるものとはまた性質が異なるのだろう。もう少し勉強しておくべきだったのかもしれない。否、もう必要ないのかもしれない。
「ただ、君が守られているということは我々にはとても都合がいいのですよ」
「守らなくていいから……ですよね?」
「ええ、簡単に言ってしまえば、そういうことですね。霊的な作用であって、全く安全ということではない。単に運が良いだけ、とも言えますが」
解釈が少し違う。そんな風に紗綾は思う。
誰が正しいことを言っているのかはわからない気がした。
否、サイキックではない将也の解釈に引きずられているところがあるのかもしれない。
だが、海斗が言うことを真に受けてもいけない気がする。誰を信じるかは自分で決めなければならないのにわからない。
自分のことでありながら、理解が及ばない問題だからこそ困るのだ。
「ですが、君が加護を受けていなくとも……もし、出会えたなら、私は君を必要としていたでしょう」
「え……?」
それは、まるで告白のようでドキリとするが、彼にはそのつもりはないだろう。深い意味などあるはずがない。
「君はとても優しい人です。全てを受け入れるような、穏やかな波のように」
「私はそんなにいい人じゃありません」
ただお人好しと言われるだけだと紗綾は思う。
少しずつわからなくなっていく。
自分が怒るべきか、悲しむべきかもわからない。
穏やかなのではない。自分では何もできないだけだ。ずるいのだとわかっている。
「けれど、悪はもっとこの世に厚かましく存在します。君は被害者です。残酷なシステムに君のような人間を巻き込むべきではなかった」
オカ研の、魔女のための生贄のシステムに巻き込まれてしまったのは間違いない。
それも受け入れたフリをし続け、結局は受け入れたくない事実から逃げて、今は被害者面をしているのかもしれない。
それでも、彼らは厚かましい悪などではないと思う。確かに厚かましい面は全く否定できないが、悪ではない。海斗も彼らのことを言っているわけではないだろう。
「少なくとも、君はきちんと受け入れようと努力しています。私にはそう見えます。なかなか信じることなんてできないですよ」
彼らがサイキックであることは今でも信じている。疑うような理由もない。
受け入れることが当然だと紗綾は信じていた。そうしなければならないと思っていた。
「あの、海斗さんに聞きたいことがあって……」
関係のないことかもしれない。詮索すべきではないのかもしれない。
それでも、切り出してしまった。
「どうぞ、何でも聞いてください。お約束した通りです。遠慮はいりません」
何でも聞く、何でも話すと確かに彼は言った。
だが、その言葉に甘えていいのかとも思っていた。自分には関係のないことであって、明らかに彼の問題だ。
微笑まれても、本当にいいのかと迷ってしまう。
「あの、前に、女の人が校門に立っていたんです。圭斗君にあなたのことを聞いていたんだと思います」
口にした瞬間、海斗の表情が曇るのがわかった。
圭斗の時にはあれほど冷たい顔をしていたのに、今はとても悲しそうにしている。
「彼女は……昔の恋人というものですよ。少なくとも、今の私には他人です」
少し言いにくそうにしているのは、圭斗に見せる表情が仮面なのか。
「一度、彼女を助けました。その力が苦痛でも、助けずにはいられなかった。放っておけば、彼女がどうなるかわかっていたから、見捨てられなかった。思えば、その時から勘違いは始まっていたのでしょうね。憎んだ力が役に立ったことで、他人から感謝された。舞い上がってしまったのでしょう。私も男ですからね、単純なものです」
まるで他人のことを分析するように、海斗は続ける。
「お互いに必要としているのだと思っていました。一緒にいることが当然だと。私は何かあった時には彼女を助け、彼女は私の弱い心を支えてくれると」
それは、光と花のような依存関係だったのか。
紗綾には想像でしかないが、それが壊れた時ほど恐ろしいことはないような気がしていた。
「次第に、彼女は私を束縛するようになりました。毎晩連絡しろと迫られ、自分以外の女を助けるなと言われ、私は決して休まらなかった。別れを切り出すと、彼女は半狂乱になり、全く話を聞かず、手に負えなくなりました」
大人しそうな、可愛らしい女性だったと紗綾は思う。
しかしながら、圭斗に詰め寄った様子を見れば、不思議ではないように思えてしまう。
「それから、私は街を出て、少し放浪することになりました。得たものもありますが……まあ、女性に話すようなことではなかったですね」
申し訳なさそうな海斗を見ても、どんな声をかければいいのかわからない。
聞いたのは自分だ。だが、言葉が出てこない。
彼女が街を出たから戻ってきたと彼は言う。だが、本当にそれだけなのだろうか。
目的のために戻ってきたのではないかと思うこともある。
それを単刀直入に聞くこともできない。
「どうにも他人に依存されることは得意ではありません。多分、君もそうじゃないですか? どうしたらいいかわからくて、突き放すこともできない」
その結果が現在なのかもしれない。
彼の言い方はそれを暗示しているようにも聞こえる。
「彼女は随分圭斗を責めたようです。圭斗も彼女に恋心があったのかもしれません。まあ、私達が取った取られたと喧嘩するのもよくあることでしたし」
圭斗の辛そうな表情が蘇る。確かにそうとも取れるかもしれない。
「今、また君を取り上げたと、憎まれてしまったでしょうが」
あれから、ずっと圭斗とは話していない。
どうしたらいいのか、何もかもがわからない。
せめて海斗の話を聞けば、少しはわかる気がしていたが、益々混乱するばかりだ。
「それでも、もし、君が私の側にいてくれたらと思うんです。君が事務的なことを引き受けてくれるならば、きっと苦痛も和らぐ。君の持ってるオーラはとても心地いいんです」
彼とは会ったばかりだ。
それなのに、なぜ、これほど自分を必要とするのか。
その言葉を素直に信じてしまってもいいのか。
紗綾は考える。何度も何度も考える。
「たとえば、君が進学するならば、卒業してからでも構いませんし、時間がある時だけでも構いません。きっと、そんなに先のことは考えられないでしょうから、たまに、こうして会ってくれるだけでも十分です。お茶を飲みながらお話でもできればいいんです」
進学、その言葉に紗綾は自分の胸に小石が落ちてくるのを感じた。
もう二年生も半ばを過ぎようというのに、進路のことはまるで見えていない。
「恋人になってくれと迫ったりもしません。あくまで仕事上のパートナーといった感じです。その一線を越えることはないと保証しましょう」
「仕事……」
上手くついていけないまま、話が大きくなっている。
そんな戸惑いを見せれば海斗はすぐに気付く。
「固い言い方はよくありませんね。ボランティアだと思っていただければ」
「それなら……」
「いいんですか?」
「私で良ければ……大した話し相手にもなれないと思いますけど」
彼を信用しきってはいけない。そんな気がするのに、考えられず、ついそう答えてしまう。
断ることはどうにも苦手だった。
「ありがとうございます」
そう微笑む海斗を見れば、良かったと思ってしまう。
そして、一つの問題が解決できたような気になってしまっていた。




