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プロローグ

 一体、どういうことなのか。

 月舘紗綾(つきだてさや)は唖然としていた。

 神前高校体育館、不安と期待で胸を膨らませる新入生達の中で、どうしたものかと首を捻る。

 目の前に大きく貼られた紙にはクラス分けが発表されているのだが、紗綾の名前はどこにもなかった。


 あると言えばあるのだ。確かに『月館沙稜』という名前が。

 だが、合っていると言えば、一文字だけである。

 一文字間違っているだけなら、紗綾自身もよくあることだけだと片付けてきた。

 しかしながら、三文字間違っているとなると、よく似た名前の別人なのかとすら思い始める。


 どうして、自分がこんな目に。

 心細さの中で紗綾は泣きたい気持ちですらあった。

 高校生になることは期待よりもずっと不安が大きかった。ここで何もかも円満に進んでくれれば、少しは希望も持てたかもしれない。

 それなのに、運は既に合格したことで使い果たされてしまったのかもしれない。

 そもそも、本当に自分は合格したのかとさえ思い始める。自分ではなく、月館沙稜という人物が本当に存在するのではないか。

 妄想は留まることなく、膨らみ続ける。きちんと番号で確認したのに、あり得ないと思えるほど紗綾は冷静ではなかった。

 ただでさえ心配性であるのに、不安は留まるところを知らずに加速する。


 そして、紗綾は自覚する。自分は不運なのかもしれない、と。

 不幸ではない。とにかく不運なのだ。

 些細な、ほんの些細な、不運という言葉を使うことさえ躊躇われるようなことであるが、頻繁に起きてしまえば、何かがあるのではないかと思わずにはいられない。


「君、どうしたの?」


 落ち着いた声が響く。

 ゆっくりと紗綾は振り返る。

 その声は、その時は確かに天の声にさえ聞こえたのだ。救世主が現れたと表現してもいいのかもしれない。そう感じた。


 既に運命が全く予想外の方向に進んでいること、その恐るべき引力の強さに気付くこともなく。

 後にその人が悪魔だと呼ばれ、策士などと認識するに至るとも知るはずもなく。

 ここが始まりだったと振り返ることになるとも知らずに。


 そして、一年後――

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