想い出
大切な想い出がある。忘れられない想い出がある。
いい想い出、辛い想い出、数えればキリがない。
数えれば、辛いことの方が多い気がする。
弱く、傷付きやすい自分はただ、それが「忘れられない想い出」になる。
ただ、弱い自分は、それが時に支えきれないほど重く圧しかかる。
でもこれだけは誇れるんだ。どんなに辛いことがあっても、どれだけ傷付いても、それを「忘れたい」と想ったことは一度もなかった。
忘れず、受け止めることで、その痛みを繰り返さないと自分に誓うんだ。
忘れたくない想い出は、必ずしもいい想い出なんかじゃない。
「辛い想い出」は、重く圧しかかるそのシガラミから抜け出すことで、「今」を手にする。
そして「今」がいつか、「いい想い出」として自分に刻まれる。
そうして、過ちを繰り返さない「これから」を歩んでいくんだ。
そうやって生きてきた。それが生きることだと思った。
大切な想い出がある。忘れられない想い出がある。
忘れてはいけない想い出がある。
カノジョはいつもそばにいた。誰よりも信頼していたし、誰よりも信頼されていたと思う。
ただ、自分の中でカノジョは、「アタリマエ」になってしまっていた。
人が呼吸をするように。空腹を埋めるために食事をするように。
朝起きて、日課のコーヒーをすすりタバコに火をつける。
服を着て、いつもの履き古した靴で外に出る。
カノジョの存在は、そんな自分の日常の一部になっていた。
そこにいるのが、「アタリマエ」だった。
カノジョと出会って、カノジョを知るにつれ、自分の中でカノジョが特別な存在であることに気付いた。
一生守っていきたいと想った。大切にしていきたいと願った。
でも積み重なる月日と、自分の甘えが、それを「アタリマエ」に変えていた。
一番大切なことを、忘れてはいけないことを、最愛の人がそばにいる喜びを忘れてしまっていたんだ。
そしてそれがまた、「忘れられない想い出」になる。
『でも、それは忘れたくない想い出になるんだろ?』
『いや、忘れたい想い出さ』
『何故だい? 「これから」二度とその痛みを繰り返さないために受け止めないのかい? 忘れたいなんて思わないだろ?』
『そうだな。でも言っただろ? 自分にとってカノジョは最愛の人だった。もう自分にはカノジョ以外ありえない。そんな自分に、「これから」なんてもう必要ないんだ。最愛の人は、他の誰でもなくカノジョひとりだから。一番忘れてはいけないことを、忘れてしまったんだ』
もうカノジョは自分のとこには戻ってはこない。
だから、「忘れたい想い出」になる。他の誰かじゃ駄目だから。
これからもずっと、カノジョを忘れないために。
これからもずっと、カノジョを愛し続けるために。
他の誰かを、愛さないために……。
でもそれは、「忘れられない想い出」になる。
失恋した直後は、こんな風になったりします。
ただ、時が経てば、傷も癒され次に進んでるんですけどね。