33
〜キャバクラ・ケロケロ〜
「……ここか。」
店の前では、客を呼び寄せる、ボーイさんが立っていた。
「いらっしゃいませー!お兄さんどお?寄ってかない?」
…少し、近寄りがたい。勇気を出して、ボーイさんに声をかけた。
「あの…」
「ん?君、何歳?悪いけど、君みたいな子供は雇えないんだ。ごめんね。」
「いや、アリサさんって人、いますか?落とし物を届けに来たんです。」
「え?それな…」
バーン!
と、勢いよく店の扉が開かれた。
「ヤッバー!どこだ?どこに落とした!?」
あっ、さっきの人だ。ものすごく焦っているのがよくわかる。多分、財布を落とした事に気付いたんだな…。
「オイ!カトちゃん。私の財布を捜してきなさい!」
「え?あぁ…、それなら今……」
「あーーー!!!アタシの財布!」
…私の持っている財布を指指し、大袈裟なリアクションを取るアリサさん。まあ、物が物なのだから、当たり前の行動と言っていいだろう。
「届けに来てくれたの?あっりがとー!感謝するよ。」
「いえ、当たり前の事をした迄です。」
「おお!謙虚なガールじゃないかい!気にいった!あんた、明日ひまかい?お礼がしたいんだ。」
「え?いや、お礼なんか……」
「なんで!?いいじゃない。そうじゃないと、私の気が済まないから、さ。今日は仕事だから、明日の午前中にここに来てよ。」
そこまで言われたら、断る理由なんかなかったし、素直に好意を受け取る事にした。
「あ…、はい。わかりました。」
「よし!いい子だ。んじゃ、明日ね♪」
なんだか、賑やかな人だな。と、感じた…。
HIT!!
HIT!!
「……おい、お寝んねするには、早いんじゃないのかい?」
「……うっ、……あっぁ。」
……ボロボロだな。多分、HPももうそんなに残ってない。
〜注意!〜
AMAMIYAの体に負荷がかかり過ぎています。
現実世界の肉体に、大きな影響を及ぼす可能性があります。
ログアウトする事をオススメします。
……この注意メッセージが出るって事は、相当ヤバイ。もう、HPは0かもしれない。0になっても攻撃を受け続ける、もしくは、HPは残っているが、大怪我をした時に出て来るメッセージが、この注意メッセージだ。警告メッセージがでると、死ぬ一歩手前。
〜翌日〜
「オーッス!来たね〜。」
「こんにちは。」
指定された時間通りに、ケロケロに行くと、既ににアリサさんが待っていた。…待たせちゃったかな?
「待ちました?」
「いや、全然!じゃ、行こうか。」
「あの……、何処に行くんですか?」
「………歩きながら、話そうか。」
昨日とは違い、真剣な表情のアリサさん。……なんだか、ちょっと恐い。
「まず、ここに入ろうか。」
アリサさんが指した場所は、ファミレス。お礼って、食事の事か。……ゴチになります!
「いらっしゃいませ。二名ですか?」
「うん。」
「こちらにどうぞ。」
案内された席に座ると、アリサさんが真剣な表情で、話しかけてきた。……なんだろう?
「私は、さ…。仕事柄、いろんな人を見るからわかるんだ。」
わかる?なにがだろう?
「なにがですか?」
「昨日会った時にさ、眼見てわかったんだ。あんた、毎日が退屈だろ?眼が死んでる。はっきり言えば、仕事で疲れ果ててるサラリーマンよりも酷い眼だ。目的も目標も無い毎日に、あんたは絶望してる。けど、そんな現実に抗う力もない。どうしていいのか、わからない。そんな眼を、あんたはしてる。」
……そうなのかもしれない。毎日学校ではいじめられ、特にこれといった目標もないし、何かに打ち込む物もない。部活には入らず、学校と家をたどる毎日。友達もいない。けど、自分の中の、何かを起こそうとしても、行動に移せない。まさに、アリサさんの言う通り、私は死んでるも同然。
「それでね、あんたにチャンスをやろう!ここが、あんたの人生の分かれ道。常識を覆すような、ぶっ飛んだ体験をしてみない?」
……常識を、覆す!?どういう意味?ひょっとして、宗教勧誘か何かかな?
「常識を覆す?宗教勧誘ですか?」
「馬鹿!んなもんより、もっと素晴らしいもんさ。」
………麻薬かな?
「麻薬なら、私はけっこうですけど…。」
「……暗い。あんた、思考回路が暗すぎる。どんだけマイナス思考なんだよ?ええい、めんどくさい!ご飯食べたら、連れてってやるよ。」