32
「ひざまずけ!命ごいをしろ!小僧から石を取り戻せ!」
くっ、ヤバイ…。このままじゃ、最悪の事態に陥る!どうにか…、どうにかしなければ!
「どきな、そらユパ…。コイツは、僕が殺す!」
……カーテテルが、凄まじい形相で、私を睨みつけてきた。殺意を剥き出しにして、憎悪を込めて睨んでいる瞳は、まさしく、悪魔の形相と呼ぶに相応しい。立って逃げようにも、自堕落ソードが右足を貫通して突き刺さっているため、逃げる事すらできない…。
ああ…、終わった。
初の対人戦闘敗北!
それと同時に、頭をよぎる単語。
死
……胸が、疼く。ざわつく?この落ち着かない、感覚は、なに?
………ああ、そうか。これが、恐怖!
……でも、なんで?アダムと対峙した時すら、こんな気持ちにはならなかった。
「顔上げろ…。」
「痛っ!」
カーテテルが、左手で髪をにぎりしめ、無理矢理顔面を上げさせる。そして…
〜AMAMIYA〜
カーテテルの攻撃!
殴打!
HIT!!
顔面を右拳でおもいっきり殴られた。鈍い音と共に、頬にめり込む拳。二度三度と、顔面に拳を入れるカーテテル。
「……ぶつぶつ、これはジュンヤの分。ぶつぶつ、これはハルドの分。ぶつぶつ…………」
「ガハッ…、ぐっ…、」
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
CRITICALHIT!!
ベキッ!
……鼻が、砕かれた。馬鹿みたいに鼻血が吹き出し、地面に滴る。…痛い。殴られ過ぎて、瞼が腫れ、目もよく見えなくなってきた。口の中に血の味が充満してる…。これだけ殴られて、切らない方がおかしいか…。
「仲間の、敵だ!死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!あの時から、おまえをずっと怨んでた!そして、どれほど望んでいた事か!この光景を!」
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
HIT!!
殴られながら、薄れていく意識の中で、私は五年前の出来事を、思いだしていた…。
〜五年前〜
天宮・中学二年
「あはは、マジキモいんだけど!」
「………。」
「あんた見てるとムカつくよ!」
「………。」
「なんか言えよドブス!」
「………。」
俗に言う、私はいじめられっ子だった。いじめられる理由は簡単。キモい!それだけ。毎日が理不尽。毎日がつまらない。毎日が苦痛。………人間なんか死んでしまえ!
自分が死のうとはおもわなかった。なぜなら、私は悪くない。悪いのは、私をいじめてくる人間。自殺なんかしたら、自分に向けられる理不尽を受け入れ、屈する事になってしまう。
「……あんたらの方がキモいよ。他人を平気で傷付けて、なんとも思わないあんたらがね。」
「はあ?んだとブス!」
「ねえ、コイツ袋にしようよ。」
「サンセー、なんかムカつくし。」
バキ、ドカ、ゴッ、ゲシッ…
ありきたりな効果音。けどね、殴られたり、蹴られたりしたらわかるよ。本当に、聞こえるんだ。バキ、ドカ、…ってね。
「……いてて。くそ、3対1は無理があった。」
強がり。そうでもしないと、やってらんないから。
ボロボロになりながら、帰路につく。町の人達は変な目で私を見てくる。……見ないでよ。なんだか、惨めな気分になるじゃん。
そんな事を思いながら歩いていると、人にぶつかった。
ドン!
「いたた…、ちょっとお!大丈夫!?」
……ぶつかった人は、びっくりするくらい綺麗な人で、黒いセクシーなドレスを着ていた。
……かっこいいなぁ。
「あっ、すみません。」
「いやあ〜、ごめんね。じゃ、私急いでるから!」
急いで、走り去ってしまった黒いドレスの人。………ん?財布?大変!落としたまま、あの人気付いてない…。届けなきゃ!……けど、もう私の視界には、あの人は写っていなかった。
……免許証を見れば、住所がわかるかな?
財布の中を開いて見る。
………!!!
数え切れない程の、札束!ヤバイよ…、早く届けないと…。……ん?この紙きれは、なに?
〜キャバクラ・ケロケロ〜
アリサ
TEL-××△−〇×△
名刺だ!なるほど、キャバクラに勤めてる人だったのか…。通りで、綺麗な訳だ。私は、札束を…じゃなくて、財布を届ける為に、キャバクラ・ケロケロに足を運んだ。これが、私の師匠とも言える、美咲さんとの初めての出会いだった…。