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ベリーバッド・初日





キーンコーンカーンコーン……


「席に着け」



 その一言で、光開(みつかい)学院の朝は始まる。



 姿勢をただし、所作を整える。

 貴族天使たちがルーティンとしてやりそうなことだ。



「転校生を紹介する。入りたまえ」


 俺は火照る顔をどうにか冷まし、ようやく教室の扉を開いて中に入る。




「どうも、エルと申します。庶民の出なので何かと粗相があるでしょうが、よろしくお願いいたします」



 挨拶と深々としたお辞儀。



 しかし、貴族天使たちからの拍手はない。


 そうかいそうかい、急に現れた転校生に浴びせる拍手すら持ち合わせてないってか。



「それじゃあエル、お前の席はあの誰も座ってない机だ。窓際最後列だぞ、よかったな」


「あーはいそうですね……」




 無関心そうな貴族天使たちとこれから生活していかなければいけないとなると憂鬱で仕方ないったらありゃしないがな。


 そう思いながら席へと向かう。




 しかし、貴族天使たちにも思惑があった。



『黒髪の天使……。珍しいな』


『黒といえば我々天使が討伐すべき悪魔の代表する色であるから忌避されているものですが、そのような髪色でも堂々たる佇まい、ですか……』


『黒好きというのはかなりのイレギュラー、天使から嫌われるはずの悪魔の色を宿した男の天使……。まぁ、顔が美形だから許されてきたところはあるのかもね』





 貴族天使が拍手をしなかった、否。

 できなかった理由がこれである。


 魔物の象徴である黒、その髪色をした天使。


 流石にその今まで見たことのない奇怪な在り方に、圧倒されてしまったのであった。



 しかし、そうとは知らないエルは……。





「う、ぁ、おぉおおえぇぇぇ………」



 極度の人見知りにより、フィーネから用意されていたビニール袋に嘔吐していたのであった。








 ☆ ☆ ☆





 授業は途中からだったし、流石名門と言えるほどレベルの高い授業ではあったがついていけないほどではなかった。



 あとは……課題だ。




「おっっっっわんねぇ…………」


 理解はしてる、理解はしてるんだがなぁ……。




 出された課題の範囲が広すぎて、もう完徹してても無理だったんじゃないかって思えてきたわ。



 あっクソ間違えた、消しゴム────?




 取ろうとした消しゴムを不意に上へと摘み上げる手が一つ、あった。


「まさか、転校生が初日から課題に追われてるとはね。こんな形相じゃ話したい人も話しかけにくいよ」



 ……よもやよもや、ってやつだな。


「こっちこそまさか、俺の自己紹介を無視した奴らの一部が俺と話したいとか思っても見なかったよ」

「嫌味はいいから。ほら、他にも話したい人がいるんだし、話してあげなよ」




 気弱そうな女子や、熱血男子っぽい奴が背後で待機していた。


 俺、そんなに興味もたれてたっけか?



「あっ、あのっ!どこ出身ですか?」

「転校前の高校は第二層南天使学園だったかな」

「はっ、はわわわわわわわ」



「おい、得意なスポーツあるかよ?」

「大体できるオールラウンダーだよ。なんだ?スポーツ勝負ならお断りだぞ、課題があるからな」

「かっかっか!!安心しろ!俺も課題は出してない!」

「ダメじゃねぇか!」



 ……アレ?なんか……。


 ちゃんと話せてる……?


「あぁ、そうだな。俺の名前はアドラだ。よろしく頼むぜ」

「わっ、わた!私はミハって言います。よろしく、お願いしま……すっ!」


 ミハ、アドラ、か………。




 あれ、ミハ?


「ミハって、あの《第二層図書館代理》のミハか!?」

「あっ!覚えててくれてたんですね!よかったぁ認知されてたぁっ!!」




 ミハ、通称《第二層図書館代理》。



 天使界は10個の層に分かれていて、層の数が若ければ若いほど人間界に近く、多分が低いのだが、俺とミハは天界の第二層の出身だ。


 第二層にある図書館は一個だけであり、蔵書もそこそこしかなかった。



 そのため、ミハはそこの図書館の本を全て読破できており、大体の本の内容、そして本の位置まで覚えていたため、『彼女に聞けば図書館要らず』という理由でつけられた敬称だ。




 ちなみにこの学院は第九層であり、第十層は真の神や貴族天使たちの住処であり、わざわざ第十層からこの学院に通ってきてる天使も少なからずいる。



 いやはやにしても、同郷出身がいるだけでここまで安心できるものだとは。




「じゃあ、同郷出身としてこれからよろしくな、ミハ」


「ふぁ!ひゃ、ひゃい!!」



 どこか怯えられながらも、俺とミハは握手した。



 もう、人見知りの吐き気はどこかへ消えていたのであった。









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