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蟒蛇少女と優しい少年を繋ぐ架け橋

作者: おにく

おにくと申します(。ᵕᴗᵕ。)

これが締切ギリギリまでまったく進まなかった部誌用小説です

テーマ「蟒蛇」

 最近、日が沈む頃、家の前に知らない少女が立っていることがある。

 真珠のようにツヤがある顔に赤い目、髪は真っ白でどこかこの世のものでは無い雰囲気を醸し出している。その少女は人見知りらしく何度か声をかけようとするも、目が合うと同時にどこかへ走り去ってしまう。

 でもある出来事を境に僕はこの不思議な子と関係を持つことになる。


 ピンポーン

 それは夜に起きた。

 全ての音が寝静まる頃、家の中にただ一つ鳴り響く玄関チャイムの声。

「こんな真夜中に誰だ……?」

 やっと寝る準備に入っていた僕はそのチャイムによって起こされる。

 今家の中にいるのは僕だけ。

「どちら様でしょうか?」

 恐る恐るドアを開けてみた。

 ドアの先には横たわる父とあの不思議な少女がいた。

 一瞬何が起きているのか理解できなかったが、父の手に持っているものでなんとなく想像ができた。

 それは酒瓶だ。

「もしかして道端に倒れてたこの人を拾ってくれたのかな?」

 少女は大きく首を縦に振った。

「ありがとう、後はこっちでなんとかするから。何かお礼しなきゃ……」

 こんな夜中に父を介抱してくれて手ぶらで帰すわけにはいかない。

 そのとき、少女は父が持っている酒瓶を指さした。どうやら酒瓶が欲しいらしい。

 少女の目には酒瓶しか映っていないようだ。

(瓶を集めてるのかな?)

「他にあげられるものも今ないし、よかったら持っていって」

 すると少女の目は一番星のようにキラキラと光り、大事そうに酒瓶を抱えた。少女はこちらに向き直り、小さな笑みでお辞儀をした。

「こちらこそありがとう。また……いつでも来ていいからね」

 またねと手を振りあい、真夜中の訪問者は闇に消えていった。

 父を一度リビングに投げ捨てた後、僕は自室に戻りベッドに横たわった。

「不思議な子だったなぁ」

 真夜中に外に出ていたり、父を運ぶほどの力があったり、酒瓶を大事そうに抱えたり。

「何か、普通とは違うような……」

 これ以上は考えても何も分からない。彼女との接点が少なすぎるから。

 だから僕は「また来ていい」と誘った。

 彼女の不思議の正体を掴むために。

「お節介か"好奇心"か。……どちらにしても迷惑でしかないか」

 でもそれが僕だ。僕の原動力はそれしか存在しない。今までもこれからも。

「やっぱり嫌いだ」

 僕は布団で全身を隠した。

 まるで何かから身を守るように。


 数ヶ月後。この前と同じくらいの時間にインターホンの音が鳴り響いた。

 ドアを開けると、最近見なかったあの子が立っていた。

 あの一件で嫌われたのではないかと心配になっていたが杞憂だったようだ。

「いらっしゃい、どうしたの?」

 僕はこの子を知りたい。理解したい。

「私、あなたに伝えたいこと、ある」

 てっきり喋れないのかと思っていた。拙い言葉だが喋れるようだ。

 声は初めて聞く。元気をもらえる声。

「……?僕に伝えたいこと?」

 彼女は真剣な表情でゆっくりと頷いた。

 これは大事な話みたいだ。

「わかった。中に入って聞こうか」

 外は暗いし立ち話させるのもイヤだったから、僕は彼女を自分の部屋に招き入れた。

「ごめんね、父さんが寝てるから今はお茶出せなくて」

「大丈夫。私が、急に来たから」

「ありがとう。で、伝えたいことって?」

 僕は座布団を二枚用意し、少女と向かうように座りながら話を促した。

 少女の表情は真剣なまま、重々しく口を開いた。

「実は私、ニンゲンじゃない」

 僕はそのとき、驚きのあまり声が出なかった。

「私はウワバミ」

「うわ、ばみ……。蟒蛇ってあの大きなヘビってこと?」

 少女は頷く。

「そのショウコ、これ」

 そう言って少女は後ろを向いて長い髪を持ち上げた。

 そして覗いたうなじには不気味で美しいウロコのようなものが数枚ついていた。

「私、昔から変化するときここだけできないから」

「ほんとに人間じゃないんだ……」

 そして僕はここであることに気づいた。

 僕は、家に上げちゃいけないものを上げてしまったのではないかと。

 これから僕はどうなってしまうのだろう。

「あれ?でもなんで本来の姿ではなくうなじを見せたの?変化前の姿の方がわかりやすいような……」

「あ……〜〜〜っ!」

 ヘビの子は顔を赤らめて震えていた。恥ずかしいのだろうか。

 意外とポンコツなのかもしれない。

「そ、そういえば君の名前は?」

「……シャルロット。長いからシャルってみんな呼んでる」

「シャルか。僕は陽樹、よろしくシャル」

「ようき……」

 なぜか、なんとかやっていけそうな気がした。


 あの日からシャルは家に来るようになった。そして数ヶ月が経った。

「ずっと気になってたんだけど、家の前で立ち止まってたのはどうして?」

「ようきの家の前、"酒"って書いてあったから」

「酒?ああ、なるほど」

 僕の苗字は酒井だ。表札に書いてあるのを読んでいたらしい。

「でもどうして酒が気になるの?」

「私たちは酒が好き。酒って書いてあるから酒が置いてある倉庫かと思ってた」

 たしかに父が酒好きだから冷蔵庫が倉庫みたいになっているが。

「あ!だからあの日父さんが持ってた酒瓶を持っていったのか!」

「ん。あれは美味しかった……」

 普段のクールな表情が崩れるほど、シャルは酒好きらしい。

「ようきも飲む?」

「人間は17歳だと飲めないんだよ……」

「……かわいそう」


 さらに数ヶ月後。もうシャルがいることが当たり前になった。

「シャル、暇つぶしに何かしようか」

「ん。なに?」

「んーこれとか」

 自分の部屋にある棚とかをひっくり返すように探してやっと見つけたのはトランプだった。

 シャルの表情を見た感じ、トランプを知らないらしい。僕はシャルにルールを教えながら神経衰弱をした。

 思ったより楽しかったらしく、気が緩んだのか時々震えている尾先が見え隠れしていた。


 さらに数ヶ月後。シャルは今日も日が沈みきった頃にいつものように訪ねてきた。

「シャルはなんでこんな時間にいつも来るの?」

「私たちはヤコウセイなの。だからこの時間が一番動きやすいの」

 なるほど、と思った。

「でもこんな時間に一人で外に出たら危ないよ」

「たしかに他領土のやつらに見つかったらめんどくさいの……」

「まあうん、そうだね」

(そこじゃないんだけど……)


 シャルと出会ってもう一年が経ちそうだ。

 この部屋は嫌いだったが、シャルのおかげで今はすっかり僕がいてもいい場所になっていた。

 もう、ここから出る意味なんてない。

「陽樹、そろそろ答えてもらうの」

 不意にシャルが口を開いた。今までシャルから話しかけてきたことなんて初めて部屋に上げたときから一回もない、はず。

 しかもシャルの声色はとても真剣だった。

「陽樹がずっと家にいる理由、教えて欲しいの」

 いや、この言葉はもう聞き飽きるほど言われた。

 シャルがいくら人間のことをよく知らなくても学校ぐらいは知ってる。僕の年齢も僕が言ったから知ってるはずだ。だからこの後の言葉は大体予想がつく。

「陽樹、もしかして学校に行けてないの?」

「……シャル、やめてくれ」

「イヤなの。絶対に知りたいの。だって……」

 シャルは真珠のような瞳で僕の顔を覗き込んで。

「学校の話をすると毎回涙を流す理由が知りたいの。陽樹が私のことを知りたいように私も陽樹のこと、知りたいの」

 正直、学校のことを思い出す度にすべてが不安に感じたり何もかもを終わらせたいと思ったりしてしまう。

 でも、ここで吐き出して楽になれるのなら。

「実は……」


 新学期が始まった頃。

「僕は酒井陽樹。君の名前は?」

「私、大村菓夜です……」

「大村さん、よろしくね」

 僕は隣の席の大村さんと積極的に仲良くなろうとしていた。

 動機は溢れる知識欲。知らないものを知りたいという思いが僕を動かしていた。今までもそうだったように。

 でもある日、僕の好奇心で大村さんを悲しませてしまった。

 大村さんに告白されて、振ってしまったのだ。

 話している内に好きになってしまったらしい。僕はただの好奇心で話しかけていただけなのに。少し罪悪感があり、断ってしまった。

 あのときの大村さんの表情を、忘れたことはない。


「僕はその日から自分のすべての行動が怖くなり、自分自身が嫌いになり、学校へ行かなくなった」

 話し始めると驚くほどすらすらと言葉が、感情が、涙と共に溢れてくる。

 黙って聴いていたシャルはそんな弱々しい僕をそっと抱き寄せて。

「心配ないの。陽樹の言葉、動き、表情。全部優しいの。きっとその子も陽樹に救われた人間なの」

 やっぱりこの声は元気をくれる。

「だからその子今困ってるの。自分のせいで陽樹が学校に来なくなったんじゃないかって」

 確かにそうかもしれない。何も言わず、告白された次の日に不登校になってしまったから。

「その子に対してザイアクカンがあるなら尚更行くべきだと思うの」

「……シャルは強いな」

 僕はそう呟いた。そして決意した。


 久しぶりの学校。早朝だからかとても静かだ。

 すでにクラス替えを終えて一週間は経っている。

 もう隣の席ではないかもしれない。大村さんとは別のクラスかもしれない。

 約一年間で染み付いたネガティブな心が僕の足を止めようとするが、それでも僕は進まなきゃいけない。

 大村さんを、シャルを、悲しい気持ちにさせたくない。

 僕は新しい教室の扉を開けた。

 中には、大村さんが一人。奇跡だと思った。

「お、大村さん。……あのときはごめんなさい」

「うん、大丈夫だよ。また来てくれて嬉しい。……おかえり、酒井くん!」

「ただいま、大村さん……!」

 僕は涙を流した。受け入れてもらえたことが嬉しくて。

 僕はまた隣の席に座って喜びを噛み締めた。


『ありがとう、シャル』

どうでしたか?

テーマ「蟒蛇」って言われたときはもっとシリアスになると思ってたんですけどね……私の悪い癖が出てしまった(´・ω・`)

やっとセイギとギセイ進めそうなのでもう少しお待ちください!(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

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