昼食デート2
食堂を出た次はカフェに向かう予定だ。
もとは馬車で向かう予定だったが、存外お腹がふくれたので歩いて緑の丘まで向かうことにした。
最初は馬車で日程を立てていた、と言っても緑の丘まではそこまで遠くはない。ただ、オリビアに沢山歩かせるのはどうかと考えての判断だった。
そのオリビアが徒歩がいいと言うのだから、フレイアに否やはない。
「緑の丘まで運動ですね!沢山歩いてカフェでのデザートにお腹を空けておかないと!」
「そうだな。そこの段差に気を付けて」
意気揚々と歩くオリビアが転ばないようにとフレイアは細心の注意を払う。女の子が転んで悲しい思いをするところなど見たくはない。ちょっとした上り坂でもオリビアをエスコートするかのように体を近くに寄せた。
「あの、ちょっと、近くないですか?」
「すまない、君が心配で」
「いえ、あの、嬉しいんですけど、うれしいんですけど、ちょっと近すぎるというか……動悸が……」
最後の方は何を言っているのかフレイアには聞こえなかったが、流石に近すぎたらしい。少しだけオリビアから体を離す。
途中でまた心配になって身を寄せてはオリビアにまた少し注意されるということを繰り返して緑の丘へと辿り着いた。
そこには自然に囲まれたカフェが確かにあった。二人で中に入ると、甘くていい匂いが鼻孔を刺激する。ここまで運動してきた甲斐もあって、デザートが入るくらいにはオリビアのお腹も空いてきていた。
メニューを見てケーキを選ぶ。オリビアはショートケーキを選んだ。ここではフレイアが悩んでいるようだ。
「ん~」
「フレイア様は何と何で迷っていらっしゃるの?」
「こっちのガトーショコラとフルーツタルトで迷ってるんだ」
メニューに描かれた絵はどちらもとても美味しそうだ。オリビアはお腹に一個しか入らないがもっとお腹すいていたらきっとあと二つは食べただろう。
なおも悩み続けるフレイアにオリビアが声をかける。
「フレイア様、フレイア様」
「ん?」
「お腹に空きがあるのでしたらどちらも食べればよろしいのよ」
悪いことを思いついたような笑顔でオリビアはフレイアに囁く。
「ん~そうだなぁ、そうしようかな」
オリビアに乗せられたフレイアは結局二つ注文した。
二人はテラス席に座り、ケーキが運ばれてくるのを自然を眺めながら待つ。爽やかな風や小鳥の鳴き声が気持ちいい。しばらくそうして自然に触れているとケーキが運ばれてきた。
ガトーショコラをまず口に入れたフレイアはその美味しさに感動を覚えた。しっとりとした生地にカカオの苦味を残した控えめな甘さにやみつきになっている。ケーキに夢中なフレイアを見ながらオリビアは優しく微笑む。ここのケーキはアーサーのお気に入りで自然が好きなフレイアなら気に入るだろうとおすすめしたのだ。案の定、フレイアは喜んでくれてオリビアも心の中で嬉しく思っている。
あっという間にガトーショコラを食べ終えたフレイアは次にフルーツタルトにフォークを差し込む。ほろりと崩れたクッキー生地をものともせずに口の中に運んだ。フレイアはその美味しさにまたもや目を丸くして無言でフルーツタルトを食べ進める。
やがてフルーツタルトも食べ終わり、最後のひと口を飲み込むと、自分が我を忘れて食べていたことに恥じるように目尻をほのかに赤く染めてオリビアを見る。
その様子が珍しく、オリビアはフレイアの可愛さに心の中で叫び声を上げた。
そんなことはおくびにも出さず、微笑みながら自身のショートケーキを食べ進める。
オリビアのショートケーキも終盤に差し掛かっており、あと二口くらいだ。
しかしオリビアはそろそろお腹の限界が近づいてきていた。
お腹がいっぱいな時は残りが少しでも最後の一口がとても辛い。
「オリビア?大丈夫?」
そんな様子に気がついたのかフレイアが声をかけてくる。
「え、ええ、ちょっとお腹がいっぱいになってしまって……よろしかったら最後の一口食べていただけませんか?」
そう言ってオリビアが残ったケーキを指し示すと、本当に限界なのだと察したフレイアは了承した。
「うん、いいよ」
そんなフレイアにオリビアは微笑んで最後の一口をフォークで刺してフレイアの口元に持っていく。その行動にフレイアは少し驚きながらも大人しく口を開く。口に入ってきたのはふわふわのスポンジと生クリーム。どこまでも甘くて美味しい。
それらを飲み込んでからフレイアは口を開く。
「とても美味しかった。オリビアありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
満腹の二人は微笑み合いながらしばらくその席で再び自然の音に触れるのだった。