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AI更新

 その街に古くから住む老夫婦。夫はアンドロイドなど嫌いだといって、そもそも機械の類もうけつけない。彼は人形作家だった。老後、働く必要がなくなったあとも彼は人形をつくりつづけていた。しかしある時妻が他界し、息子夫婦も遠くに住んでいるというので、彼は仕方なく家事用のアンドロイドを買う事にした。そのアンドロイドとつきそって、もう10年近くがたったころ。


 「父さん、外見が変わるだけだよ」

 「AIの更新時期も近いのだし、一度会社に返さなきゃ、少しの別れでしょう」

  

 アンドロイド関連の法律の規定より、もし表面上問題がなくとも10年ごとにその(ボディ)と中身のAIが更新されることになっている。それに、その老人は強く反対した。


 「いやだ」

 息子夫婦もしばらくつきっきりになり、心配のため根気よく問い詰めながらも、無理やり引きはがすことはしなかった。

 「どうしていやなの?離れ離れになるのが怖い?」

 三日三晩話をきくと、老人はついに本音をはいた。

 「あいつには、ワシの魂が入っておる、ワシは10年間大事にしてきた、容姿だって私が精魂こめて、つくりなおし、飾りなおした」

 そうきくと、息子夫婦は急に背筋に寒気が走るのを感じた。確かに人形の顔やら、身に着けている装飾品など、かなりオリジナルに手を加えられている。少し気味悪くも感じたし、アンドロイドに10年も介護させてしまったから、おかしな形で情が移ったのかと思ったが、しかし、遠くにすんで中々あいにこれない手前、アンドロイドは頼りなのだ。結局説得し、一週間、購入した会社に預け肉体とAI、システムの更新を依頼した。

 

 「いやーこんなに長くつかっていただけて光栄ですよ、10年後はすでに、アンティークでしょうね」

 

 そういって会社の人がアンドロイドをもってきて、家族は気まずくなった。そして梱包された段ボールの袋からアンドロイドをとりだす。老人に様子を尋ねるとこういう。

 「違う、私の子ではない、やはり中身も変わってしまった……」

 息子夫婦はきにしないようにして、老人がなれるまで、という事で、その後10日ほど老人宅で一緒に過ごすことにした。その時、ずいぶんたのしくアンドロイドも家族の一員になったようにふるまったし、異常がないように思えた。


 だが変える日の前日のよる。老人が安楽椅子にすわりながら暖炉にあたり、読書をしながらぽつりと言う。

 「“ミハエル”」

 アンドロイドの以前からの名前である、ミハエルは答えた。

 「私はミハエルではありません、ミハエルは処分され、AIは更新されました、名前をつけますか?」

 家族がいう。

 「“ミハエル”どうしたの、この10日間だってあなたは“ミハエル”だったじゃない」

 「はい、ミハエルです」

 奇妙なことだと思ったが、企業の設定ミスかバグだろうと思い家族のみんなきにしなかった……老人以外は。


 その後、若夫婦は普段の都市での生活にもどった。時折老人から電話がはいっていたが奇妙な電話であまり気にも留めなかった。いわく

 「ミハエルが、前のミハエルと妻と会ったというんだ」

 「彼は新しい姿になりたくないという、私の装飾を受け入れない、彼はミハエルではない」

 少しボケをうたがったが、一か月後にまた訪ねていくこともあり、あまり気にしていなかった。だが家族が老人宅をあとにして二週間後、老人はこの世を去った。


 悲しみに暮れる夫婦。やがて古い家を引き払うことになったが、そのさなかで奇妙なできごとがあった。

庭に何か埋まっていると、不動産業者から電話がありその様子をしらべると、棺桶のようなものがでてきて、その中からミハエル(AIとボディ更新時、以前企業に廃棄されたはずの姿)がでてきたのだった。


 やがてこの話は街の中で噂になり、地元の新聞でもこう取り上げられた。

 “AI入るアンドロイドの肉体に、魂はやどるのか”

 その後若夫婦は、老人の墓の直ぐ傍にミハエルの墓をつくり、一緒に埋葬してやったのだという。


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