空はなんでも聞いている
大原さやか朗読ラジオ 月の音色~radio for your pleasure tomorrow~(https://www.onsen.ag/program/tsukinone)の「月の文学館(テーマ:空耳)」に投稿したショートショート(不採用でした)。
ストレスが溜まっていたのが分かったのだろう。
先輩が、「帰りに寄り道して行こう」と連れて行ってくれたのは、オフィスの近くにある公園の、少し小高い丘だった。
「なんなんですか、ここ?」と聞いた私に、先輩は天を指さし、大きな声で叫んだ。気がした。
でも、声はかすかに聞こえる気がするだけだ。
私も大声を出す。でも、先輩には聞こえていないみたいだ。
「なんなんですか、あそこ?」
しばらく大声を出してから、丘から降り、公園のベンチで、改めて聞く。
先輩は、
「あの丘では、不思議と大声を出しても、人にはかすかにしか聞こえない。だから、言いたいことを叫ぶのにちょうどいいの」
と笑った。
「たぶん、空にある耳が、声を聴いてくれるんじゃないかしら」
なるほど。空の耳、空耳が聴いてくれて、その代わり人には空耳みたいに聴こえるってことか。
私は不思議な気持ちで、夜空を眺めた。