勇者と冒険者ギルド2
「賑わってるな。いつもこうなのか?」
エルの言う通り、森を出てすぐに俺たちは冒険者ギルドがあるという街の門までたどり着いた。かなり発展した石造りの町には想像していたよりもずっと人が多く、入ってすぐの広場には色とりどりの屋台が並び、それぞれに人だかりができている。まるで祭りでもあるんじゃないかっていうくらい賑やかだ。
「今日は冒険者適性試験だからね。いろんな思惑の人が集まってるの」
「なるほど。力が集まるところには金も物も集まるからな」
「……レイトは勇者なのに見識が深いのね」
何だよ、勇者なのにって。
そう口にしようとしたが、俺のあとの勇者、つまり二代目三代目が、国から手厚い支援を受けているっていう説明を思い出して得心する。
人はどんどん楽な方に行くからな。楽な環境が用意されれば当然楽しようとするだろう。
何せ、楽なのは楽しいからな。
そんなことを考えつつ、驚いたようなエルの呟きに応える。
「まあ、勇者である以前にパーティーのリーダーだったからな。色々気を張ってないと仲間が困る。仲間が困れば俺が困る。だから、俺がしっかりしてないと。まあ、本当はもっと適任の奴がいたんだが」
「今の勇者に聞かせてやりたいセリフね」
どうやら今の勇者の振る舞いは俺の想像と大きく離れていなかったらしく、何だかなあと肩を竦める。
頼むから、守ってやりたくなるように振る舞ってくれという思いは、とうの昔に人としての甘さと一緒に捨てている。が、勇者としての義務感にも似た使命感が人を守ろうとするのをやめてくれないのだった。
「それで、試験ってのは?」
「簡単よ。ギルドマスターが一人一人魔力を見て判定するの」
「それだけか?」
「うん、それだけ。その時の魔力量がそのまま冒険者ランクになる」
俺たちは人垣をくぐり抜けてギルドに向かいながら、試験について情報を交換する。と言っても、俺が一方的に情報を引き出しているだけだが。
「じゃあ、どれだけ強くても魔力が低いと評価も低いままなのか?」
「最初は魔力で判断するしかないから、しょうがないって言えばしょうがないかな。でも、冒険者ランクは魔力量と貢献度の二種類があって、それも世代ごとに設定されてるから公平度は高いはず。まあ、複雑なせいでほとんどの冒険者は大事な時になるまで意味を理解できないんだけど」
エルは雑踏の中を淀みなく歩きながらも、同様に淀みなく冒険者ギルドの仕組みを説明してみせる。
その、かなり詳細な説明に感心しながらも、気になったところが一つ。
「なら、どうしてエルは全部知ってるんだ?」
「え……? えっと……家庭の事情?」
「……そうか、ならしょうがないな」
人は、知られたくない情報を隠すための定型文をいくつか持っている。その一つが家庭の事情だ。そして、その言葉から読み取るべきなのは家庭の事情云々ではなく、その意図だろう。
正直言って、エルのことを全面的に信用するのは危険かもしれないな。いや、そもそも全面的に信用できる人間なんていないだろうけど、何か面倒ごとを抱えてそうな気配がする。
「そんなことより……、ついたよ」
「立派な建物だな」
俺は触れられるのを避けるように言うエルに続いて立ち止まり、目の前に現れた建物とそれを囲む敷地を見渡してため息をついた。
その建物はがっしりした門と柵に囲まれ、広い敷地では噴水が涼しげな雰囲気と、実際に涼しさに貢献しているであろう透き通った真水を放っていた。
そして、肝心の建物はこれまた広大で、組合ってよりかは貴族の屋敷のような外観だった。
「ほら、もうあんなに集まってる。冷やかしで受けに来てる人もいるだろうけど、ほとんどの人にとっては人生を変える一大イベントだからね」
「まあ、簡単に受けられるならそう言うこともあるだろうな」
俺はエルに促され、その敷地の片隅にできていた物々しい人だかりへと向かって行ったのだった。
次から物語の方向性が一気に定まると思います。
追記:現在他作品の執筆と私生活の影響で更新が難しい状態になっております。更新が途絶えてしまい申し訳ありません。