とある夫婦の暇つぶし
【注意】
甘めの短編です。文字数制限のため予定よりは甘さ控えめとなっておりますが、体質によって「もげろ」「末永く爆発しろ」「鬱だしのう」などの言葉が口から漏れる可能性があります。
お仕事場や電車の中などではお気をつけください。
「愛してるって言わないゲーム?」
「そう」
休日の午後、妻の唐突な提案に俺は目を丸くした。
「テレビでやってて、夫婦円満の効果があるんだって」
「へぇ。どんなゲームなんだ?」
「『好き』とか『愛してる』って言葉を使わないで、お互いに気持ちを伝え合うの」
「あぁ、昔あったな。『好き』って真顔で言い合うゲーム」
「そんな感じ! 照れたり言葉が思い付かなかったら負けなの」
「成程ね」
今日は特にする事も無いし、やってみるのも悪くない。
「じゃあやってみるか。一個ずつ言うのか?」
「そう! 順番はジャンケンね」
結果は妻の先攻。お手並み拝見といこうか。
「貴方と食べるご飯は、他の誰と食べるより美味しく感じるの」
ぐっ、なかなかの言葉。これは負けていられない。
「お前に注いでもらう酒が、仕事を乗り切る活力だ」
「ぅ」
効いてるな。言うのも結構ダメージくるけど。
「貴方の帰りが早い日は、何だかうきうきするの」
顔がにやけるのを必死で堪える。
「休み前の夜、お前と何して過ごすか考えるのが一番楽しい」
妻も歯を食いしばって耐えてる。まるで睨めっこだ。
「貴方に触れられていると、し、幸せを、感じる、の」
「う、お」
反射的に抱きしめそうになる自分を抑える。やばいこれはやばい。
「お前の匂いがす、いや、匂いを嗅ぐと胸の奥がきゅうってなる」
「ぴゃあ!」
妻が今まで聞いたことのない悲鳴を上げる。これはあと一歩で勝てる! と言うか終わりにしたい! 心が保たない!
「あ、貴方が喜ぶ事なら何でもしてあげたい……」
! た、耐えたぞ!
「生まれ変わっても、またお前と一緒になりたい……」
「……!」
顔を真っ赤にしてへたり込んだ。よし! 勝った! でも勝利の喜びより終わった安堵感の方が凄い!
「大丈夫か?」
「…はぅ……」
腰砕けになった妻を抱えてソファに座らせ、手近にあった雑誌で顔を扇ぐ。
「……色々、考えてたのに、頭、真っ白になっちゃったぁ……」
「俺だってそうだよ。途中何口走ってんだってなったし」
「でも嬉しかったぁ。またやろうね」
「えぇ……」
嬉しかったのも勿論だけど、恥ずかしさの方が強い。しばらくは勘弁だな。
このゲームをちゃっかり録音してやがった妻と、消せ消さないで一悶着あったが、それはまた別のお話。
読了ありがとうございます。
なろうラジオ大賞2投稿のため、千文字制限の中で書いてみました。音読されたいなぁ。
なおこのゲームは私が勝手に想像したものですので、ご自由にお楽しみください。ただし、その後の恋人または夫婦関係がどう変化しても、当方に責任はありませんので悪しからず。