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05 吸血鬼城の攻防

初のガチめの戦闘回です。描写が難しくてうんうん唸りながら書きました。

楽しんでいただけたら幸いです。


 時間は少し戻り、シュタインフェルト城ーー


「レイジッ!! おるか!?」


 バァン! と俺の部屋の扉が開かれ、アリスが部屋に飛び込んできた。


「いるよ……。どうした、そんなに慌てて」

「お主、何をしたのじゃ!?」


何があったのか、随分と取り乱している様子だ。


「は? いや、特に何も」


何かしたかと言われれば、寝ようとしてたとしか答えられない。


「何もなわけないのじゃ! 結界が壊れてるのじゃ!!」


 ……どうやら何かしてしまったらしい。

 心当たりは……。


「あ、そういやさっき女神召喚した」


 あった。

 俺が何かしたとするなら、先程女神リィンを召喚?したことか。


「それなのじゃーーっ!?」


 ビシィーッ!と指さされた。


「こらこら、人を指さすんじゃありません」


 アリスの指をつかみ、下に向ける。


「なにしてくれたのじゃー! せっかく作った結界じゃったのにー!? パリーン! と力技でぶち壊されたのじゃ!?」

「ごめんごめん。ちょっと女神に用事があってな」


 ていうか、あの女神、そんな強引にここに現れたの?

 なんかもっと穏便に出来なかったの?


 もう! もう! と地団太を踏むアリス。

「で、その結界とやらが壊れると何か不都合あるのか?」

「高度な認識阻害の術式じゃったのじゃ! それが無くなったら、人にこの城が見られるじゃろー!?」


 つまり、普段はこの城は人から認識されない状態ってことなのか。


「……で、何かそれに不都合が?」

「あるに決まってるのじゃ! 攻め込まれたりするのじゃ!」


……確かに、かなり物騒な世界だし、ないとも言えない。


「アリスが張った結界なら、また張り直せばいいんじゃないのか? 難しいのか?」

「んゃ? ちょちょいのちょいで張り直せるのじゃ」

「ならいいじゃないか。そんなにすぐ攻め込んでくるヤツがいるわけ……」

「!」


 俺が言いかけたその時、何かに気が付いたようにアリスが顔を上げる。


 そして、ある一点を見つめ……


「いたようじゃの。そんなにすぐ攻め込んでくるヤツ。侵入者じゃ。テリトリーに今入った」


 そう言うや否や、ものすごい速度でエントランスに向かって駆け出した。


「……マジ?」


 遅れて俺も駆け出した。



――――――



 城の玄関ホールまで走るアリスに、ひいこら言いながら俺が追いついたその瞬間、城門が何かに切断されたかのようにバラバラに崩れ落ちた。


 もうもうと埃が上がる。

 それが晴れるとそこには、一組の男女が立っていた。


「下がって、レイリィ」


 男の方――金髪青眼のイケメンが、腕で少女を制す。

 こくり、と頷き、黒髪ツインテの女の子が1歩、2歩と少年の体に隠れるようにして下がる。


「――さて。わしの城に何用かの。人間」


 そんな二人をホールの階段の上から睥睨し、アリスが問う。

 俺にすらわかるほどの濃密な魔力がアリスを覆う。


 それを受け、少年――俺と同い年くらいだろうか――の後ろに隠れた少女が小さく悲鳴を上げた。


(うん、怖いよね……わかる)


 アリスと初めて会った時のことを思い出し、俺は一人身震いした。


 まぁ、今は全く怖くないんだが。むしろ、ペットみたいで可愛いとすら思えるようになってきたが。


 そんなことを考えているとーー


「我が名は勇者アレックス。人王、アラスター・ジゼル・ヘイムガルド様の命にて、貴殿――吸血鬼ブラッドシュタインフェルトの命、貰い受けに来た」


 ――勇者アレックスと名乗った少年が、とんでもないことを言い出した。


 その言葉を受けて、


「――クッ」


 庇う様にして俺の前にでたアリスが低く喉で笑った。


「――クククッ……! ぬかしおったな、人間!」


 アリスがそう言い放つやいなや、ギ――、と空間が軋む音がした。

 物理的な力を持つほどまでの、圧倒的プレッシャーがアリスから放たれる。

 肩に重圧がのしかかり、立っているのもやっとなほどだ。


 アレックスを見ると、そんな重圧の中、表情すら変えず直立している。

 注視すると、体から白いオーラのようなものが立ち昇っていた。


(魔法、か?それにあの腰の剣……)


 白銀に輝く剣。見たことがある。ついさっきだ。

 ついさっき床に叩きつけた剣にそっくりだ。


 ――つまり。


聖銀ミスリル製の……聖剣、か)


「アリス、気を付けろ。多分あれ……」


 低くアリスに耳打ちする。


「聖剣、じゃろ。わかっておる。案ずるでない。昔の偉い人が言っておったそうじゃ。曰く『当たらなければ、どうということはない』じゃ」


 ――――いや、あえて言うまい。


「勇者アレックスとやら。

 そのような大見得切ったのじゃ――当然、死ぬ覚悟はできておるのじゃろうな」


 傲岸不遜にアリスが問う。


「覚悟ならとうに」


 それを受け、堂々と少年が応えた。


「よかろう。では、わしも名乗ろう。――我が名は吸血鬼が王にして真祖。アリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルト」


 闘争など知らぬ俺にすら理解できる、闘争の予兆。


「勇者アレックス。ーーーー参る」


 ――瞬間、アレックスの体が『ブレ』た。


 ギィン!!と硬質の何かがぶつかる音と火花が散る。

 見ると、そこには剣を抜き放ったアレックスと、その剣を、影から伸びる黒い槍のようなもので受け止めるアリスの姿があった。


 ……はい? 全く何も見えなかったんですけど……?


 そんな俺の困惑をよそに、超常の戦闘ころしあい

が、始まった。



――――――


 最初からトップスピードだった。


 自分の限界、それをさらに『ブースト』して、風魔法の補助も使って一撃で決める筈の剣閃。


 首を跳ね飛ばすつもりで振り抜いた剣は、果たして、眉一つ動かさず、一歩も動かぬまま、少女の『影』に受け止められていた。


(ただの影じゃない……か)


 高密度の魔力が何重にも結われて、とんでもない硬度になっている。

 聖剣ですら刃が通らないとなると、かなり厄介だ。


「ッ!」


 悪寒を感じ、慌ててその場から飛びずさる。

 直後、僕の立っていた場所に4本の影の槍が生えていた。


 着地し、再度跳躍。距離を詰める。

 下から掬い上げるような斬撃。簡単に少女を両断するであろう速度と威力、だが。


(届く気が、しない……!)


 ギィ――ィン!!


 予感は正しかった。

 

 黒い槍が少女の足元から生え、交差して剣を受け止めている。


「っふ!!」


 剣を引き、跳躍、着地から再び接近。

 掬い上げ、振り下ろし、逆袈裟。都合三度のほぼ同時の斬撃。

 

 全て受け止められる。


(厄介、だな……!)


 こちらの攻撃は届かず、向こうの手数は多い。

 ステップを踏んで、次々襲い来る槍を躱す。

 下、上、左斜め下、右斜め下……矢継ぎ早に放たれる影の槍。

 全てが寸分の違いもなく急所を狙ってくる。とんでもない魔力制御だ。

 

 弾き、逸らし、躱し。それでも受けきれない、何本かは僕の体を掠め、聖鎧ごと僕の肉を削る。


「シッ……!」


 傷を即座に『回復ヒール』して、痛みを黙殺する。

 上段から、剣で斬りつけ、それをフェイントに足払いを仕掛けた。

 同時に聖魔法で牽制。すべて読まれる。

 魔法は同質量の魔法をぶつけられ霧散し、足払いは出鼻を止められた。

 剣は当然のように影に阻まれる。

 このままでは僕の攻撃は届かない。いずれ致命傷を受けて終わりだ。


(――仕方ない、使う、か)


 そう決めると同時、魔力を全身に行き渡らせた。


「――ふっ」


 軽く息を吐き、タイミングを計る。

 一歩タイミングを間違えれば即座に影の槍が僕の全身を貫くだろう。

 放たれる槍を打ち払い、躱し、足場にして跳ぶ。

 虎の子のミスリルのダガーを投げ放ち、無理やり猶予を作る。

 当然のように影に撃ち落とされるダガー。だがそこまでは予測通り――!


「『聖身強化ホーリィブースト』――!」


 ほんの刹那の猶予の間に術式を完成させ、スキルを発動させた。

 自身の身体能力を大きく底上げする、聖魔法の奥義『聖身強化ホーリィブースト』。


 体内を駆け巡る凄まじい魔力の奔流に、体が悲鳴を上げる。


「ぐっ、ぅ……!あァッッ!!」


 軋む体に喝を入れて、気合一閃。

 「スキル」を受けて跳ね上がった身体能力にものをいわせ、先ほどまでの何倍もの速度で剣を振るう。

 縦、横、袈裟懸け、逆袈裟、刺突、フェイント――読まれた――音すらも置き去りにする剣速。

 

 だがしかし、その全てが――


(そんな――!)


 受け止められ、受け流され、弾かれ、逸らされる。


(見えてるのか? この速度の剣が……!?)


「く、そ!」


 跳躍して距離をとる。

 少女は距離をつめることはせず、腕を組んだままこちらを睥睨している。


 ――ギシ、と体が軋む。


 『聖身強化ホーリィブースト』の反動だ。効果は絶大だが、反動が凄まじい。

 口の端から血が垂れる。先ほど飲み下した血が口の中に残っていたらしい。


(これでダメなら、もう、これにかけるしか……!)


 飛んできた黒槍を蹴り飛ばして、反動を使って大きく距離を取る。ジッ! とブーツと床が擦れて、火花を散らした。


 聖剣を鞘に納め、腰だめに構える。


「――『六極むごく』」


 詠唱――。


 魔力を全身に行き渡らせる――と、初めて少女が表情を変えた。


「――ほぉ……?」


 面白いことを始めた、とでも言いたげな表情。


「それで魔王を斬ったのか? ――いいじゃろう、見せてみよ。――勇者」


 ギリ、と奥歯を噛みしめる。『強化ブースト』状態でどこまで「スキル」を制御できるか……。


「『――せん』ッッ!!」



 地を蹴り、白銀の残像を背に残しながら少女に肉薄する。

 超常の速度で抜刀し、即座に練り上げた魔力とともにスキルを解放した。


 腕に走る激痛を堪え、「スキル」を完遂すべく腕を振るう。


 一瞬の刹那のなか、時や空間すら歪め、完全に同時に六度の斬撃を放つ僕の最大の奥義、『六極・閃』――。


 かつて魔王討伐を果たしたこの技すらも――


「ふん……その程度か。つまらぬ」


 ――少女の足元から生えた6本の黒槍に阻まれた。


 ――――ィィィン……――


 高く響いた金属音が収まる。


 気づけば、僕の喉元、鳩尾、人中、脇腹、それぞれに4本の黒い槍が寸止めされていた。

 1ミリでも動けば、その全てが僕の急所を貫くだろう。


 額を冷たい汗が流れた。

 心底つまらなそうに少女が僕を見る。


 ――理解した。


 僕は敗けたのだと。それも、少女をその場から動かすことすら叶わず。


――――――


 ……理解の範疇を超えた戦いだった。


 アレックスの剣は、まるで何本もあるかのように縦横無尽に斬撃を放つし、アリスはアリスでその全てを一歩も動くことなく捌ききった。


 足元の、壁の、天井の、柱の、影という影から黒い槍を放ち――一歩も動かないまま――、アレックスを制圧してみせた。


 いやね、多分アレックスもとんでもなく凄いんだよ。


 正直体捌きも剣技も目で追えないし、最後のなんて同時に6回斬りつけたようにしか見えなかったし。

 ただ、アリスがそれを上回ったってだけなんだろう。


 アリスは、アレックスの急所に槍を突き付けたまま、冷たい目でアレックスを見ている。


「――ころさ、ないのか」


 アレックスは口元から血を流しながら囁くようにそう言った。


「そこの隠れている女、動けば勇者を殺す。呪文を詠唱しても殺す。わしの目は魔力の流れが見える、無詠唱なら気づかれないなどとは思わぬことじゃ」


 城門の向こう、柱の向こう側を見つめてアリスが言う。

 そういえば、侵入者はアレックスともう一人……黒い髪の女の子が居たんだった。

 すっかり忘れていた。


「……っ!」


 城門の向こう。柱の影になっている辺りから、息を呑む声が聞こえた。ついでにガラン、と何かを取り落とした音も。


「――さて。どうするかの。……のう、レイジ?」

「……え? 俺?」


 突然、アリスが振り返り小首をかしげて俺に問う。


「どう、って……いや、まぁとりあえず、殺すのはナシだ」

「ふむ。……じゃ、そうじゃ。よかったの、勇者、わしの旦那様が慈悲深くて」


 なにせ聖人じゃからの――と喉の奥でクク、と嗤いながらアリスが言う。

 そして、腕を一振りすると、アレックスに突きつけられていた槍がすべて霧散した。


「――かっ、は……ゲホッ……ゴホッ……」


 ガクリ、膝をつき、激しくせき込むアレックス。

 ビシャ、と大量の血が口元から漏れた。


「お、おいおい、大丈夫かよ」

「あ、あぁ、大丈夫だ。これは自分のスキルの反動だから……『治癒ヒール』」


 そう言ってアレックスは、自分の胸に手を当てて、魔法を行使する。


「……ありがとう、でいいのかな」


 治療が終わったようだ。口元の血を拭いながら立ち上がる。

 剣を鞘に納めて、こちらを振り返った。


「……いや、余計な事したんだったらすまない」


 そう答えると、一瞬面食らったような顔をした後、アレックスはふ、と表情を崩した。


「いや、ごめん。やっぱりありがとう、だね。……僕の仲間はもう動いても構わないのかな」

「ふん、好きにするのじゃ」

「だって、さ、レイリィ」


 外に向かって呼びかけるアレックス。


 返事はない。


「……レイリィ?」


 アレックスが再度呼びかける……が返事はない。

 俺はつかつかと歩いて行って城門の陰をのぞき込んだ。


「きゅぅ~~……」

「……気絶してる」


 黒髪ツインテのその少女は、長い杖を胸に抱きしめたまま……見事に伸びていた。

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