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44 王都・ヘイムガルド

大変お待たせしました!やっと退院いたしました。

本日より投稿を再開いたします!

ぶつかり合ったアレックスの聖力と、アナスタシアの冷気を背後に一気に包囲を抜け、砦にたどり着く。

アナスタシアの魔力が遠く離れたこの辺りの地面まで凍り付かせている。

兵士たちは巻き添えを食わぬように、さらに奥の方まで退避したらしい。


巨大な門を走り抜け、またまた巨大な橋を駆け抜ける。

遥か対岸の橋にも兵士が展開しているが、数は少ない。

俺とレイリィで問題なく突破できるだろう。


「レイジ! 後ろ!」


その時、レイリィが俺の腕の中で声を上げる。

そう言えばお姫様抱っこしっぱなしだった。

まぁ、早いからいいか。


「後ろ!?」

「【魔砲】が来るわ! 避けて!」


その声を合図に、背後を振り返らず横っ飛びをかます。

すぐわきを聖力が通り抜け、肌を焼いた。


「くそ……! 橋が崩れたらどうするつもりだ……!」

「気にしないでしょうね、お父様は……」

「セシリア達は何してるんだ……!」

「もう二基は沈黙してるわ! 最後の一基が……来たわよ!」

「くっそぉおお!」


もう一度反対に横っ飛び。

先ほどまで俺の胴体があった場所を魔力が通り過ぎて、石畳に大穴を開けた。


「来たぞぉオ! 槍衾用意ィィい!」


いつの間にか橋を渡り終える寸前のところまで来ていたらしい。

正面で兵達が大楯と槍を構える。


「盾の上からじゃ手加減できねぇぞ! 退け退けぇえ!!」


ドドドン、と俺の腕の中で詠唱を完成させたレイリィの魔力が、兵たちの盾の上で弾ける。

大きく盾が吹き飛ばされ、槍衾に隙間が出来る。

足元の石をその隙間に蹴り飛ばす。

馬鹿にならない速度で飛来する石を防ごうと、盾隊がさらに隊列を崩す。

さらに石を蹴り上げ、蹴りつける。

弓矢もかくやというほどの石礫の雨が兵達に襲い掛かる。

盾で受け、何とか槍で叩き落すが……。


「隊列が崩れたわ!」

「あぁ! 突っ込むぞ!」


石礫に対応するために乱れた隊列に向け、突撃をかける。

援護にレイリィが魔法を連発し、さらに隊列の穴が広がってゆく。


「くそっ! 駄目、だ、ぐぁ!?」

「止められ、ねぇ! ぐぁあ!!」


隊列に食い込んだ俺に、次々と繰り出される武器をいなしながら周囲の兵士を蹴散らしていく。

人の群れを抜け、その勢いのまま河を挟んだ対岸の平原に転がりでた。


「抜かれたぞ! 逃がすな! ここから先に部隊は……くそ!」

「追いかけろ!」

「駄目だ! 早すぎる! 追いつかない!」


背後から迫る部隊を一顧だにせず、平原を駆ける。


「レイリィ! どっちだ!?」

「このままこの方向に真っ直ぐ!」

「了解……! ぐッ……」


ずきり、とくっつけたばかりの足が痛み、血が滲む。

……流石に切断された足は直ぐには治らないか……。


「痛む?」

「あぁ、流石に、な……!」


背後から飛来する矢を、気配だけで躱して走り続ける。


「もう少し頑張って……! 見えて来た……!」


レイリィが指さす先。

先ほど通り過ぎた砦もかくやという程の大きさの城壁が遠目に見える。

どれほどの大きさ、高さなのか。

元の世界でも見たことのないような規模の城壁に囲まれた都市。

……途方の無い彼方まで街が続いている。


「あれが、ヘイムガルドか……?」

「そうよ。あれが人間族の首都。王都ヘイムガルド」


急速に近づく王都ヘイムガルドの巨大な城壁。

その周囲を広く深い堀が囲っており、何か所か城壁に通じる様に通路が渡っている。


「どこだ!? どこから入ればいい!!」

「このまま真っ直ぐ! 正面の通路から! 手筈通りなら、城門は開いているはずよ!」

「了解……!」


正面には、今まさに軍が展開しようとしているところだった。

だが、砦を護る軍や、ジゼルで戦った軍とは規模が比べ物にならないほど小さい。

向こうもそろそろ種切れか。


「体勢が整わないうちに突っ切るぞ!」

「えぇ!」


俺の首に巻かれたレイリィの腕に、力がこもる。

応える様に足に魔力を回して速度を上げた。


矢が飛来する。

レイリィが魔法で全て撃ち落とす。

俺の体にはただの一本も届かない。


足に魔力を籠め、いまだ整わぬ軍の頭上を飛び越え、通路の中ほどに着地した。

着地の衝撃で、腕の中のレイリィが小さく呻いた。


魔力を通して疾駆する。

鈍色の残像を残し、直線の通路を駆ける。

ビュンビュンと景色が背後に流れていく。

平時に見れば綺麗な景色であろう城壁への通路の道中も、こんな状況では楽しむ余裕もない。

ただただ前を向いて走り続ける。


「敵がいない……?」

「そうね。こっちの根回しは上手くいったみたい……! あそこ! 開いてるわ!」


レイリィが指さす方角を見る。

大きな城門の脇、通用口だろうか。小さな扉が開いている箇所がある。

滑り込むようにして、その扉に駆け込んだ。


城壁の下を抜ける。

眼前に巨大な街が広がる。

石畳の大通り、左右には石造りの家々。

路地や通路が雲の巣の様に方々に伸びていき、花壇や街灯などでその通路が装飾されている。

戦時だからか、そんな駄々広い通路や街には人の気配が無い。


「どこに向かえばいい?」

「あそこ。城が見えるでしょう? 王はあそこにいるわ」

「了解……っと……」


がちゃがちゃと、甲冑を着た何人かの人間が、すぐ隣の通路を駆けてゆく。

俺達の侵入に対応するための兵達だろうか。


「……あの、レイジ」

「ん?」

「……そろそろ、自分で歩くわ」

「あ、あぁ……そうか。そうな」


レイリィを下ろす。


「先導するわ。ついてきて。『風よ』――『加速クイックリィ』」


魔法を使い、走り出すレイリィ。

頷き、着いていく。

路地を抜け、階段を上り、橋を渡り、駆けていく。

住宅街を、商店街を、穀倉地帯を、駆けていく。


そして、街の中心、城壁がぐるりと囲う地区にたどり着いた。


「また城壁か……」

「護りが厚くて困ることは無いからね。……まぁ、わたしたちは今困っているんだけれど」

「……まぁ、言いたいことは分かる。……ここも仕込みが?」

「えぇ。……あそこね」


レイリィの視線の先。先ほどと同じように、通用口のような扉が開いている箇所がひとつ。

辺りに『遠見』を放ち。近くに敵がいないことを確認してから、二人でそこに滑り込んだ。


「……こっち」


王都の城、と聞いて豪奢な装飾の城を想像していたが、無骨な作りの城壁に似合った、無骨な作りの城が眼前にそびえたつ。

それでも庭園のようなものはあるらしい。

今俺たちは、そこを静かに走り抜けているところだ。


流石はお姫様といったところか。

レイリィの先導には淀みがない。

目的地がどこかは分からないが、するすると先に進んでいく。


王城のその本丸。

ついに俺たちはそこに侵入を果たした。


「敵は……居ないな」

「……えぇ。妙ね」

「観念したとか……?」

「はは……わたしの父のガラじゃないわね、それは」

「……もしくは、そんな大部隊でなくても俺たちを止める術があるか」

「……考えにくいわね。アレックスくらい連れてこないと、貴方は止められないわ。……あぁ、いえ……ひとり……いや、でも」

「ん……?」


レイリィが何か気になることを言って口ごもる。


「……まぁ、王座の間に行けば、すべてわかるわ。あとはこの大広間を抜ければ……」


言って、レイリィが大きな扉に手をかける。

そして、両開きのその扉を開け放った。


中は、円形の広間。

舞踏会なんかに使われるのだろうか。

広い空間に円柱が高い天井に向かって伸びている。

普段はイスやテーブルなどが置かれているのだろう場所には何もない。

そこに在るのは……。


「ふぅ……やれやれ……結局私が始末する羽目になるのだな……」


男がただ一人。

灰色の髪の毛を鬣の様に逆立てた老獪。

腕に俺と似たような形の、白銀の籠手を嵌めている。

身長は見上げるほどに高く、真っ黒な外套が、その体のほとんどを隠している。


「……ローレンツォ……」


その姿を呆然と眺め、レイリィが呟く。


「……誰だ?」

「ヘイムガルドの軍務大臣……ヘイムガルド軍の頭よ」

「……紹介は済みましたかな、姫様」

「……あなたが直々に出張ってくるなんてね」

「おかげ様でしてな。人材不足著しく。私が出張る他ないのですよ。……さて」


その鋭い眼光を俺に向け、ローレンツォと呼ばれた男が殺気を放つ。

魔力でも何でもない、ただの殺気。

それだけで、俺の防衛本能が働き、即座に体が勝手に構えをとった。


――この男、恐ろしく強い。そんな気配がある。


「……結構。なるほど、あながち神輿というわけでもないようだ」


ローレンツォが構えをとる。

奇しくも同じ無手。

その構えには隙が無い。


「手っ取り早く済ませるとしよう。……私は気が長い方ではないのでな」

「……戦わずには」

「済まんな」


じり、と間合いが詰まる。

入りを感じさせないすり足。

気付かぬうちに、間合い――。


雷光のような貫手が奔る。


「ッ!?」


咄嗟に体を流してぎりぎりで躱した。

頬を白銀の籠手が掠めて、肌を焼いた。


――やっぱり聖武器……!


大きく一歩引く。

が、また気付かぬ内に詰められる。

速度じゃない。これは技術だ。

体術……それもかなり高度な……。


「破ァッ!」


至近距離からの胴回し蹴り。

当たれば首がへし折れる。


腕を上げて防ぐ。

足甲と籠手がかち合って、硬質な音が広間に響いた。


「むっ!?」


足首をつかみ取る。

腕を引く。

このまま振り回して……!


「させん……!」

「ぐぁッ!?」


顎に衝撃。

振りあがったつま先が視界に入る。

……顎を蹴り飛ばされた、らしい。

視界がぐらつく。脳が揺さぶられている。

思わずたたらを踏んで、手を離した。


ダン、と地面が踏みしめられる音。

いまだぐらつく頭を振って、対応する。

正面から拳。顔面目掛けて。

腕の内側を打ち、逸らす。

即座に腹部を狙った貫手が迫る。


「くそっ……!」


身体を離す。

距離を置かなきゃ、一方的にやられるだけだ……!

足払いを仕掛ける、当然の様に足さばきだけで躱された。

振り上げた足は、交差した腕で防がれる。

ステップを踏んで大きく距離を開けた。


「ふむ……」


油断せず構えをとりながら、ローレンツォが深く頷いた。


「その若さでその体捌き……なるほど、なるほど。やはり真っ当な人間ではないか」

「……あんたもな……」


身体能力は恐らく俺の方が高いだろう。動き自体も負えない速度ではない。

……だた、技術のみで圧倒されている。

俺の攻撃は出鼻をくじかれ阻まれて、向こうの攻撃は正確無比。

逸らし、躱すので精いっぱいだ。まともに反撃も許してもらえない……。

このおっさん、正真正銘、バケモノだ。


「そう……そうだ。その重くどす黒い魔力、吸血鬼。……しかしどうやら聖力も持っているな……ふむ……聖人……本物、か」

「……偽物の聖人が居るのか?」

「伝説上の存在なのでな。眉唾であったが……」


じ、と見つめられる。

鋭い眼光のその奥に、深い思慮の影が見て取れる。


「名を聞こう」

「……キリバ・レイジ」

「よろしい。では、仕切り直しだ。……参るぞ、レイジ」


深く低い声に促され、俺たちは再び距離を詰めた。

本日はここまでになります。

お待ちいただいていた方々にはお待たせして大変申し訳ありませんでした。


次回投稿は明日21時になります。

やっと余裕が出来たので、暫くは以前の様に毎日投稿できるかと思いますので、よろしければお付き合いいただけますと幸いです。


気に入っていただけましたら、評価やブックマーク、よろしくお願いいたします!

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