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35 VS ガラハド・ギャレンブリク2

投稿が遅れて申し訳ありません。

気に入らなかったので何度か書き直していたらこの時間に……。

「『狂暴化バーサーク』!!」


ガラハドの『スキル』が、発動した。

魔力が吹き荒れる。

赤いオーラが立ち上り、ガラハドの雰囲気が一変した。


ガラハドが地面を踏みしめる。

たったそれだけで地面がへこみ、足元に大きくクレーターが出来あがる。

先ほどまで両手で振るっていた戦斧を片手に持ち直し、もう片方の腕で、腰の剣を引き抜いた。


全身に魔力を通す。

俺の周囲にも同じく魔力が吹き荒れる。

互いの魔力がぶつかりあって、その境の空間がバチバチと音を音を立てて爆ぜる。


気を引き締める。

ガラハドは『狂暴化バーサーク』と、そう詠唱した。

その言葉から受けるイメージからいえば、理性を失い、矢鱈滅多斬りかかってくるのかと思ったが……むしろその立ち姿は冷静そのものだ。


俺も冷静に構え、相手の出方を伺う。

ここまでの出力の魔力だ。

無尽蔵の魔力を持つ吸血鬼おれたちならともかく、ただの人間のガラハドがいつまでもこの状態を維持できるとは思えない。

じり、じり、と円を描くようにして、距離を測る俺達。


背後で戦うセシリアが、30から居た近衛騎士団、その最後のひとりを地に引き倒した、その瞬間、俺とガラハドが、同時に地を蹴った。


左右から同時に振るわれる斧と剣。

先ほどまでの速度とは段違い。

もはや目では追えない。

しかし、肌で感じる感覚だけを頼りに、体を沈ませる。

ひゅ、と頭上を刃が通り過ぎる。

一瞬遅れて上から振り下ろされる剣。

俺の人外じみた反応速度に対応してみせるガラハド。

狂暴化バーサク』とは名ばかりで、判断能力が落ちたりするわけではなさそうだ。

振り下ろされる剣を握るその腕を、軸足をずらして伸ばした両腕で絡めとった。

勢いを利用し、体を内側に入れ、体重をかける。

ごきり、と鈍い音を立てて右肘をへし折った。


「!?」


驚きに目を見開くガラハド。

向こうから見たら、突然視界から消えた俺が、いつの間にか腕に組み付いてきたようにしか見えないはずだ。

折れた腕をそのままに、距離をとるための大雑把な前蹴りが放たれる。

しかし、すでに俺はそこに居ない。

腕をへし折った体制から、ぐるりと体を回してガラハドの体の側面をするりと抜けた。

剣が腕から離れ、地に落ちるまでの刹那に俺はその行動を済ませている。

折れた腕側の側面。物理的死角を突き、背後に回る。

足を払って、体を浮かせる。

肘うち、裏拳、大上段への回し蹴り。

流れるような三連撃。

そのすべてが正確にガラハドの巨体に叩き込まれる。


ここまでの攻防で一息。

ほんの一瞬の間に、勝負は決まった。

確かな手ごたえ。

殺すまではいかずとも、確実に立ち上がれないほどの損傷を与えたはず……。


なのに……。


「う、そだろ……」


一度は倒れ臥したその巨体が、のそりと立ち上がる。

鎧のあちこちがひしゃげ、曲がり、砕けている。

腕はへし折れ、口元からは鮮血が絶えず流れ出している。


「がはっ、ごほっ……!」


咳き込みながら立ち上がるガラハド。


「くく……まだまだァ……」


ペッと地面に血痰を吐き出して、折れていないほうの腕で戦斧を構える。

まだ戦う気だ。

俺も構えなおす。


「いく、ぜぇえ!!」


駆けるガラハド。

しかし、生彩を欠いている。

当然だ、体の中身はボロボロ、腕は折れ、蹴りつけた脚にも少なくないダメージが入っているはずだ。

しかし生彩を欠いて尚、ガラハドからは凄まじい圧力を感じる。


――決死。


そんな言葉が頭を過ぎった。


(意識を、刈り取る……!)


俺にガラハドを殺す意思はない。

なんとか次の一合で意識を奪い、戦闘を終わらせる……!


大きく体を沈め、地面すれすれから振り上げるような戦斧を、スウェーバックで避ける。

そのまま振りあがった肘に蹴りを入れ、大きく開いた体に一歩踏み込んだ。

体を回し、リバーブロウを、横腹に叩き込む。

ぎしり、とガラハドの鋼のような肉体が軋み、俺の腕がめり込む。

耐えられず折れ曲がる体を浮き上がらせるように、顎を弾き上げて、側頭部に掌を当てて、魔力を通す。


通した魔力がガラハドの脳を揺さぶり……。


どすん、と音を立てて、巨体が沈んだ。


「……ふ、ぅ……」


残心する。

崩れ落ちたガラハドが立ち上がる様子はない。

うまく無力化できたようだ。

魔力の気配が霧散して、俺の体に掛かっていたプレッシャーもなくなった。


残心を解いた。

背後から足音。

セシリアが歩み寄ってきた。


「終わり、ましたか」

「……あぁ」


ひょい、と倒れているガラハドを覗き込むセシリア。


「これは……ずいぶんと、ぼろぼろに、しましたね……」

「し、仕方ないだろ!? 強かったんだよ!」

「はい。ガラハドは、強いです。私では、相手に、ならない程度には。……それを、ここまで一方的にぼろぼろに、できるレイジ殿も……」


ヤバいです。とでもいいたげなジト目を向けられた。


「……生きてるよな?」


最後の一撃は、急所への一撃になってしまった。

下手したら死ぬ。というか、その辺の魔物なら死んでる。


「ガラハドは、頑丈、なので、大丈夫でしょう」


しゃがみこみ、つんつん、とガラハドを指でつつきながらセシリア。


「生きて、いますね」


大丈夫です。とつぶやいて立ち上がるセシリア。


「そっちも、大丈夫だったか?」

「はい。一人も、殺していません。ロザミアと違って、殺さなくても、無力化できるので」

「そっか」


つまり、それほどまでに力量差があるといいたいのだろう。

30人の近衛騎士を一人で無力化……ね。

あなたも相当だと思いますよ、という言葉を飲み込む。


「さぁ、孤児院の人たちを解放しよう」

「はい」


頷き、ピィー! と指笛を吹くセシリア。

なんだ唐突に、と、思っていると。


「!?」


周囲に人間の気配が現れた。

数は20程。


咄嗟に構える。


「私の、部下、です。そんなに警戒、しないで、ください」

「お、おう……」


構えを解いた。


「全員、ザインへ。到着後はレイシア様の采配に」

「は」


そう短く遣り取りをすると。

セシリアと似たような気配を持つ集団が、孤児院の中に入っていく。

視界の隅でもぞり、と巨体が動いた。


「ぐ……」


頭を抑えながらガラハドが上半身を起こす。

ふらつき、地面に手をついた。


「……もう目を覚ましたのかよ……ほんとに頑丈だな……」

「ぁァ……? くそ、目が回りやがる……」


暫くそうしていると、頭を振って、あろうことか立ち上がった。


「おいおい、まだ立ち上がるのは……」

「おォ? なんてこたねぇよこんな怪我」

「いや……大怪我だと思うけど……」

「そんなことより……」


ちら、と孤児院をみやるガラハド。


「あァ、隠密がもう人質は回収したのか。じゃあいいか」


そして、どかり、とその場に座り込んだ。


「よォ、坊主。お前さんの勝ちだ。と、いうか、勝負にすらならなかったな! ガハハ!」

「いや、魔力を使って全力で攻撃しないと止まらなかったんだ……実際そのあたりのことを俺が躊躇ったら危なかったよ……」

「相手に殺さないように気を使われながらここまでボロボロにされたんだぜ。実際勝負になってねェだろ」


そういって、もう一度豪快にガハハ、と笑うガラハド。


「……で、よ。お前さん知りたがってたろ。俺がどうして王側に着いたのかってよ」

「……あぁ。知りたいな。……でも、今は」

「ぁん?」

「人質を解放したことを、アレックスに伝えるのが先だ」

「……く、ガッハハハ! あぁ、あぁ、そうだな! 頼んだぜェ!」


立ち上がり、俺の肩をバンバンと叩くガラハド。

痛い痛い。


「レイジ、殿」

「ん?」

「ありがとう、ございました」


そう言って深く頭を下げるセシリア。


「それと……もし、アレックスを止めることができたら……」

「うん?」

「バカ、とそう伝えてください」

「ガハハ、そいつぁいいや。俺からも同じ言葉を伝えてくれや、坊主!」

「……わかった」


思わず口元に笑みが浮かぶ。

……仲間に心配かけやがってあのイケメン野郎。


「私は、孤児院の皆の護衛で、ザインに向かいます。……すべて終わったら、そちらに、きていただければ」

「了解だ。じゃあ、俺は戻るよ……ガラハドさんも」

「ん?」

「次は、戦いとは関係のないところで会おう」

「くく、そんだけ強えェ癖に、戦いは嫌だっつぅのは……勿体ねェな、おい」

「……しょうがないだろ、性分なんだ」

「あァ、そうだろうよ。……俺もザインに向かうぜ。近衛騎士団もな」

「……謀反、ですか、ガラハド」

「もともと半分謀反してるようなもんだぜ、俺はよォ。つーわけで、坊主。またザインで会おうや」

「……わかった」


手を上げて、二人に踵を返す。

全身に魔力を通す。


(今もまだ、多分アリスがアレックスと戦ってる。……急がないと)


地面を踏みしめて、跳んだ。

再びアイゼンガルドを目指して。


――――――


「いき、ましたね」

「あァ。……ち、ほんと、とんでもねぇバケモノだぜ、ありゃよ」

「そう、ですね」


ガラハドと二人、レイジ殿を見送る。

アレックスのことは、彼に任せよう。

私には、私の仕事がある。


「……本気、出しました?」

「おう。本気も本気、大本気よ。『スキル』も全開で使ったぜ。あっさり見切られて……ま、この様だ」

「……はぁ。もうレイジ殿には……アレックスでもないと」

「そうだなァ。勝てねェだろうなぁ」


二人でため息をつく。

自分たちの絶対的味方だといえない存在が、そこまでの力を持っているというのは……正直恐ろしいものがあるが……。


「まぁ、レイジ殿、ですし」


そう、レイシアと同じことをつぶやいて、私は彼の去っていった方向を見る。


空には、厚く暗い雲が掛かっていた。


「……一雨、来そうですね」


呟いて、私は踵を返した。

本日はここまでになります。

申し訳ありませんが、明日は一日お休みをいただきます。

投稿の再開は明後日17日の20時からになります。


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