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30 邂逅

また予約を忘れました……。誰か毎日作者に予約投稿を忘れるなと伝えてください……。

森の中をひた走る。

ものすごい速度で景色が後方に流れゆき、耳元でゴウゴウと風の音がやかましい。


かれこれ8時間は走り続けだ。

俺とセシリアは、アルトロックの平原を走り抜け、今はロックガルドの大滝を見上げるところまで到達していた。

普通に歩けば3日はかかる道のりをたった8時間で走破。


吸血鬼である俺はともかく、セシリアも異常だ。


「セシリア、大丈夫か?」


走りながら問う。

問われた本人は、何を問われたのかわからないといった風に首をかしげて見せる。


「いや、体力とか、速度とか」

「問題、ありません。鍛えて、いますので」


そういって、むん、と腕を曲げて力こぶを作って見せるセシリア。

冗談を言う余裕はあるみたいだ。


「そうか。きつくなったら言ってくれ」

「もっと、早くても、大丈夫です」

「そうか……?」


言われ、足に籠める魔力の密度を上げて、速度を増す。

それを見て、セシリアが少し驚いたような息をついた。


「本当に、まだ、早くできるんですね」


そう言うや否や、セシリアが纏う魔力が増した。

ぴたりとすぐ後ろにセシリアの気配。

……本当についてこられるようだ。

流石というほかない。


時速で言えば、恐らく100キロほどは出ているはずだ。

自分でもちょっと信じられない身体能力だ。


「そろそろ、渓谷に、つきます」

「あぁ。見えてきたな」


セシリアの視線を追うように、俺もその先を見る。

俺たちの視線の先には、人、人、人。

山と山の間を埋め尽くすように人々が蠢いていた。


鈍い輝きを放つ鉄の鎧を身に着けた人々が、テントや天幕を渓谷に設置して、野営をしていた。

ここからでは遠すぎてその表情までは見えないが、これだけの人間がそこにいる割には、異様に静かだ。


「あれが人間軍の本隊か」

「はい。……騎士が多いです。……本気って、こと、ですか」

「騎士?」

「はい。精鋭部隊、のようなものと、思ってもらえれば。人間軍と言っても、半数ほどは、戦時でなければ、農民が、ほとんど、なので」

「……成程な。職業軍人ってことか」

「そう、ですね。そんな言葉を、知っていたんですね」

「え、馬鹿にされてる?」

「……アレックスは……あちら、ですね」


俺たちが走ってきた方向を振り返り、セシリアが目を細める。

なるべく森や林を抜けてきたので、平地に陣を構えたという人間軍の先遣隊とやらは見ていない。

表情からは何も読めないが、少し悲しそうな雰囲気を感じた。


「……ばれないように抜けよう。……俺たちの速度なら大丈夫だと思うけど」

「そう、ですね。さっさと、渓谷を抜けて、ヘイムガルドに、入ってしまいましょう」


セシリアと互いにうなずきあって、俺たちは、再び走り出した。



――――――



翌日。

結局夜通し移動を続け、俺たちは山脈の向こう、ヘイムガルド領に入った。

朝靄の中、静かに、しかし素早く森の中を駆けてゆく。


後詰めだろうか。

鎧を着た兵士たちの部隊を見かけるが、俺たちに気が付いた様子はない。


「セシリア。どこかで少し休憩を入れよう」

「……っ、はい……」


かれこれ12時間ほど走り続けているだろうか。

みるからにセシリアに疲労の色が見え始めた。

一日目の移動としては十分な成果だろう。


「どこかいい場所はあるか?」

「もうすこし、行ったところ、に、廃墟が、ありますので、そこで」

「わかった。先導してくれるか?」

「はい」


こくり、と頷き、俺の前に出るセシリア。

俺も速度を落として、そのあとについていく。


森の中に分け入っていくと、少し開けた場所に、かつては監視塔だったのだろうか。

大きく崩れた、背の高い塔の残骸があった。

ツタが絡みつき、石造りの外壁には苔がびっしりと張り付いている。


「……ふぅ」


念のため『遠見』を放ち、何の反応も帰ってこないことを確認してから、俺たちはその廃墟に足を踏み入れる。

中はまさに廃墟といった様相で、腐った木のテーブルや、崩れた暖炉などがこの塔に暫く人が入っていないことを想像させる。


「……はぁ……はぁ……」


セシリアの息が荒い。

相当無理をさせてしまったらしい。


「悪い。しんどかったか」

「いえ……だい、じょうぶ、です」

「いや、めっちゃしんどそうだけどね。とりあえず先に休んでくれ。見張りは俺が」

「……すみ、ません」


心底申し訳なさそうなセシリアに、大丈夫、と手を振って、羽織っているマントを床に敷く。

アルトロックを出るときに、バックパックはおいてきてしまったため、テントや毛布がない。

ずっと着続けている為ボロボロだが、これで我慢してもらうほかない。


「悪い。汚いけど、たぶん何もないよりマシだと思うから、これでも敷いて寝てくれ」

「ぇ、ぁ……は、はい。どうも……」


ドギマギと、らしくなく、セシリアがどもりつつ俺の外套マントの上に腰を下ろす。

そして、巻いていたマフラーを折りたたんで枕にし、外套を脱いで体にかけると、こてりと寝ころんだ。


「……その。できれば、あまり、見ないで、いただけると」


もぞもぞと外套に包まりながら、遠慮がちにセシリアが俺に言う。

……気づけば、じっとセシリアの様子を眺めっぱなしだった。

慌てて目をそらす。

誰だって自分が寝ているところなんて見られたくないだろう。


「わ、悪い。外に出てるよ」

「……はい。3時間、ほど、寝させていただければ」

「了解」


頷き、セシリアが目を閉じる。

俺はそれを見届けて、廃墟の外に出た。


そういえば、食料を持ってくるのも忘れていた。

今のうちに木の実やなんかを集めておこう。

しばらく続けた旅のお陰で、食べられる木の実や野草についてはだいぶ詳しくなった。

……まぁ、大体がアリスに教えてもらったことだけど。


そう思い立って、森の中に分け入っていく。

暫く歩き回って、いくつかの食べられる木の実と、野草を見つけた。

獣もいたが、俺はミリィほどうまく解体ができないため、今回は見送ることにした。

セシリアがその辺の作業ができるなら、獣を狩るのもいいだろうか。


そんな風に考えて何気なく『遠見』を放った――瞬間。


「!?」


俺の『遠見』に、同じような魔力の塊がぶつかった。

何者かの探知。範囲は俺のそれよりもかなり狭いが、逆に言えば、すぐ近くに何かがいる。

円形に広がるその探知の中心に、巨大な魔力の反応がある。


(気を抜いてた! ここまでの接近を許すなんて……!)


間違いなく人間。

それも魔力の反応がかなり強い。

つまり、手練れだ。

距離は約200mほど。


咄嗟に廃墟に向けて、魔力を放つ。

セシリアにエマージェンシーを伝えるためだ。


放った瞬間、探知の中心にいた存在が、俺に気が付いた。

猛烈な速度でこちらに迫ってくる。

敵、だろうか。


そう考えあぐねている間に、魔力の主が木々の隙間から現れた。


現れたのは、長身の女性。

俺よりいくらか年上か。


緩いウェーブの掛かった長い薄緑色の髪。

どこか愉快そうに細められ、しかし妙な妖艶さを携えた髪色と同じ緑色の瞳。

膝ほどまである深緑色のマントでその体の大部分が隠れているが、一部の主張がすさまじい。

……どことは言わないが。

すさまじい美人なのだが、どこか油断ならない雰囲気を纏っている。


「あらぁ?」


間延びした口調。

見た限りは丸腰。

だが、途方もない圧力を感じる。

油断せず、構えをとった。


「あららぁ? わたくし、なぜ敵対されているのかしらぁ? 初対面、ですわよねぇ?」

「……そういうのはその駄々洩れの殺気隠してから言ってくれるか?」

「それはお互い様ですわぁ。どうして人間の国に化け物がいらっしゃるのですぅ?」


うふふ、と頬に手を当て微笑みながら女が言う。

そのスローテンポな話し方とは裏腹に、先ほどから俺にぶつけられている魔力と殺気の圧力は強くなる一方だ。


「化け物がなんのご用事でヘイムガルドに? わたくし、特に国に忠誠を誓っているわけではありませんが、事と次第によっては戦わなければなりませんの」

「ちょっと世界平和のためにな。友達の家族を助けに行く途中だ」

「あらあら。冗談はその化け物じみた魔力密度だけにしていただけますかぁ?」


セシリアとは違った意味で表情の読めない女性だ。

にこにことした表情がまるで仮面のように崩れない。


「レイジ殿ッ!」


俺たちが油断なく見つめあっていると、先ほどの俺の魔力で目を覚ましたのだろう、セシリアが駆け付けた。


「あらぁ。セシリアちゃぁん?」

「……ロザミア……」

「な、なんだ、知り合いか? よかった。だったら状況を説明して……」

「ロザミアは、どちら、側ですか」

「うぅん、たぶんセシリアちゃんとは反対側ねえ」

「……そう、ですか」


セシリアが腰に差した短剣を抜く。

眼前に構えて、全身に魔力を通した。


「なんだ!? 知り合いじゃないのか!?」

「元、パーティメンバー、です。……人王側についたようですが」

「……勇者パーティの一人ってことか……」

「そちらはどなたさんなのかしらぁ? 戦うのはいいけれど、自己紹介くらいはしていただけますかぁ?」

「……レイジだ。キリバレイジ」

「レイジさん……うぅん、どこかで聞いたことある名前ですねぇ……」

「聖人、レイジ殿、です」

「あぁ! あなたが最近巷で噂の聖人様ですかぁ。なるほどぉ。先ほどの話、与太話ではないんですねぇ。……それじゃあ、敵、ってことになりますわねぇ」


にこにこと、女性――ロザミアが中空に腕を突っ込んだ。

収納区間ポケット』の魔法……!


「レイジ殿……気を付けて、ください」

「……くそ、戦うしかないのか……!」


全身に魔力を通して構える。


ロザミアが中空から腕を引き抜く。

その手には、長身の彼女と比べてもなお大きく感じる程の長弓が握られていた。


「うふふふふ……それでは。【弓聖】、ロザミア・ハーヴェスターがお相手致しますわぁ。存分に……うふふふふ……殺しあいましょう?」


柔和な笑みが歪む。

これが彼女の本性か。

心底楽しそうに、歪んだ笑みを携えたロザミアが、戦闘の開始を宣言した。

本日はここまでです。

明日こそは20時に投稿いたします!!!


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