表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/149

26 スキル

投稿予約を忘れてこの時間になってしまいました……。何度やれば気が済むんですかねこの作者は……。申し訳ありません。


「――『祖は、人が鍛(イミテイション・)えし術理なり(レプロデュース)』」


突然頭に浮かんだその言葉スペルを、何らかの確信を以って、俺は呟く。


そして、同時に理解した。

これが俺の『スキル』なのだと。

使い方、その効果。

全てが、一瞬にして俺の魂に刻まれた。


取るのは、日本の空手における型のひとつ。


――天地上下の構え。


大きく構えを変えた俺を、騎士が驚愕の雰囲気を以って見つめる。

フルフェイスの兜の奥。俺からは伺い知れないその双眸が、しかし、驚愕に見開かれていることがなぜか理解できた。


騎士が、突撃を仕掛ける。


ハンマーを引きずるような、小さく低い疾駆で俺に肉薄する。


即座に俺はどうするべきかを理解した。

スキルが俺に情報を与える。

今、この状況、このシチュエーション。

どの動きが最適か。

それを、知識として、そして、俺の経験として(・・・・・・・)


迎え撃つ。

大きく振り上げられるハンマーを、一切の無駄なく、その腕ごと受け止めた。

そして――


「ゼァアッ!」


裂帛の気勢を上げて、俺は肘を振り下ろす。

騎士のその無防備な背中に向けて。


――猿臂落とし。


一度も使ったことのないこの技を、俺は、まるで何度も使用したことがあるような、完璧な入りで放つ。

完璧なタイミング、完璧なフォームで放たれた俺の技が、騎士の甲冑の背中部分を叩き割る。

衝撃が内部にまで到達し、少なくないダメージを与えた手ごたえ。


そして、俺は次にどうするべきかを知っている(・・・・・)


まるで、そうすることが当たり前のことの様に。

まるで、何度もそうしてきたかのような、そんな肉体の反応。


膝を振り上げる。

騎士を掬い上げるかのような膝蹴りが、正面の甲冑を砕いた。


騎士の身体が開き、大きくよろける。


そこに――


「セィヤァアッッ!」


これまで放ってきたどの正拳突きよりも流麗、そして苛烈な正拳突きを叩き込む。


砕けた甲冑を突き破り、俺の拳が、騎士の肉体をそのそんざいごと破壊した。


『ッ――見、事……!』


一歩、二歩、と後ろにあとずさり、ガクリと膝をつく。


『――聖人、レイジ』

「――あぁ」


残心を解き、俺は頷く。


「あとは、任せろ」

『――託そう。……これより、我が魂。汝と、ともに』


『頼んだ』


最後に、穏やかにそう言って、騎士が光の粒子になって掻き消えた。


「……ふぅ」


構えを解く。


そして、極度の疲労に、膝をついた。


俺のスキル、『祖は、人が鍛(イミテイション・)えし術理なり(レプロデュース)


これは、俺の魂に刻まれた「人が鍛えた術理」――つまり、「技」を『模倣』し、『再現』するスキルだ。

その場、そのシチュエーションに最適な「技」を俺の記憶から引っ張り出して使用することが出来るらしい。


先ほど使った空手技、猿臂落とし。

過去に「そう言う技があると聞いたことがある」程度の知識で、そうするのがまるで当然だというように、身体が動いた。

その後の正拳突きに関してもそうだ。

正拳突き自体はこれまで幾度も使ってきているものだが、いつものそれの何倍も流麗に、そして強力なものを放つことが出来た。


俺がその「技」を知っていれば、訓練も、練習も必要ないということらしい。

実在する技だろうが、実在しない技だろうが、その「技」は「俺の技」として発動する。


但し、無手の格闘術に限るようだ。

剣術や槍術なんかは、俺の記憶にあるものでも恐らく再現できない。


まさしく、今まで見様見真似で格闘術を使い続けた俺に相応しい「スキル」だった。


(それがモノマネだっていうのが、ちょっと情けないけど、な)


ともあれ、この「スキル」のおかげで白騎士の勝てたことは確かだった。


しかし、その代償に、


(体が、重い……)


魔力の不足、そして


キリバ レイジ

Lv9 吸血鬼 聖人

【魔法】Lv0

  【根源たましい魔法】Lv3★★★

【聖人】Lv3★★★

【格闘】Lv2


レベルの低下。


これが俺が「スキル」を発動するための代償のようだ。

魂の情報を幾らか使うのだろう。以前上がったレベルが1つ下がっている。

自分の身体能力の低下を、しっかりと感じていた。


(これはおいそれと使えない「スキル」だな……使い勝手悪……)


嘆息する。

つくづく俺は、チートで異世界無双とはいかないようだった。


「レイジ」


俺を後ろで見守ってくれていたアリスが、戦闘の終わりを感じ取ったのか、近寄ってくる。


「ん、あぁ。終わったよ」


その場にどさりと座り込んで、アリスを見上げるようにして答えた。


「うむ。お疲れなのじゃ」


ぽんぽん、と頭を撫でられた。

くすぐったい。


「レイジ、終わったのか?」

「あぁ……ロックもダイモンも、見えなかっただろうけど、そこに白い騎士が居たんだよ。……二人の……ご先祖様ってことになるのか……?」

「ご先祖様……?」


言われたダイモンが首を捻る。

まぁ……俺も上手く伝えられないし、よくわからなくても仕方ない。


「ともかく、勝ったし、終わった」

「そうか……」


ロックが顎に手を当てて頷く。

全く何も感じなかった様子のダイモンと違って、ロックは何かを感じたらしい。

騎士が消えた場所を眺めて、遠い目をしている。


「お兄ちゃん、けがはない……?」


俺の隣にしゃがみ込んだミリィが、心配そうに俺の服の裾をつかむ。


「ん……ちょっと怪我はしたけど、もう治ったよ。ありがとう」


ぽん、と頭に手を置いて答える。

いまだに胸の辺りがじくじくと痛むが、恐らくそれもそのうち治るだろう。

今は「スキル」の反動で体内の魔力が少なくなっているからか、傷の治りも幾らか遅いようだ。


「よかったなの」


にこりと、どこか弱弱しくミリィがほほ笑む。

ドラゴン戦からこっち、ずいぶんミリィに心配をかけているらしい。

猛省せねば……。


「あとは……」


俺は広間の奥をみやる。

下に続く階段。

最奥への入り口が、そこにある。


「……行こう。あれを降りれば、最奥だ」

「おう。迷宮探索もいよいよ終わりってワケだな」


ロックが頷く。

早く地上に戻ってマシナーズハートを調べたいのだろう。そわそわとした様子だ。


「最奥……前人未踏の領域に、ついに到達したんだな」


対するダイモンは、感慨深そうだ。

ていうか、最奥の一歩手前でも恐らく既に前人未踏の領域だ。


「レイジ……少し休むのじゃ?」


アリスの声は気遣わしげだ。

恐らく、『情報端末コンソール』にアクセスする時の俺の負担を心配してくれているのだろう。

アリスに礼を言って立ち上がる。

肉体的にも魔力的にも疲弊があるのは確かだ。

だが……。


戦争を始めたというリィン皇国とガイゼンシルト。

……一日でも、一時間でも早く、済ませることを済ませよう。


俺は皆を振り返る。


「ここまで来たら、もう今日中に終わらせよう。……行こう。最奥に」


そう告げると、気遣わしげな視線が向けられるが、最終的に皆が頷いてくれた。

それをしっかりと確認して、俺は歩き始めた。

階段に。


機械の迷宮の最奥に向けて。

今日はここまでになります。

申し訳ありませんが、明日は1日更新をお休みいたします。

この章の迷宮探索は次回でおしまいになります。


気に入っていただけましたら、評価やブックマーク、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ