26 スキル
投稿予約を忘れてこの時間になってしまいました……。何度やれば気が済むんですかねこの作者は……。申し訳ありません。
「――『祖は、人が鍛えし術理なり』」
突然頭に浮かんだその言葉を、何らかの確信を以って、俺は呟く。
そして、同時に理解した。
これが俺の『スキル』なのだと。
使い方、その効果。
全てが、一瞬にして俺の魂に刻まれた。
取るのは、日本の空手における型のひとつ。
――天地上下の構え。
大きく構えを変えた俺を、騎士が驚愕の雰囲気を以って見つめる。
フルフェイスの兜の奥。俺からは伺い知れないその双眸が、しかし、驚愕に見開かれていることがなぜか理解できた。
騎士が、突撃を仕掛ける。
ハンマーを引きずるような、小さく低い疾駆で俺に肉薄する。
即座に俺はどうするべきかを理解した。
スキルが俺に情報を与える。
今、この状況、このシチュエーション。
どの動きが最適か。
それを、知識として、そして、俺の経験として。
迎え撃つ。
大きく振り上げられるハンマーを、一切の無駄なく、その腕ごと受け止めた。
そして――
「ゼァアッ!」
裂帛の気勢を上げて、俺は肘を振り下ろす。
騎士のその無防備な背中に向けて。
――猿臂落とし。
一度も使ったことのないこの技を、俺は、まるで何度も使用したことがあるような、完璧な入りで放つ。
完璧なタイミング、完璧なフォームで放たれた俺の技が、騎士の甲冑の背中部分を叩き割る。
衝撃が内部にまで到達し、少なくないダメージを与えた手ごたえ。
そして、俺は次にどうするべきかを知っている。
まるで、そうすることが当たり前のことの様に。
まるで、何度もそうしてきたかのような、そんな肉体の反応。
膝を振り上げる。
騎士を掬い上げるかのような膝蹴りが、正面の甲冑を砕いた。
騎士の身体が開き、大きくよろける。
そこに――
「セィヤァアッッ!」
これまで放ってきたどの正拳突きよりも流麗、そして苛烈な正拳突きを叩き込む。
砕けた甲冑を突き破り、俺の拳が、騎士の肉体をその魂ごと破壊した。
『ッ――見、事……!』
一歩、二歩、と後ろにあとずさり、ガクリと膝をつく。
『――聖人、レイジ』
「――あぁ」
残心を解き、俺は頷く。
「あとは、任せろ」
『――託そう。……これより、我が魂。汝と、ともに』
『頼んだ』
最後に、穏やかにそう言って、騎士が光の粒子になって掻き消えた。
「……ふぅ」
構えを解く。
そして、極度の疲労に、膝をついた。
俺のスキル、『祖は、人が鍛えし術理なり』
これは、俺の魂に刻まれた「人が鍛えた術理」――つまり、「技」を『模倣』し、『再現』するスキルだ。
その場、そのシチュエーションに最適な「技」を俺の記憶から引っ張り出して使用することが出来るらしい。
先ほど使った空手技、猿臂落とし。
過去に「そう言う技があると聞いたことがある」程度の知識で、そうするのがまるで当然だというように、身体が動いた。
その後の正拳突きに関してもそうだ。
正拳突き自体はこれまで幾度も使ってきているものだが、いつものそれの何倍も流麗に、そして強力なものを放つことが出来た。
俺がその「技」を知っていれば、訓練も、練習も必要ないということらしい。
実在する技だろうが、実在しない技だろうが、その「技」は「俺の技」として発動する。
但し、無手の格闘術に限るようだ。
剣術や槍術なんかは、俺の記憶にあるものでも恐らく再現できない。
まさしく、今まで見様見真似で格闘術を使い続けた俺に相応しい「スキル」だった。
(それがモノマネだっていうのが、ちょっと情けないけど、な)
ともあれ、この「スキル」のおかげで白騎士の勝てたことは確かだった。
しかし、その代償に、
(体が、重い……)
魔力の不足、そして
キリバ レイジ
Lv9 吸血鬼 聖人
【魔法】Lv0
【根源魔法】Lv3★★★
【聖人】Lv3★★★
【格闘】Lv2
レベルの低下。
これが俺が「スキル」を発動するための代償のようだ。
魂の情報を幾らか使うのだろう。以前上がったレベルが1つ下がっている。
自分の身体能力の低下を、しっかりと感じていた。
(これはおいそれと使えない「スキル」だな……使い勝手悪……)
嘆息する。
つくづく俺は、チートで異世界無双とはいかないようだった。
「レイジ」
俺を後ろで見守ってくれていたアリスが、戦闘の終わりを感じ取ったのか、近寄ってくる。
「ん、あぁ。終わったよ」
その場にどさりと座り込んで、アリスを見上げるようにして答えた。
「うむ。お疲れなのじゃ」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。
くすぐったい。
「レイジ、終わったのか?」
「あぁ……ロックもダイモンも、見えなかっただろうけど、そこに白い騎士が居たんだよ。……二人の……ご先祖様ってことになるのか……?」
「ご先祖様……?」
言われたダイモンが首を捻る。
まぁ……俺も上手く伝えられないし、よくわからなくても仕方ない。
「ともかく、勝ったし、終わった」
「そうか……」
ロックが顎に手を当てて頷く。
全く何も感じなかった様子のダイモンと違って、ロックは何かを感じたらしい。
騎士が消えた場所を眺めて、遠い目をしている。
「お兄ちゃん、けがはない……?」
俺の隣にしゃがみ込んだミリィが、心配そうに俺の服の裾をつかむ。
「ん……ちょっと怪我はしたけど、もう治ったよ。ありがとう」
ぽん、と頭に手を置いて答える。
いまだに胸の辺りがじくじくと痛むが、恐らくそれもそのうち治るだろう。
今は「スキル」の反動で体内の魔力が少なくなっているからか、傷の治りも幾らか遅いようだ。
「よかったなの」
にこりと、どこか弱弱しくミリィがほほ笑む。
ドラゴン戦からこっち、ずいぶんミリィに心配をかけているらしい。
猛省せねば……。
「あとは……」
俺は広間の奥をみやる。
下に続く階段。
最奥への入り口が、そこにある。
「……行こう。あれを降りれば、最奥だ」
「おう。迷宮探索もいよいよ終わりってワケだな」
ロックが頷く。
早く地上に戻ってマシナーズハートを調べたいのだろう。そわそわとした様子だ。
「最奥……前人未踏の領域に、ついに到達したんだな」
対するダイモンは、感慨深そうだ。
ていうか、最奥の一歩手前でも恐らく既に前人未踏の領域だ。
「レイジ……少し休むのじゃ?」
アリスの声は気遣わしげだ。
恐らく、『情報端末』にアクセスする時の俺の負担を心配してくれているのだろう。
アリスに礼を言って立ち上がる。
肉体的にも魔力的にも疲弊があるのは確かだ。
だが……。
戦争を始めたというリィン皇国とガイゼンシルト。
……一日でも、一時間でも早く、済ませることを済ませよう。
俺は皆を振り返る。
「ここまで来たら、もう今日中に終わらせよう。……行こう。最奥に」
そう告げると、気遣わしげな視線が向けられるが、最終的に皆が頷いてくれた。
それをしっかりと確認して、俺は歩き始めた。
階段に。
機械の迷宮の最奥に向けて。
今日はここまでになります。
申し訳ありませんが、明日は1日更新をお休みいたします。
この章の迷宮探索は次回でおしまいになります。
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