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03 再臨の駄女神

すこしお話が進みます。長くなってしまいましたが、説明回はおしまいです。

 アリスの部屋をあとにして、俺は自分の部屋でベッドに座り、先ほどの会話を反芻していた。

 アリスの話を統合すると、この世界の住人は領土の為や資源の為でなく、ただひたすらに、争うために争いを続けているらしい。


 ――資源なんぞ迷宮があれば無限に湧いてくるじゃろ。そんなものを奪う理由がどこにあるんじゃ?――


 曰く、迷宮とはその中で資源を生成し、その生成された資源を探求者シーカーと呼ばれる専門家達が持ち帰るための場所らしい。

 だから国家ごとに必ず1つは迷宮を所持しており、その迷宮の恩恵に与ることで、資源の枯渇や不足に悩まされることは一切ないのだという。


 ――というより、逆じゃな。国家が迷宮を所持しておるんじゃなくて、迷宮がそこに在るから国家が生まれたんじゃ。7の王とは、迷宮を護る守護者じゃ。じゃから、王が死んでも次の王が生まれる。そうできておるんじゃ――


 より豊かに、より大きく。そういった野望や野心、そんなものを持っている王は一人もいない。それがアリスの言だ。

 争うために争い、殺すために殺す。殺し合い、ただ、殺しあう。

 ファンタズマゴリアはそんな、狂った世界なのだと、アリスは臆面もなく言ってのけた。


(つまり……俺に与えられた救世の責務っていうのは)


「――この世界を平和にする……ってこと、なのか?」


 なんて……――なんて、無理難題。

 人間1人、それも女神の加護なんていうどんな意味があるのかわからないものたった一つだけ渡されて、どうしろっていうんだ。


「――リィン!! 女神リィン!! 見てるんだろ!? 見てるんだったら姿を見せろ! 啓示でもなんでも与えてみせろよ!!」


 やけっぱちになって天井に怒鳴る。

 

 ――と。


「はぁーい!」


 直後、能天気な返事が返ってきた。

 俺が転生してきた時のように、まばゆい光が辺りを包み――


「呼ばれて飛び出て! ばぁーん! お呼びの女神リィンです!」


 ほんとに女神が姿を現した。


「ほんとに来るのかよ! しかも軽っ!?」


「当然ですっ! レイジさんは聖人ですからね! 女神召喚チャネリングなんて基本性能ですよ??」


「だからそういうこと転生する前にちゃんと教えといてくれる!?」


「聞かれなかったので!」


「いや、聞いたから! 女神の加護ってなんだよ? って聞いたぞ俺!」


「あれ? そうでしたっけ? ごめんなさい、覚えてないです!」


「堂々言うなッ!」


 相変わらずの駄女神っぷりを発揮するリィンにペースを乱された。

 ごほん、と咳払いをして、女神に向き合う。


「なぁ、リィン――。俺が転生する直前にお前に言われた言葉。この世界を救ってくれっていうのは……この世界を平和にしろって意味なのか?」


 リィンの目を見つめ、真剣に問う。

 俺の真面目な雰囲気を察してか、リィンもしっかりと俺の目を見つめ、


「――はい。その通りです」


 それまでの何倍も真面目な声色と表情で、女神が首肯した。


「聖人レイジ。あなたに与えられた天啓は、この世界に平和をもたらすことです。あなたの、あなたにしかできないやり方で。――そして、あなたしかもっていない、その力で」


「俺の力……? 俺の力ってなんだよ。俺は日本の平凡な高校生だ。お前にもらった女神の加護も、今のところ、血がちょっと魔物とか吸血鬼とかに害だってことくらいしか分かってないぞ」


「あなたの力、それは『―――――――』……あぁ、禁則事項なんですね、これは……」


 困りましたね、と首をかしげるリィン。


「いや、まて、なんて言った、今」


「ですから『―――――――』……やっぱり伝わりませんね」


「伝わらないよ! どういうことだ!?」


 リィンが唇を動かし、発声をしていることだけはわかる。

 だが、意味は伝わらない。何を言っているのか理解が出来ない。


「まだ、駄目みたいです。けれど、いずれわかると思います。あなたの持っている、あなただけの力なのですから」


 そっ、と、いつの間にか握りこんでいた拳にリィンの手が重なる――と


 ―――――ジュゥウウウウウウウウウウウ!!


「あっつぅううううううい!? アツゥイ! アッツゥ!? 痛い痛い痛い! ナニコレ!?」


 リィンの手が重なった部分が焼け爛れた。


「あっ、そうでしたねっ! 吸血鬼さんになったんでした! ごめんなさい!」


 ぱっとリィンが手を放すと、焼け爛れていた手はすぐ治った。

 吸血鬼の不死身パワーだ。


「ひぇ……もしかして、俺吸血鬼だからお前に触れられるとダメージ食らうの!?」


「そうですねー! 私は存在自体が聖力の塊みたいなものなので!」


「分かってるなら気安く触れないでくれる!?」


「えへへ、ごめんなさい。――んー、でも、レイジさんの体内にも聖力流れてるはずなんですけど、中は大丈夫なんですねー? なんででしょう? ちょっと見てみますね?」


 そういいながらリィンは人差し指と親指で円を作り、片目に当てると、もう片方の目を瞑って俺をじぃいっと眺める。

 なのそのポーズかわいい。

 

 アリスもやってたけど、相手の何かを見るときってそのポーズがデフォルトなのこの世界。


「ふんふん……うまい状態で調和がとれてるみたいですねえ。初めて見る状態ですけど……安定してるっぽいです!」


「……ちなみに聞くけど、安定してないとどうなる?」


「内側から爆ぜます」


「やっぱり死ッ!?」


「吸血鬼さんなら爆ぜても死なないと思うのでご安心ください!」


いや、だから爆ぜたくないんだけど。


「――まぁ、ともかく、俺の使命ってのはわかった。で、具体的にどうしたらいいんだ」


「具体的にですか?」


「そうだ。指針をくれ。今のままだとダメな吸血鬼を餌付けするだけでこの世界の生を全うしそうだ……」


「そうですねぇ……『――――――』……あ、これもダメなんだ……。んーと、じゃあ、"各地の迷宮を最下層まで踏破する"……あ! これなら大丈夫なんですね!」


「各地の迷宮を最下層まで踏破する……?」


「ですです! そうしたらわかること、たくさんありますので!」


「その、俺の力ってヤツのこともか?」


「多分!」


「多分なのか……」


 ともあれ、明確にやるべきことが分かった。

 それなら動きやすい。


「わかった。そうしてみる」


「はい! ほかになにか聞きたいことはありますか?」


「……そういえば、お前、俺にチートパワー与えたって言ってたけど、何も貰ってないっぽいんだけど、どうなってるんだその辺」


「……あぁ!」


 ポン、と手を叩くリィン。忘れてました、みたいな表情だ。忘れるな。

 チートパワーの一つや二つないと、年中争いが起こってるようなこの世界で生き残れる気がしないぞ俺。


「……あるんだな?」


「ありますあります! えーっと……確かこのあたりにー」


 ごそごそと中空を探るリィン。例の四〇元ポケット的な何かだ。


「ありました! これです! でん!」


ずるり、と中空から光り輝く剣を引き抜いて俺に突き出すリィン。


「聖剣です! あ、聖槍とか聖弓もありますけど、どれがいいです?」


あるんだ聖剣!! チート武器のパターンだったんだ!!


「剣がいい! 剣、剣!」


 無邪気にはしゃぐ俺。

 そりゃ俺だって男の子だし? 剣とかカッコいいよね?

 ビームとか出るのかな!


「はいはい剣ですね……じゃあこれどうぞ。聖剣リィンフォースです!」


「あ、自分の名前つけてるのね……まぁ、ありがたく」


 恭しく差し出された聖剣の柄を両手で掴む――瞬間、手のひらから圧倒的な熱が伝わってくる――!


「こ……これは……!」


――――ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!


「あぁああああっつい!! アッツゥイ!! アツゥイ!!! なにこれすっごい熱い!!!」


 俺の手が焼け爛れた。


「あ、そうでした! 吸血鬼さんでしたね!」


「ふっざけんな! 天丼はもういい!」

 

 ガシャン! と聖剣を床に叩きつける。


「えへへー、これも聖力の塊みたいなものなのでー……あ、あと聖銀ミスリル製ですねこれ……じゃあ吸血鬼さんには持てませんね!」


「弱点!! ミスリルは数少ない弱点!! ダメじゃん! おバカ! バカ女神! 堕天しろ!!」


「な、なんてこと言うんですか! レイジさんが吸血鬼さんになったのは私のせいじゃないですよ!?」


「いや、こんな僻地に転生させた君のせいだよ!? もっと安全なところにおろして!?」


「えー……でも、この森の中、ほとんど魔物も魔獣もいないですし、張られてるとんでもない結界のおかげで夜盗の類もいないですし、比較的安全なんですけど……」


「いや、とんでもないバケモノの住処だよ! 吸血鬼のお膝元だよ! 死にかけたぞ!?」


「まぁ生きているんで結果オーライですね!」


 バチン、と音がしそうなほどのウィンクを投げてよこすリィン。

 すっげームカつく。


「いや、どうすんのよ! チート武器もチート魔力もなしで迷宮攻略とかできる気がしないよ!? なんかいるんでしょ!? 魔物とかボス的な奴とか!」


「え? でもレイジさんには十分稀有な才能が……あれ? もしかしてご自身の才能レベルとか見てないです?」


「その単語初耳だよ! なんだよ才能レベル!」


 え? 知らないんですか? みたいな顔をするな。

 そんなRPG的要素あって当然みたいな感じ出されても困る。


「あれれ? もしかして、魂魄情報ステータスの見方もわからないです? 加護を与えてるので見られるハズですけど……」


「説明不足ッ!」


 知らない単語がポンポン出てくる。


「あららー……ごめんなさい」

 

 てへり、と自分の頭をコツンと叩くリィン。

 だから、いちいちぶりっ子するな。


「今教えてくれ! そういうのは全部! 今!」


後出しやめろ! 死んでからじゃ遅いんだぞ! もう2回死にかけたけど!


「はい! ……えぇっと、じゃあ、とりあえずやってみましょうか。まずはステータスの確認をしたい相手に意識を向けて『ステータスオープン!』って元気よく叫んでみ――」


「ステータスオープン!!!!」


 食い気味で叫ぶ俺。


「る必要はないんですけど」


 ずっこける俺。

 

「真面目にやれ!」


「てへりこ☆」


 な、殴りてぇ……。


「えぇっと、ステータスを確認したい相手に意識を向けて、相手の内側を探るようにしてみてください。むむむっ、て感じです」


 ざっくばらんな説明だった。

 とりあえずやってみることにする。


「むむむっ……」


(内側を探る……自分の内側……)


 と自分の内側に意識を向ける、と


キリバ レイジ

Lv01 吸血鬼 聖人

【魔法】Lv0

   【■■■■】Lv■■■■

【聖人】Lv3★★★

【格闘】Lv2


 なんか、ゲームっぽい半透明のウィンドウが表示された。


「おぉ!? なんか出てきた!」


「みえました? それがレイジさんの魂魄情報ステータスです」


「なんか、レベルとか表示されてる……」


 とってもゲーム的だった。


「ですです。私も見えてるので上から説明していきますね。えっとまず、キリバレイジっていうのはお名前ですね」


「それはわかる。その下のレベルっていうのは……?」


「その個体の今の強さの指針ですね! 魂魄の情報を吸収したら上がります!」


「魂魄を吸収……? どうするんだ……?」


「具体的には魔物を殺したりですね!」


「殺さないとダメなの!?」


「魂を開放しないとですから、殺さないとダメですねー」


「物騒な……」


「えっと、その隣に書いてあるのが、種族とか、役割とか……そういったものです。レイジさんは吸血鬼で聖人なので、その二つですね!」


「なるほど」


 なるほど。


「その下に【魔法】って書いてあるのがわかりますか?」


「あぁ、わかる。レベル0ってなってるけど……」


 これはアレか? この世界のレベルでは測れないほどの計り知れない能力が……!


「そうですね! レイジさんに魔法の才能はこれっっっっぽちもないってことです!」


 ちがった! 普通に文字通りの零だった!


「じゃあ書くなよ! 伏せといてくれよもういっそ!!!」


「いえいえ、この0っていうのが重要で、一応レイジさんは魔法の使用は出来るって意味になるんですよ。0とすら記載がない場合魔法の発動すらできないです」


「な、なるほど、つまり一応魔法は使えるってことなのか?」


「そうなります!」


「じゃあ、その下の……なんだこれ、文字化けしてて読めないぞ」


「うーん、これは『――――――』……あ、禁則事項ですね」


「……そうか。まぁ、この辺りもダンジョン攻略を進めればわかったりする……のか?」


「はい! 多分!」


「多分……」


「その下の【聖人】Lv3なんですけど、これすっごいことなんですよ! さっきもちらりとお話ししましたけど、Lvには大きな意味があるんです! 具体的にはですね……」


 リィンが説明してくれたことをまとめると、以下になる。


Lv0……一応使用できる。たくさん居る。

Lv1……それなりに使用できる。そこそこ居る。

Lv2……達人レベルで使用できる(スキルが発現する)。滅多に居ない。

Lv3……伝説級に使用できる。ほぼ存在しない。

★………ついてると凄い。たくさんついてるともっと凄い。


 という、割かしざっくりとした説明だったが、なんとなく理解できた。


「つまりアレか、俺は伝説級の聖人ってことか……?」


「そうなんです! それも★がみっつもあるんですよ! 聖人の才能バリバリです!」


 こいつ、ちょくちょく言葉選び古いな。


「で、伝説級の聖人って何ができるの?」


「……さぁ?」


 やっぱりこいつ駄目だ。


「……まぁそれはいいとして……格闘って、つまり素手での戦い、ってことか? Lv2って達人級なんだろ……? 俺にそんな才能が……?」


 自慢じゃないが、日本でも素手での喧嘩なんてしたことがない。


「いや、それとも、この世界に転生したから芽生えた才能、とか?」


「いえ、これは魂に刻まれた情報なので、元居た世界で生きていたころからレイジさんには格闘の才能があったってことですね!」


「……そうなのか」


 現代日本で空手とかやってたら大成したのか……?

 なんか複雑な気分。


「ていうか、ステゴロの才能……しかも達人級……」


 やっぱり複雑な気分。


 でも、まぁ、何の才能もないよりはこの世界で役に立ちそうな才能が一つくらいあってよかったとみるべきか――


 俺は複雑な気持ちを抱えながら、ふと、窓の外を見ると、ずいぶん深い時間のようだ。月が傾き始めていた。


「そんなわけで、レイジさんはステゴロでこの世界を生き残っていってくださいね!」


「……いや、まぁ……それしかできないならそうするしかないけどさ……」


「うんうん、前向きなことはいいですよ! ではっ、私は帰りますね!」


「……あぁ、わかった。助かった。ありがとう」


「いえいえ! また何かあったら呼んでください! ――私は、いつでもあなたを見守っていますよ」


 最後に、そんな、女神っぽいことを言って、リィンは光とともに消え失せた。


「……迷宮探索、ね。明日、アリスに相談してみるか……」


 そう呟いて俺は、ベッドに横になった。


「くぁ……さて、寝るか……」


 目を瞑り、大きくため息をついて――


「レイジッ!! おるか!?」


 ――――まだ、今日を終わらせることが出来ないのかと、また深くため息をついたのだった。

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