16 迷宮探索Ⅲ
「ん……」
通路に入ってから3時間強。
俺たちはやっとその隠された通路の出口に差し掛かっていた。
「奥は、明るいみたいだな」
通路の終わり、四角く切り取られた光が、こちらまで差してきている。
おかげで、奥の様子は判然としない。
「眩しいなの……」
その光に向かって歩いていく。
(……魔物じゃないんだけど……なんだ? この反応……)
警戒を解かず、俺は籠手を構えたまま歩く。
奥から大きな魔力反応1つと……ものすごくデカい何かの反応が3つある。
なにがしかの機械音が絶えず鳴り響いてきている。
「何か居る……のは間違いない。結構大きい魔力反応だ。魔物じゃ……ない? か? 一応戦闘準備を」
「了解」
「わかったなの!」
そして、俺たちは通路を抜け――――
「ん? 人間? なんだこんな場所に」
「!? ロック王!?」
――――……捜索対象を見つけた。
「王!? こいつが!?」
油まみれの作業着のようなものを着た子供が、広々とした空間の中心に立っていた。
クレインと同じ金色の長い髪の毛を、三つ編みにして後ろに垂らしており、左腕に肩まで覆う甲冑のようなものを装着している。
付近にはテントが張られ、焚火の跡があり、さまざまな工具が散らばっていた。
なんというか、生活感が凄い。
「初対面の相手に"こいつ"とはずいぶんふてぇ人間だなあ、おい。……ぁん? いや、お前人間じゃねぇな。なんとなく懐かしい気配だが……」
「ろ、ロック王! ご無事だったのですね!」
「ん……お前、ダイモンじゃねぇか。どうしたこんな迷宮の深くで。11層だぞ、ここ」
「それはこちらのセリフです! 王こそこんなところで何を!?」
「あぁん? なにをってそりゃこの機械を……あ、いや、俺ぁマシナーズハートを探しに来たんだったか……。忘れてたぜ」
そう言いながらロック・アイゼン――機王が、大広間の隅を親指で指さした。
俺は初めてそちらに視線を向ける――と
「なっ……んだこれ!?」
そこには
「きょ、巨大ロボ!?」
巨大ロボが鎮座していた。
立ち上がれば体長は20mほどはあるだろうか。今は片膝をつくような体制だ。
白を基調としたその姿はまさに巨大ロボ。
ところどころに赤と青のラインが入っている。
2つの瞳には光が灯っておらず、その機体が稼働していないことの証明になっていた。
「我々は王の探索に来たのです! 王が迷宮に潜ってから2ヶ月経っているんですよ!? 国はてんやわんやです!」
「ああ? おぉ……そんな経ってたのか。いけねぇな、機械いじり始めるとつい時間を忘れちまう」
がはは、と悪びれず笑って、機王が頭を掻く。
「それに、この巨大な自動人形は……?」
「おぉ! それよそれ! 見ろよこいつ。とんでもねぇ技術力で造られてやがる! この迷宮内で造られたパーツがここに送られて、どんどん勝手に組みあがっていってるみてぇだ」
きらきらと子供の様に目を輝かせて、王が巨大ロボの足をバンバンと叩いた。
「そんでよぉ。動かねぇかと思っていろいろ弄ってる間に……ま、時間がたっちまったってわけだな!」
「たっちまったわけだな……じゃないですよ! 王! 今すぐ国に戻ってください!」
「あー……ま、そうだな。まだマシナーズハートも見つけちゃいねぇが……ま、あんまり国を開けるのもよくねぇか……」
そして、思い出したように
「……んで? お前は何なんだ?」
巨大ロボに近づいてあれこれ眺めていた俺に水を向けて、ロック王が言う。
「こいつ……じゃなくて、この方は、レイジ。キリバレイジ殿です。王の捜索を請け負ってくれたんですよ」
「なんで人間が俺の捜索を請け負うんだ? って、人間じゃねぇんだったな……んー、どっかで感じたことのある気配だな……」
「あぁ、それはたぶん……」
言い終わらぬうちに、俺の影からアリスがぴょん、と飛び出した。
「久しいの、ロック・アイゼン。コレはわしの眷属。つまり吸血鬼じゃ」
「げェ、賢王!? な、なんでこんな奴を!? お、おまえ、ダイモン!? こんなバケモノ国に入れんじゃねぇよ!?」
「え……王と賢王は旧知なのでは……?」
「あぁ! よく知ってらぁ! 俺ぁこいつにひどい目に遭わされたことがあンだよ!」
あとずさり、戦々恐々といった体でアリスから距離を置く機王。
「ふん。あれは正当防衛なのじゃ。あの時の言葉、忘れたとは言わせぬぞ」
「あの時の言葉?」
オウム返しする俺。
「命を助けてもらう代わりに、一度だけ何でも言うことを聞く、とな」
「ち……覚えてやがったか。あーあー、なんだよ。その為に迷宮くんだりまで潜ってきたってのか?」
「いや、迷宮に侵入できた時点で目的はほとんど達成出来ておるのでな。命令権はまた別で使うことにするのじゃ」
「くっそ! 誰だよこいつに迷宮進入の許可だしたヤツあ!」
「貴方の息子ですよ……」
「クレインのヤロー……」
地団太を踏む機王。
そうしていると、まるきり子供だ。
「んで、何が目的なんだ?」
「迷宮の踏破じゃ」
「はァ? わかってんだろ、賢王よォ。聖人の門がある限り迷宮の最奥には俺達でも到達できねぇってよ」
「じゃからここに聖人がおるのじゃ」
「ァん?」
そう言って俺の方を見る機王。
「ぁー……? ぅお!? なんだこいつ!?」
そして、俺の魔力を探り、驚いたような声を上げた。
ていうか、こいつも魔力を探れるのか。
例の観察する時のポーズをとっている。
男がやっても可愛くないな……。
「魔力と聖力が体内ですげーことになってんぞ……よく弾け飛ばねぇな、おい」
「やっぱり普通は弾け飛ぶんだな……」
「ほーん? 確かに聖人みてぇだな。なるほど? 聖人が居るならあの奥まで行けるなぁ」
ふむふむ、と頷く機王。
その機王を注視して、俺もお返しとばかりに内面を探った。
「アん?」
ロック・アイゼン
Lv152 ドワーフ
【魔法】Lv2
【土魔法】Lv3
【鉄匠】Lv2
【重火器】Lv2
【機械】Lv3
「うぉ、なんだこれ……見たことない才能だらけだ」
「魂魄情報も見られンのかよ。女神の加護も受けてるみてぇだな」
「あぁ。いろいろあってな。この世界を平和にするために動いてる」
「『ヘイワ』だぁ? クレインのやつがよく言ってる言葉だが……」
よくわからん、と首をかしげて、機王。
「ま、俺はなんだって構わねぇよ。お前さんらが迷宮の最奥を目指そうがどうしようがな。俺は世界がどうなろうが機械いじりが出来りゃそれでいい」
「相変わらずよくわからん価値観じゃな……」
「応よ。んで、迷宮探索ついでに俺を探してたってワケか」
「そうです! ですから早く戻りましょう!」
「んー……俺が潜ってから2ヶ月って言ったか?」
「はい! それはもう国は大変なことに……」
「クレインが居るじゃねぇか。政務関連はあいつに全部叩き込んである。問題ない筈だぜ?」
「そのクレインが捜索隊としてこっちに来ているんですよ! 今王都は大臣や執政官だけで回してるんです!」
「あァ? なんでクレインがわざわざ捜索隊になんて参加してんだよ……」
「いや、普通に父親が心配だったからじゃないのか……」
「そうなのか?」
「そうですよ!」
「あー……そいつぁ……」
少し照れくさそうに機王が鼻を掻く。
……なんか、変な人だが、悪い人じゃなさそうだ。
「……ま、2ヶ月も3ヶ月も変わんねぇよな!」
「……はい?」
「つーわけで、最奥まで俺もついていくぜ」
「なにを言ってるんですか!?」
「お前らここまでどのくらいで来た?」
「一週間ほどですが……」
「おー、流石早えな。賢王の眷属か……ま、バケモノの子はバケモノってやつか?」
アリスに振り返り、機王が言う。
「わしらをバケモノ扱いは心底業腹じゃが。まぁ、わしのレイジは優秀じゃからの!」
そう言って、アリスが俺の腕に抱き着いた。
「おーおー、"あの"ブラッドシュタインフェルトの吸血鬼が随分と飼いならされちまって……坊主、何した?」
「いや……特に何もしてないけど……」
「……抱いたか?」
「ぶ!? し、してないよバカ!?」
「れれれ、レイジとはそ、そういうのはまだ早いの!!!ぁ……早いのじゃ!」
「がっははは! 初々しい反応で結構なことだなあ、おい」
からかわれてる……!
「その優秀な聖人殿が居るなら危険はなさそうだな! つーわけで、行こうぜ」
「王! な、なにを……」
「俺本来の目的を果たすんだよ。最奥まで行きゃ……マシナーズハートが見つかる可能性が高い」
「そ……それは、確かに……」
「だろ? それにさっきも言ったが、クレインに政務は全て叩き込んである。あいつは王都に戻ったんだろ?」
「え、ええ。戻りました……」
「だったら国の運営は問題ねえ筈だ」
「そう、ですが……しかし……」
「……お前も見たくねえか? 迷宮の最奥をよ」
「そ、れは……」
「だったら行こうぜ! 迷宮の最奥まで俺と一緒に潜ったって、お前のオヤジにもしっかり伝えてやるからよ!」
「……行きます!」
「おいおい……」
探求者になるのが目的とは言え、簡単に折れすぎだろダイモン……。
「ふむ。こやつがついてくるのは構わんのじゃ?」
「うーん……多分この人大分強いし……」
「ま、そこそこ強いのじゃ」
「だったら……まぁ、平気か……」
「お、話が分かるじゃねぇか。レイジ……つったか? ま、そういうわけなら、お前たちが迷宮の最奥まで行くことを機王ロック・アイゼンの名に於いて許可してやる。どうだ? 代理じゃなくて、王のお墨付きだぞ。心置きなく潜れるってもんだな、おい」
ばんばん、と身長が足りないため、俺の肩ではなく、腰のあたりを叩く機王。
甲冑のついた手でたたかれてるからめっちゃ痛い。
「痛い痛い……。それで……このロボットは何なんだ?」
「ロボット? ……あぁ、こいつらか。それがなぁ。俺も見つけてからこっち、ずいぶんといじくりまわしたんだが、全くわからねぇ。分かったのは、迷宮の機構がこの自動人形を造る為に動いてるってことくらいだな。おそらく、上の方で機械がしている作業はこいつのパーツ作りかなんかだな。完成したパーツが全部ここに運ばれてきてる」
「へぇ……」
迷宮の地下で密かに造られる巨大ロボ……。
確かに日本人が好きそうなシチュエーションだ。
……俺も好きだ。
「動くのか?」
「分からねぇ」
「そっか……」
乗ってみたい……。
「とりあえず暫くいじくりまわしてよくわからなかったからな。また今度調査団を派遣しようと思ってる」
「それがいいかもな」
動いたり乗れたりするのなら……いいなあ、と思う俺なのだった。
「じゃ、行くか」
そう言って、機王がキャンプの撤収を始める。
俺達もそれを手伝い、その隠された大広間を後にした。
こうして、機王ロック・アイゼンが俺たちの迷宮探索のメンバーに加わった。
機王の見た目のイメージは、某・鋼のです。
巨大ロボは動くのか否か……乞うご期待!
次話も明日、同じ時間に投稿いたします。
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