15 迷宮探索Ⅱ
迷宮探索5日目。
機械の迷宮、第9層。
俺たちは2日かけて、7層から9層まで降りて来ていた。
「ミリィ、ダイモン! 下がれ! 正面500m、カブトムシが3匹!」
「はいなの!」
「分かった! 援護は!?」
「必要ない!」
籠手に魔力を通し、構える。
ブンブンと羽音を喧しい羽音を響かせ、カブトムシの魔物……ギガントビートルの亜種が、その巨体で飛来してくる。
正面に1、左右上方から1ずつ。
厄介なのは、やつらが飛んでいることだ。
俺には、遠距離攻撃の手段がない。だから、空にいる敵にも、どうやってか接近しないといけない。
「――っ!」
息を吐いて、真正面の魔物の頭を蹴りつける。
とんでもなく硬い甲殻だ。一撃では破壊できない。
角を振り上げ、頭を踏みつけた俺を貫こうとする魔物。
しっかりと振り上げられた角を手で掴み、その勢いを利用してぐるりと空中で縦回転する。
着地し、地面にしっかりと足をつけ、角をつかんだままの魔物を――
「おぉおらァあああ!!」
――力の限り振り回した。
上空の2匹に鈍器の様にぶち当てる。
威力が足らず、致命傷は与えられないが、幾らかひるませることに成功した。
掴んでいる角を手前に引いて、相対速度を高めた拳をそのまま顔面に突き刺す。
フォームはめちゃくちゃだが、しっかりと正拳突きで一匹目を絶命させて、その死骸を右の魔物に投げ飛ばした。
高度を上げて、死骸を回避する魔物。
反対側に跳んで、比較的柔らかい腹に突きあげた腕を叩き込む。
「昇〇拳!」
色々とギリギリな技名を叫んで、二匹目も絶命させる。
ビクビクと魔物の体が痙攣し、そのまま重力に従って地に落ち始める。
腕を引き抜いて、硬い甲殻を蹴り飛ばし三角跳び。
「からの! 竜巻旋〇脚!!」
遠心力を利用し、ぐるぐると回転しながら、足刀を最後の一匹にぶち当てた。
が、浅い……威力が足りない。
甲殻にヒビを入れるにとどまった。
弾かれ、勢いよく吹き飛ばされる。
「おぉお!?」
立っていた足場から、遠く弾き飛ばされ、体に浮遊感。
まずい、落ちる!?
慌てて魔力を使って空を蹴る。
壁蹴りの要領で何度か空を蹴って、元居た足場に飛び降りた。
「あぶね……。ここだとあんまり派手に飛んだり跳ねたりできないな……」
ぎぎぎぎ、と耳障りな鳴き声を上げて、角を突き立てんと飛来する魔物に、カウンターの掌底を叩き込み、魔力を通した。
バァン! と内側から爆ぜ、中身をぶちまけて絶命する魔物。
殲滅完了だ。
「お兄ちゃん、またぐろぐろなの……」
ぐしぐし、とタオルで俺の顔を拭きながらミリィ。
「さっきのは……スキルか?」
ダイモンがそう尋ねてくる。
「スキル?」
「跳びながら撃ったアッパーと、ぐるぐる回りながらする蹴り」
「あー……ノっちゃって言っただけだ。すまん、忘れてくれ……」
スキルではない。断じて。
出来そうだからやってみただけだ。
本当に出来るとは思わなかったけど。
「いや……そうなのか? なかなかにエキセントリックな動きだったから、レイジのスキルなのかと」
「あー、いや、俺はまだスキル発現してないからな」
「そうなのか!? あれだけ戦えるなら既にスキル持ちなのかと……。才能レベルは2以上あるんだろ?」
「あぁ。格闘の才能はLv2だな」
『ま、そのうち発現するのじゃ』
「そういうもの?」
『うむ。気づいたら出来るようになっておる』
「ふぅん……」
カッコいいやつがいいな……。
波〇拳は出せそうにないけど。
――――――
迷宮探索7日目。
機械の迷宮、第11層。
一週間かけ、俺たちは未探索の部分のある11層まで降りて来た。
「本当に、11層まで……こんな簡単に……」
11層に足を踏み入れた瞬間、ダイモンが感慨深そうにそう呟いた。
「階層ボスもいないしな。ただ降りてくるだけなら簡単だろ?」
「いや、そんなことはない。道中の魔物も……レイジの言った通りだ。あんなに強い魔物、地上では見たことが無い」
それに、と続ける。
「11層といえば、ベテラン探求者達が大人数で、しっかり計画を立てて、万全の準備を整えてから挑む深淵だ。……少なくとも、お前たちみたいに散歩気分で来るようなところじゃない」
「別に散歩気分なつもりはないんだけど……」
魔物は厄介だし、何より道が入り組みまくってるのが厄介だ。
ミリィのマッピングの精度に再度感謝する。
『ん……?』
「どうした、アリス?」
『……いや、気のせいかもしれぬ、が……』
「なんだ?」
『この壁、おかしくないのじゃ?』
「ん……?」
アリスに言われて、俺は真横を向く。
そこには何の変哲もない壁があるだけだ。
何かがぶつかったのか、中ほどが大きくひび割れて欠けている
魔力の流れも視てみるが、特におかしなところはない。
「……変か? 普通の……なんだこれ、鉄か? 鉄の壁にしか見えないけど」
『いや、やはりおかしいのじゃ。レイジ、迷宮の壁の特徴は?』
「え? なんだよ急に。ええっと、迷宮の壁はそれそのものが資源で出来ていて、無限に採掘できる……か?」
『そうじゃ。なぜ無限に採掘できる?』
「なぜ、ってそりゃ、再生するから……ん!?」
『そうじゃ。この壁、欠けておるのじゃ』
「欠けてるのに、再生してない……?」
「ここだけ壁が汚いねー」
頭の上からミリィ。
「言われてみれば、確かに違和感があるな……。壊すか」
「どうやってだ?」
「こうや――ッてェ!」
流麗なフォームで真正面から正拳突きを壁の中心に叩き込む。
ひび割れのど真ん中に突き刺さった正拳突きは、そのまま壁をぶち破り……。
「隠し通路……、か?」
斜め下方の暗闇に続く、スロープが姿を現した。
どこまで続いているのか。闇が深く、その奥は伺い知れない。
「素手で鉄の壁を吹き飛ばすのは……非常識極まりないぞ……」
暗闇を覗き込みながらダイモン。
たいまつを掲げて奥を照らしているが、やはり、下に下に続いていくスロープがあるだけだ。
「大分深いな……。下層に繋がってるのか?」
ダイモンがミリィから受け取った地図を見ながら言う。
「うーん、たぶんちがうなの。上階にはこの方向は壁だけだったの」
マッピング担当のミリィがそう指摘した。
「凄いな、ミリィ。そんなことまで覚えてるのか?」
「おぼえてるよー?」
「流石だ。あとで撫でてやろう」
「わあい!」
きゃっきゃ、と俺の上で体を揺らすミリィ。
バックパックの重量と併せて、少し体がふらついた。
「どうする、レイジ。降りるか?」
「そうだな……」
空間の奥に向かって『遠見』を放つ。
闇の奥から反応は返ってこない。
少なくとも俺が探知できる範囲、3キロ以上、このスロープは続いているようだ。
「いこう」
「分かった」
「はーい」
俺たちは闇に足を踏み入れた。
道幅は2mほど。天井も低く、今はミリィも俺の頭の上から降りて歩いて居る。
左右は壁に囲まれており、圧迫感がある。
たいまつで先を照らさないと、数メートル先も見えない。
ひたすらに奥まで続いていく細い通路を、警戒しながら歩く。
「……どこに繋がってるんだ……?」
「少なくとも上階にはない空間だろうな。……普通に行き止まりの可能性もあるけど」
「わざわざ道を隠しておいて、行き止まりなんて、そんなことあるのか?」
「うーん、造ったやつが造ったやつだからな、この迷宮……」
「迷宮を造ったやつって……知り合いなのか?」
「直接の知り合いってワケじゃないんだけど……まぁ、先代の聖人だな」
「あぁ、それはきいたことがある。そうか、行き止まりの可能性もあるんだな」
横道に入って2時間ほど。
まだ道は続いている。
魔物の反応はない。風景も変わらない。
ただただ緩やかに下っていくだけだ。
『遠見』は何も反応を示さない。
「ん……? いや……」
俺の遠見の範囲のギリギリ。
3キロ先に、大きな空間の反応がある。
「そろそろ、通路終わりみたいだ。先に空間がある」
「わかったなの」
「ああ」
2人が、各々戦闘の準備をする。
ミリィは盾を、ダイモンは銃をとりだした。
「よし。警戒しながら行こう」
俺も籠手を装着して、気を引き締める。
そして、闇の先を見据え、俺たちは再び歩き始めた。
今日は21時にもう一話更新です。
相変わらず迷宮の中の描写が難しいです……。
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