表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/149

02 ファンタズマゴリアあれこれ2

説明回その2です。

 ――騒がしい夕食を終え、俺は再び図書室に戻ってきていた。

 アリスは何を作ってもうまいうまいと言って食べるので、意外と食事を作るのは苦ではない。

 寧ろ、俺の適当な料理で喜んでくれているので、作り甲斐があるくらいだ。


「よし、次は歴史書だな。えぇと……『ヘイムガルド建国記』……これはどうでもいいな。こっちは……『聖典』……? あぁ、聖書みたいなもんか……。これも知りたいこととは違う……と」


 あれこれと本を検分しながら必要な情報を拾っていく。


「えぇっと、なになに……『ファンタズマゴリアを歩く』……?」


 ガイドブック的な何かだった。

 興味はあるが、今はいい。


(俺が求めてるのは年表的な何かなんだけどな……過去にも聖人が現れたことがあるってアリスが言っていたし、その辺りのことが調べられれば、俺のすべきこともわかるかもしれない)


 ……ん?


(いや、まて。……俺のすべきこと(・・・・・・・)……?)


 ファンタズマゴリアに来てからこっち、何も疑うことなくあの女神の言っていた「世界を救え」という言葉に従おうと考えていたが――


(――なんでそんな風に思うんだ? 縁も所縁もないこの世界を救う? せっかく命を拾ったのに……?)


別に、そんなことしなくても――例えば、普通に働いて普通にのんびりと生きていっても、かまわないんじゃないか? いや、そもそも、今こうして生きているんだ。元の世界に帰ることだって……。


(――まるで、何かに思考を誘導されてるみたいに――……ッ!?)


 ――――キィィィン――――


 突然の耳鳴りと頭痛。

 思考が乱れる。


(――あ、れ……?なに、を考えていたっけ……?)


 頭がぼうっとする。


(えぇ、と……あぁ、そうだ、歴史年表を探していたんだっけ……)


 目頭を指で揉むと、俺は本の検分に戻る。



――――――


 暫く年表を探してみたが、特にそういったものは見つからなかった。

 だが、民間伝承や、神話の類ならいくつか記述のある本を見つけた。

 

 ――曰く、この世界には7人の王と3柱の神が居るらしい。

 居る、というのは、伝説上の存在ではなく、今現在も存在している、という意味だ。

 称号のようなもの、だろうか。


7の王とはつまり――


 人王――現在のヘイムガルドを治める、人族の王。

 獣王――現在のガイゼンシルトを治める、亜人族の王。

 法王――宗教国家リィン皇国の元首。

 機王――アイゼンガルドを治めるドワーフの王。

 龍王――絶海に浮かぶ孤島を治める、龍族の王。

 魔王――魔人領を治める、魔族の王。

 賢王――に関しては記載が少なく、よくわからなかった。


 この7つが、時代に『必ず』存在する7王。

 7王が欠けることは無いし、7が8になったりもしない。


 そして3の神。

 剣神、龍神、魔神――。

 この3の神は7王と違い、空席の場合もあり、歴史に稀に登場するが、何をしているのかも不明。


 ただし、それぞれ滅茶滅茶に強く、剣神は剣の一振りで山を断ち、龍神はそのブレスで地形を変え、魔神はその魔力で海を干上がらせるという。


(いや、誇張表現……だよね?)


 この世界の生物の強さの基準がわからない以上、あながち誇張とも言えないのが怖い。


(……ん? あれ……? そういえば、7王は時代に必ず存在する、んだよな? ……じゃあ、魔王が討伐されたっていうのはおかしくないか……?)


 もっと言えば、戦争に勝った人間側が魔人領を治める……ことになったりするんじゃないのか?

 だとしたら、魔王の席は空席のままになる、ハズだ。

 そうなるならば、本の記述と矛盾するが……。


(この辺はアリスに尋ねてみるか。物知りらしいし、何か知ってるかもしれない)


 そう思い立つと、俺はまだ読んでいない本を抱えて、アリスの部屋に向かった。


「アリス、居るか?」


「なんなのじゃー?」


 扉をノックして声をかけると、中からアリスの間延びした返事が聞こえた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「おお、入るが良いのじゃー」


「おう、じゃあ入る……ぞ!?」


ドアを開けて部屋に入ると、アリスが全裸でベッドに横になっていた。


「ぶっ!! なんて格好してるんだ!?」


「んん? なにがじゃ? ……おぉ! わしの体が気になるのか! ククッ、この助平め!」


「そりゃ気になるだろ! 服着ろ服!」


「ふふん、わしの体に隠す必要のある恥ずかしい部分なぞ一つもないのじゃ! ほれぃ、みるがいい! このばつぐんのプロポーション!」


「いや、洗濯板じゃん」


「…………ぐすん」


 泣きの入ったアリスを宥めすかして、服を着せる。


「それで、なんなのじゃ、聞きたいことって」


「あぁ、そうだ……。前にアリス、魔王が討伐されたって言ってただろ?」


「そうじゃな。それがどうかしたのか?」


「いやな、本を読んでたら7王っていうのは必ず世界に7人存在してるんだろ? だったら魔王が消えると不都合があるんじゃないのか?」


「ん? 魔王が死んだなら次の魔王が生まれるだけじゃろ?」


「……は? いやいや、討伐されたんだろ? 戦争で。魔王が生まれるって、そんなこと人間たちが許さないだろ?」


「許さないもなにもないじゃろ。土台、許さないからってどうするんじゃ?」


「いや、そりゃ人が魔人領を統治して、次の魔王が生まれないようにする、とか……」


「??? なんでそんなことするんじゃ?」


「え? いや、だって戦争してたんだろ? だったら領地を奪ったりするだろ、普通」


「領地を奪う? なんのためにじゃ?」


「なんのためって……いや、じゃあ逆になんで戦争してたんだよ?」


「そりゃ、勇者は魔王を討伐するのが役割だからじゃろ」


 話がかみ合わない。

 違和感がある。


「は? ……いや、魔王討伐しても次の魔王が生まれるんだろ? それなら何のために討伐するんだよ。平和のために、じゃないのか?」


そういうと、心底「わからない」というようにキョトンと――


「レイジ。その、『ヘイワ』……?ってなんじゃ?」


――アリスは無邪気な瞳で俺の目を見ながらそう言った。


「――――は?」


 息が、詰まる。


「いや、じゃから……そのヘイワってなんなのじゃ?」


『平和』に類する単語がこの世界の言葉にないのか? うまく言葉が翻訳されていないらしい。


「いやっ、だから……! えっと、そうだな……争いのない状態……ってことか?」


「その状態をヘイワと呼ぶのか……ふむ。だとして、なぜその状態のために勇者が魔王を討伐することになるんじゃ?」


「だーかーら! 魔族と人族は争ってるんだろ? 魔王が魔物を人族にけしかけて争いを起こしてるんだろ!?」


「何を言っとるんじゃ。魔王は魔物を人族にけしかけてなぞおらん。そもそも人族と魔族以外の種族じゃって常に争っておるじゃろ」


「……は?」


 絶句した。


「んん?」


「じゃあこの世界は常に戦争してる……ってこと、なのか?」


何を――


「大きな戦争はそんなにはないの。でも小競り合いや殺し合い程度なら茶飯事じゃの」


「何のために……?」


「争うことに理由がいるのか?」


 何を――言ってる?


 混乱していた。

 『闘争に理由が必要か』――そんな問い、ぶつけられるとは思っていなかった。

 答えるのなら、俺の答えは是だ。理由なき闘争に意味なんてない。

 闘争は手段であって、目的にはならないはずだ。

 でも、アリスの口ぶりだとこの世界の住人は――


「じゃあ……それじゃあ……理由もなく、意味もなく、ただ争うために、殺しあうために、そうしているっていうのか?」


「その通りじゃ」


 意味もなく、理由もなく、ただ闘争そのものを目的に、争い、命を奪い合っている――らしい。


「それ、は……アリスが個人的にそう考えてる、って話じゃ、ないよな?」


「ふむ? 人族も獣族も魔族も龍族もドワーフ共も、吸血鬼に至るまで、みなそう考えておると思うのじゃ」


 ――なんて。


「争いに理由が必要じゃなんて、レイジはおかしなことを言うのぅ」


 ――――ここは、なんて、狂った世界なんだ。


 『価値観が違う』――そんな言葉で片付けられないほどの隔絶。


(だとしたら……俺が呼ばれた意味……。俺のなすべきこと……それは――)


 この世界で、俺のすべきことが、少しだけわかった気がする――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ