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14 迷宮探索Ⅰ

クレインに案内され、俺たちは機械迷宮に到着した。

後ろを自動人形オートマタ達が、何も言わずについてくる。

各々が荷馬車を引き、食料や必要な物資などを運んでいる。


「迷宮の中に、中継地点を設置します。食料や必需品の補充はそこで行ってください」


クレインがそう言う。

機械迷宮は、縦に深かった人の迷宮と違い、ひたすら横に広いらしい。

縦の深さは30層。

15層に『聖人の門』があり、それより下は未探索。

魔物はとにかく硬い魔物が多いらしい。

あのカブトムシの亜種や、俺が踏み潰した亀の魔物の亜種が確認されているらしい。


そして、最大の特徴は。


「凄いな、これ……」


迷宮に足を踏み入れ、辺りを見回す俺。


「なぁにこれ?」

「機械じゃな」


様々な機械がひしめいていることだ。

クレーンのようなものが迷宮の中で機械音を響かせ動き、ベルトコンベアが何かを運んでいる。

これらはこの迷宮にもともとあるもので、ドワーフたちが手を加えたものではないらしい。

なぜ存在し、何をしているのか不明。

だが、とにかくこの迷宮の何かを維持するために存在していることだけは確からしい。

壊すと、いつの間にか再生され、再び作業を始める。

主不在、目的不明の工場。


それが、機械迷宮・マシノファンタズム。



――――――



「では、5層に自動人形オートマタ達を駐屯させ、中継地点とします。王の足取りは、そこから途絶えています。おそらく、6層以下にいるものだと」

「分かった。虱潰し……は無理そうだな。広すぎる」


クレインにそう言って、ぐるりと首を巡らせる。

高い高い天井に届かんと、機械がその首を伸ばし、何かを運び、何かを造っている。

鉄製の足場のようなものが立体的に幾重にも交差して、あちらこちらに伸びていき、道が縦横無尽に広がっている。


「とにかく6層まで降りよう。そこからは……俺の『遠見』で探知しながら進んでいこう」

「わかったのじゃ」

「了解なの!」

「分かった」


同行する皆がそれぞれに頷き、気を引き締める。

機王の探索は全くの手探り。

この迷宮というにはあまりにも整然とした、しかし、果てしなく広がっていく空間を、ひたすら探すしかない。


「では、私はこれで。……よろしくお願いいたします。レイジ殿」

「ああ、任せろ」


深く頭を下げるクレインに頷いて、俺たちは本格的に迷宮の探索に乗り出した。



――――――



迷宮捜索3日目。


俺たちが迷宮に入って3日。

今は6層をひたすら探索しているところだ。

今のところ機王の姿どころか、手掛かりすらつかめていない。


「こんな近代的な工場なのに、出てくる魔物はファンタジーなんだよなぁ……」


真正面から突っ込んできたデカいカブトムシの亜種の頭を籠手ガントレットの一撃で粉砕し、俺はごちる。


『自然発生する魔物じゃからの。ここで製造されたナニかも恐らくおるのじゃ』

「機械っぽい魔物も出てくるってことか?」

『そうじゃの。……どんなものかはわからぬが』

「ふぅん」

「お兄ちゃん、そろそろごはんにするなの?」


スプラッターな魔物の死骸を前に、にこにことミリィが言う。

この子も大分慣れて来たらしい。


「ちょっと離れた場所にしよう。ちょっとここは足場が狭いからな」

「わかったなの!」


よじよじと俺の背にのぼり、背負ったバックパックに腰かけるミリィ。

この迷宮の足場は狭く、はるか下には闇が広がっている。

その闇に、ミリィが落ちないように俺の背負ったバックパックの上をミリィの定位置としていた。

いそいそと手に持った紙に何かを書きつけている。

マッピングだ。この迷宮に入ってから、ミリィの【冒険】の才能が遺憾なく発揮されていた。

完璧な精度の地図をミリィが描きあげていき、その地図にない場所を探索するようにしている。


「レイジ、次はどっちに行く?」


ダイモンも、俺が魔物を斃す度にドン引きするのは飽きたのか、平然と聞いてくる。

肩に担いだ銃を担ぎ直して、すこし息が切れている。

どうやら、体力はないらしい。

俺は眼下に広がる闇を見下ろし、逡巡する。


「そうだな……今日は7層まで降りてみるか」

「7層に? でも6層はまだ全然探索しきってないぞ?」

「うーん。なんとなくなんだけど、この階層には居ない気がするんだよな……」

「そうなの?」

「あぁ。確か機王の目的って……」

古代遺物アーティファクト。マシナーズハートと呼ばれるものだ」

「そう。古代遺物アーティファクトなんだよな。だったら、もっと深いところ……探索されてない階層に行きそうなんだよな」

「確かに……」


顎に手を当てて、頷くダイモン。


「15層までは大体探索されてるんだろ? だったら、どんどん深く潜っていった方がいい気がする。もちろんある程度は横にも探索するけど」

『じゃが、聖人の門より下には行けぬのじゃ』

「そうなんだよなぁ……」


俺にしか開けない扉。

それより深くに潜っていないことだけは確かだろう。


「ダイモン」

「なんだ?」

「その古代遺物アーティファクト……マシナーズハート? っていうのは何処にあるか、とかわかるのか?」

「分かっていたら王は行方不明になどなってない。……けど、そうだな、10層より下なのは間違いない」

「どうしてわかる?」

「単純に探索されつくしていない範囲がそれ以下の階層にしかないからだ」

「なるほどな。逆に言えば11層以下は、未探索の範囲が多いってことか……?」

「あぁ。魔物が強くなるし、道も複雑だ。この迷宮を知り尽くしていると言ってもいい王が迷うなら、その辺りだろうな」


だが、と暗い声を出してダイモンが何事かを言おうとして、はっとし、口をつぐむ。


「ん? なんだ?」

「いや……なんでもない」

「言ってくれ。今はどんな情報でも欲しいんだ」

「……不敬だからな」

「何がだ?」

「……もし……もしも王が11層以下に降りて行ったのなら……もう、既に王は……」


目を逸らし、強く拳を握りこんで、ダイモンが絞り出すように言った。


基本的に迷宮の魔物は、階層を下れば下るほど強くなる。


つまり、そういうことだろう。


王が失踪して2ヶ月。

その可能性も……視野には入れるべきだ。


「厳しことを言うようだけど、ダイモン……。最悪の可能性は、想定しておくべきだ」

「そう……だよな」


ここは迷宮。


日々多くの者が潜り……当然、その全てが元気に地上に帰ってくるわけではない。


俺は人の迷宮で、その現実を……見たことがある。

魔物ミノタウロスに蹂躙される探求者シーカーたち。


光の粒子になり、天に昇って行った魂たちを。


「お兄ちゃん」


知らず知らず、拳を握りしめていたようだ。

喰い込んだ爪が手のひらを傷つけ、血が滲んでいる。

ミリィにぽんぽんと頭を叩かれて、はっとした。


「いや……でも、信じよう。機王は生きてる。そして、俺たちは必ず機王を連れ戻す。……俺たちはそのためにここにいる」

「……そうだな。……その……あ、ありがとうレイジ」


照れくさそうにそっぽを向きながら、ダイモンがぼそりと言った。


「……お前が礼を言うなんて意外だった」

「俺だって、この3日……何もしてないとはいえ、お前の戦いを見て来たんだ。思った以上だった。ここは……迷宮は恐ろしいところだ。だから……すこし、弱気になっていたかもしれない」

「そうか……」

「でも……だからこそ、お前の凄さが分かる。自分の無力も痛感した。尊敬できる相手には……俺だって礼くらい言う」

「そっか。大丈夫だ。俺に、任せとけ」


ぽん、と肩を叩く。

その言葉は、もしかしたら自分に向けていたのかもしれない。


俺も知らずのうちに、弱気になっていた。


だが、信じよう。

そして、必ず目的を果たそう。


俺たちはそれ以上言葉を交わすことなく、休憩できるスペースを探して歩き出した。

明日も同じ時間に一話更新です。

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